現役の薬剤師でギタリスト、異色の28歳宮崎和穂が初の単独公演 発掘したプロデューサーに「私でいいんですか?」

現役・薬剤師のギタリスト、宮崎和穂(28)が3月2日午後6時から横浜市中区の「赤い靴劇場」で初コンサート『the first』を開催する。宮崎は5歳の時からギターを習い、学生時代は横浜交響楽団と競演。今は大手調剤薬局の窓口に立つという異色のキャリアの持ち主だ。

インタビューに応じた宮崎和穂【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた宮崎和穂【写真:ENCOUNT編集部】

大手調剤薬局の窓口に立つ異色キャリア

 現役・薬剤師のギタリスト、宮崎和穂(28)が3月2日午後6時から横浜市中区の「赤い靴劇場」で初コンサート『the first』を開催する。宮崎は5歳の時からギターを習い、学生時代は横浜交響楽団と競演。今は大手調剤薬局の窓口に立つという異色のキャリアの持ち主だ。(取材・文=平辻哲也)

 宮崎は音楽一家の3人姉妹の次女として生まれ、5歳の時から横須賀在住のギタリスト・石田忠氏に師事してきた。小6の時には神奈川新人ギタリストオーディションにて最年少首席合格、高校生の時には横浜交響楽団から演奏のオファーを受けた腕前を持つ。

 しかし、音楽の道は選ばず、帝京大薬学部に進み、卒業後は全国に薬局を展開する会社に就職。難関と言われる薬剤師の国家資格を取り、普段は調剤薬局の窓口に立ち、週末に音楽活動を続けている。

 プロデビューの場は、思いがけずやってきた。荒木一郎・真由子他の音楽プロデュースも手掛ける映画プロデューサーの新田博邦氏が、石田氏の教室の発表会で宮崎の演奏に衝撃を受け、「単独の演奏会をやってみませんか」と声をかけた。新田氏は30年前に15歳だった村治佳織の演奏を聴いた時に、マネジメントをやらせてほしいとお願いしたがかなわなかったという経験があり、その時の思いがよみがえったのだという。

 宮崎は「今は薬剤師として働いているので、『私でいいんですか』と思いました。でも、せっかくなのでお引き受けしました」と控えめだが、師匠・石田氏も「ギターの技術は素晴らしいのですが、自分のことを自慢せず、真摯(しんし)に激しくギターを弾き続けてきました。初リサイタルでは、その才能が多くの皆様の前で明らかになると思います」と楽しみにしている。

 音大に進学しなかったのは、音楽家としての自分の姿に現実味を感じなかったからだという。

「薬剤師になったのは、親の勧めもありました。国家資格を取れば、生活に困ることはないので、音楽は趣味としてやっていければ、と思っていました。今は平日、9時から夜7時まで薬局で働いています。近くに小児科の病院があるので、小さい子の顔を見たり、『お薬飲めました』という声を聴くと、癒やされます」とほほ笑む。

 ギターの練習は帰宅後や週末などに行い、依頼があれば、横浜市のライブハウスなどで演奏をしている。実は昨年、初のコンサートの日時も決まっていたのだが、練習をしすぎて直前に左手の腱鞘(けんしょう)炎が発覚。ドクターストップがかかってしまったのだという。

「長年の蓄積だと思います。5歳の時から演奏を続けていますから。お医者さんからも『練習しすぎると、舞台に立てなくなるので、無理をしないで』と言われてしまいました。今は1時間弾いて、休憩を挟んで、もう1時間という感じで練習しています。私にとって、ギターは大げさに言うと、人生の一部。演奏しないことは考えられないんです」

 尊敬するのは日本と韓国で育ち、世界で活躍するギタリスト、朴葵姫(パク・キュヒ)。「音の出し方、つなぎ方がきれいなので、憧れています。初のコンサートでは、自分が思い描く理想の演奏に技術が近づけ、自分なりに納得できるものができたら」と意気込む。構成・演出を手掛ける新田氏も「和穂さんは、謙虚で穏やかなお嬢さんだけど、ひとたびギターを手にすると怪物のように見えることさえある。きっとすごいコンサートになると思います」と自信を見せた。

 コンサートでは、「無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード」(バッハ)、「バーデンジャズ組曲よりシンプリシタス」(イルマル)、「リブラソナチネよりフォーコ」などクラシックギターの名曲を中心に10曲を予定。石田氏との二重奏も披露する。

 今後は薬剤師とギタリストの二足のわらじを履くのか、と問うと、「両立できたら、とは思いますが、コンサートが終わってから、ゆっくりと考えていきたいですね」と最後まで謙虚な姿勢を崩さなかった。

 コンサート前には、石田氏と新田氏の出会いのきっかけとなった短編映画『残照のかなたに』(マンハッタン国際映画祭 最優秀監督賞受賞)も上映される。同映画では、新田氏は企画・プロデュースし、石田氏が音楽を担当した。

□宮﨑和穂(みやざき・かずほ)1996年1月24日、神奈川県横須賀市生まれ。音楽一家に育ち、5歳の時から石田忠氏に師事し、ギターを習い、2007年、小学6年の時に神奈川新人ギタリストオーディションにて最年少首席合格。他ジュニアギターコンクール・学生ギターコンクール上位入賞。13年、高校3年の時、横浜交響楽団よりオファーを受け、ソリストとしてアランフェス協奏曲を全楽章演奏した。

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