ナイツ塙、芸人だけでは食えなかった下積み時代 辛かった夜勤バイトも財産に「隙間時間でネタ作り」

お笑いコンビ・ナイツの塙宣之(45)が映画監督に初挑戦した。自身が会長を務める漫才協会を描くドキュメンタリー『漫才協会 THE MOVIE~舞台の上の懲りない面々~』(3月1日公開)だ。塙が、食えなかった無名時代、漫才協会改革への思いを語った。

インタビューに応じたナイツの塙宣之【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたナイツの塙宣之【写真:ENCOUNT編集部】

ドキュメンタリーで映画監督に初挑戦

 お笑いコンビ・ナイツの塙宣之(45)が映画監督に初挑戦した。自身が会長を務める漫才協会を描くドキュメンタリー『漫才協会 THE MOVIE~舞台の上の懲りない面々~』(3月1日公開)だ。塙が、食えなかった無名時代、漫才協会改革への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

 本作は、2022年11月、電車事故で右腕を切断しながらも、舞台復帰に向けてピン芸人としてリハビリに励む大空遊平(72)、「M-1グランプリ」初戦突破に手応えを感じつつ、相方・えざお(23年9月死去、40歳)の突然の病死に直面したカントリーズ・福田純一(41)ら芸人たちの悲喜こもごもが描かれる。テレビではあまり見ない芸人の知られざる魅力がいっぱいだ。ナレーションはナイツ・土屋伸之、俳優の小泉今日子が務める。

 製作サイドから監督のオファーを受けたが、最初は乗り気ではなかったのだという。

「経験がなかったですし、何をどうしたら、いいのか分からなかったので。それで、インタビューをしながら、まとめていった感じですね。ただ、大きくブレなかったのは漫才協会を宣伝する映画にしたい、ということだけでした」

 それには製作中の23年6月に、漫才協会会長になったことが大きい。漫才協会は1955年、演芸の普及向上、継承などを目的とした「漫才研究会」としてスタート。2005年に一般社団法人化。23年12月現在、124組、215人の芸人が所属。「浅草フランス演芸場東洋館」を活動拠点としている。塙は07年に最年少理事に、15年からは副会長を務めていた。

「吉本興業さんは東京にも劇場を作って、若手が舞台だけで食える環境を作りました。漫才協会の弱さは、東洋館の集客が少ないこと。いっぱいお客さんが入ってくれば、黒字になるし、そうなれば、芸人も舞台だけでメシを食っていける。芸人として、一番うれしいのは、お笑いだけでメシを食えることだと思うんです。僕はバイトを辞められた瞬間が一番うれしかった。後はギャラを20万円もらおうが、200万円もらおうが、大差はないんです」

 塙は大学卒業後の2000年に大学の一つ下の後輩、土屋とナイツを結成するが、8年間は芸人だけでは生活できなかった。

「バイトはいろいろとやりました。コールセンターの夜勤で、ずっと電話を取ったり、コンビニでも働きました。コールセンターで夜10時から朝10時まで働いて、そのまま寝ないで、東洋館で舞台の手伝いをしていた頃はきつかった。夜中1時くらいは本当に眠くて……。この電話が終われば少し寝られるのに、と思うんですけど、全然終わらない。そうなると、こっちの態度も悪くなって、『上司を呼べ』とか言われてしまって、切れないわけです」

 ただ、このつらいバイトも後の大きな財産になった。

「隙間時間があったので、無駄にしたくないと思って、ネタ作りをしていました。今も、そういう感じでバイトしている芸人は結構、多いんです。ホテルの夜間受付なんかは多いですね」

 漫才協会で舞台だけでメシが食えている芸人の数は多くはないという。

「本人が教えてくれないので、そこはよく分からないんですが、例えば、ロケット団の2人は漫才協会の舞台だけではなくて、落語協会の舞台も出演しているので、生活できるんじゃないですかね」

漫才協会の改革に意欲「徒弟制度は悪いものではない」

 漫才協会のトップとしては今、さまざまな改革に着手している。手本にしたいのは、歌舞伎や落語のような伝統芸能だ。

「東洋館を歌舞伎座のような存在にしたいんです。歌舞伎座に足を運ぶ人は、歌舞伎を見に行く。落語もそういうところがあると思います。学校でも『歌舞伎を見に行こう』となったり、県なども『落語家さんを呼びましょう』と声がかかる。『ナイツが見たい』ではなく、『漫才を見たい』となっていけば、漫才協会から誰々を派遣します、ということもできる。テレビでは見たことないけど、実際見たら面白かった、となれば、広がっていく」

 特に同じ笑いの落語には学ぶべき点が多いという。

「落語家さんは漫才師に比べると、圧倒的に数が少ないのですが、ご飯を食べられている。それはなぜかを考えると、真打制度があるんです。前座、二つ目、真打ちとなるわけですけど、真打ちになれば、後援会ができて、独演会などもできる。大相撲も同じところがありますが、伝統というものには、古臭い形式がいっぱいあるのがいいなと思っているんです」

 古きに学んで、新しきを知るという意味では、かつての真打制度の復活、年末に開催している「漫才大会」の強化を考えている。

「真打制度をちゃんと復活させて、漫才協会の看板を作っていきたい。例えば、オキシジェンや新宿カウボーイはいいなと思っている。その真打になると、弟子を取っていいとか、真打披露公演などもできる。そういう式典、儀式みたいなものをバンバン増やしていきたいんです。徒弟制度は悪いものではないので、この文化をなくしてしまうのはイヤだな、と思っているんですよね」

 西の王者・吉本興業には負けたくない、というライバル心があるそうで、東の漫才協会の再興に力を込めた。

□塙宣之(はなわ・のぶゆき) 2000年に土屋とナイツを結成。03年漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。08年にお笑いホープ大賞THE FINAL優勝、NHK新人演芸大賞を受賞。『M-1グランプリ』では08年、09年、10年の3年連続で決勝進出。11年に『THE MANZAI』準優勝。07年6月には史上最年少で漫才協会の理事に就任し、18年からは『M-1グランプリ』の審査員を務める。19年には自身が考える漫才論を書いた書籍『言い訳:関東芸人はなぜM‐1で勝てないのか』出版。落語芸術協会、三遊亭小遊三一門として寄席でも活躍中。平成25年度文化庁芸術祭 大衆芸能部門 優秀賞受賞。第39回浅草芸能大賞 大賞受賞(22年度)。文筆活動やドラマ・舞台でも活躍中。新作の『劇場舎人』(KADOKAWA)も3月1日より発売。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください