SNSに届いた『チャンピオン失格』『返上しろ』の声、天国と地獄味わった中野たむの復活ロード
まさに天国と地獄を行き来した1年だった。スターダムで史上二人目となる、ワールド・オブ・スターダム王座とワンダー・オブ・スターダム王座の二冠王になったかと思えば、防衛戦の最後の最後で左ひざを負傷し長期欠場へ。落ち込みに落ち込んでいるときに届いた、東京スポーツ社制定プロレス大賞の女子プロレス大賞受賞という吉報。中野たむの心の中は、激しいアップダウンを経験することになった。一時期はSNSをログアウトし、プロレスから離れたたむ。彼女を復活へと駆り立てたものは何だったのか。
思い通りに治療が進まずひざが動かない…『プロレスできない、辞めよう』
まさに天国と地獄を行き来した1年だった。スターダムで史上二人目となる、ワールド・オブ・スターダム王座とワンダー・オブ・スターダム王座の二冠王になったかと思えば、防衛戦の最後の最後で左ひざを負傷し長期欠場へ。落ち込みに落ち込んでいるときに届いた、東京スポーツ社制定プロレス大賞の女子プロレス大賞受賞という吉報。中野たむの心の中は、激しいアップダウンを経験することになった。一時期はSNSをログアウトし、プロレスから離れたたむ。彼女を復活へと駆り立てたものは何だったのか。(取材・文=橋場了吾)
2023年10月8日、ワールド・オブ・スターダム王者の中野たむは、刀羅ナツコの挑戦を受けた。激しい攻防の末、必殺技であるバイオレット・スクリュー・ドライバーで刀羅をリングに叩きつけたその時、左足が巻き込まれる形になってしまった。
「試合の最後の最後ですね、(刀羅が)左ひざの上に乗る形で80キロが落ちてきて……内側に入っちゃうような感じになりました。それで左ひざの内側副じん帯損傷です。完全断裂ではなかったのは不幸中の幸いでしたが、『ぶちぶちぶちっ』っていったんですよ、ひざが。一生懸命草むしりをしているような音がして、これはじん帯が切れたなとぼんやり思いました。ただ意外に冷静で『これが皆が言っているじん帯が切れる音なんだ!』と思ったんですが、少し経つと痛みが来て立ち上がれなくなってしまって。ひざだけだと思ったら、腰の筋挫傷もやっていたんです。これは試合中にやってしまっていたみたいなんですが、アドレナリンが出ていてわからなくて……この影響で持ち上げるときに軸がぶれてしまって、踏ん張りがきかなくなりました」
試合後は『5 STAR GP 2023』覇者の鈴季すずから挑戦を表明され、受諾したたむだったが、結果的に昨年10月中旬から今年2月初旬までの4か月弱を治療に要することになった。
「けがをした直後は、絶対にタイトルマッチに間に合わせてやると思っていたんです。最初の3週間はひざが曲がらないように装具をつけて、ほぼ寝たきりで過ごしていました。装具を外して1週間リハビリをして、タイトルマッチに臨もうと思っていたんですが、いざ装具を外してみると逆にひざが曲がらなくなってしまって。ひざを曲げるのが痛くて痛くて……ここから1週間では絶対に無理と思って、その瞬間にこれまで張りつめていたものがぷつっと切れてしまいました。『プロレスできない、辞めよう』と思ったんですよね……。SNSでも“強い言葉”が来るんですよ、『チャンピオン失格だ』『早く返上しろ』『無責任だ』。弱っているときには(こういう言葉も)耐えられないものがあって、会社に連絡して返上させてもらうことになりました」
スターダムの仲間とファンと一緒にもらった女子プロレス大賞
昨年12月29日、スターダムの両国国技館大会に来場することが発表されたたむ。このときの挨拶には、大きな注目が集まった。
「気持ちが折れてからは、プロレスを見られなくなり、SNSもすべてログアウトしました。そういう中でも、コズエン(COSMIC ANGELS=たむがリーダーを務めるユニット)の仲間は連絡をくれて『たむのいいところ3つ言うね』みたいに元気づけてくれましたね。あとは……WWEに行ってすごい忙しいのに、KAIRI(現カイリ・セイン)は連絡をくれました。試合前から私の様子を心配して気になっていたみたいで、ほかの皆に言えないことは私にだったら何でも話していいよって。あと高橋奈七永が海に連れて行ってくれて、いろいろなアドバイスをくれましたね。
本当、スターダムの皆が引き上げてくれた中で、女子プロレス大賞受賞の知らせを聴いて……。正直すごく悩んだんですよ、欠場中でチャンピオンとしての責任を果たせなかった自分が賞をもらっていいのか。でも、『チャンピオンとしての中野たむ』がいただいた賞とはいえ、それは『スターダム』がいただいた賞なんだなと思ったんです。私を助けてくれる仲間、そして私を応援してくれて待ち続けてくれているファンの皆さんと一緒にもらった賞を、胸を張って受賞して、スターダムに恩返ししていこうと思えるようになったのがリングに戻るきっかけですね」
そして2月4日のエディオンアリーナ大阪第一競技場大会において、中野たむはスターダムのリングに戻ってきた。カードはコズエンのたむと水森由菜が組み、白川未奈&月山和香という元コズエン・現E neXus Vの二人と対戦した。
「(白川がひざを激しく攻めてきて)最悪の相手でしたよ!(笑) けがをしたところで私のプロレスの記憶が止まっていたので怖さはありましたけど、めちゃくちゃ頑張ってトレーニングして追い込みました。ただ、リングに上がって照明を浴びてお客さんの前で試合をするのと道場でスパーリングをしているのは、感覚的に全然違うんです。私的にはまだ50%くらいでしたね」