岸谷五朗&寺脇康文、演劇ユニット結成30周年も「道半ば」 変わらぬ渇望感「最新作を最高傑作に」

俳優の岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット・地球ゴージャスが、今年で結成30周年を迎える。その記念公演『儚き光のラプソディ』が4月28日から5月26日まで東京・明治座で、5月31日から6月9日まで大阪・SkyシアターMBSで上演される。同作は岸谷が作・演出で自らも出演。寺脇は演出補佐を担当した上で出演する。30年間、多彩な俳優を迎えて公演を重ねてきた2人が、作品への思いや現代の演劇文化について語った。

インタビューに応じた岸谷五朗(左)と寺脇康文【写真:冨田味我】
インタビューに応じた岸谷五朗(左)と寺脇康文【写真:冨田味我】

演劇ユニットが結成30周年 記念公演『儚き光のラプソディ』今春上演

 俳優の岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット・地球ゴージャスが、今年で結成30周年を迎える。その記念公演『儚き光のラプソディ』が4月28日から5月26日まで東京・明治座で、5月31日から6月9日まで大阪・SkyシアターMBSで上演される。同作は岸谷が作・演出で自らも出演。寺脇は演出補佐を担当した上で出演する。30年間、多彩な俳優を迎えて公演を重ねてきた2人が、作品への思いや現代の演劇文化について語った。(取材・文=大宮高史)

――地球ゴージャスとして6年ぶりの新作になる『儚き光のラプソディ』は、岸谷さんが作・演出を担当されます。作品に込めた思いは。

岸谷「書き手として、今の世界の状況を無視するわけにはいきませんでした。ロシアとウクライナ、あるいはガザでのイスラエルとパレスチナでの紛争は続いていて、そこで若い子どもたちの命が失われています。この情勢に影響を受けて、書かされるようにして『今生きている、生命としての我々』にスポットをあてました。人間が何のために生きるのか、人それぞれの生きるテーマや使命と人生の輝きと儚さを問うています。人は生きていくうちに皆、大切なものや幸福な時間を見つけていくと思いますが、世界ではあまりにもあっけなく命が失われていきます。今回、集まったそれぞれ全く違う人生を生きてきて、僕自身も共演するのを楽しみにしている俳優たちが舞台の上でどんな化学変化を展開していくのか。これがタイトルの『ラプソディ(協奏曲)』の由来です」

寺脇「五朗ちゃんの書く芝居は、いつも時代を反映してきました。これまでの作品でも反戦や平和のメッセージを込めてきたのですが、現実的には紛争はなくならないし、僕らの芝居で止めさせることもできないでしょう。でも、舞台から少しでもメッセージをくみ取っていただいて、テレビをつければスポーツやバラエティーと海外の戦争が同列に報じられている。そんな日常に違和感を覚える方がいらっしゃれば、『この作品にも意味があったな』と思えます」

岸谷「大阪公演では今年開場したばかりのSkyシアターMBSで行います。新しい劇場って我々のパフォーマンスが壁に反射して、拒絶されるような感覚を感じる時があります。生まれたての劇場がまだ俳優の演技にびっくりしている。そんな緊張感のあるところから、我々の発する音やセリフが馴染んで、客席にしみこんでいくように舞台を作っていきます」

――演出面のみどころはいかがでしょうか。

岸谷「地球ゴージャス史上、一番せりふ劇に比重を置いた作品かもしれません。東京では明治座で上演しますが、広い明治座の舞台で小劇場のようなせりふ劇の演出を試していくのが面白さですね」

寺脇「せりふの量は今までで一番多いよね」

岸谷「それだけでなくダンスもあるし、アクロバティックな芝居も試しています。謎の白い部屋に俳優たちが放りこまれるところから物語が始まりますが、世代も価値観も違う彼らが、どんなことを語りあっていくのかを注目してほしいです」

寺脇「台本を読んで、『五朗ちゃんこれ舞台の上でどうやってやるの?』というのが第一印象でした(笑)。文章だけでは、本番で彼がどんなことをやる気なのか全く想像がつきません。例えば人が空を飛ぶ場面があったとして、単にワイヤーで俳優をつり上げるのではない『あっ』と言わせるものを用意しているような……彼の頭の中で、演出の限界に挑戦するストーリーが繰り広げられているようです」

岸谷「人間は真っ白で生まれてきて、生きていくうちに色がついてある意味ダーティーになっていくといえます。それぞれの人生の色に染まった各人が、人生のバックボーンを揺るがす出来事に直面して現実逃避した時に、白い部屋が出現して己の人生や未来と向き合う。そんな芝居なのですが、生まれた時の無垢の象徴として『白』を選びました」

テレビでは14年ぶりに『相棒』に復帰、舞台出演も続く寺脇【写真:冨田味我】
テレビでは14年ぶりに『相棒』に復帰、舞台出演も続く寺脇【写真:冨田味我】

――共演される俳優陣の印象は。

寺脇「中川大志くんとはNHK連続テレビ小説『おひさま』(2011年)で初めて共演しましたが、僕が演じた須藤良一の息子の春樹の幼少期の役で出ていて『絶対スターになるな』と。それぐらい輝いていました。当時彼はまだ12歳や13歳だったけど、大人になってからもう1度共演したらもちろん格好いい。芝居に対して真面目なだけでなく、お笑い好きで急にコントを仕掛けてくるおちゃ目さもあるんだと知って」

――中川さんはお笑いタレントの方々との共演も多いです。

寺脇「僕らと一緒にいる時も、急に『お客さんどちらまで?』とタクシードライバーのマネをしてコントに誘導してきたりします(笑)。芝居心もあって面白い彼とは、ぜひ、一緒に舞台をやりたいと思っていました」

岸谷「一昨年、中川くんの明治座での主演舞台を見て、僕らと同じく『演劇に対する熱さを持った男だな』と感じましたし、もっといろんな役を彼にやらせてみたくなりました。舞台でギラついている彼の姿が想像できます」

――風間俊介さんに鈴木福さん。テレビでおなじみの俳優も集まりました。

寺脇「風間くんはなぜか10年周期で地球ゴージャスに来てくれる法則があって(笑)、今回も『クザリアーナの翼』以来10年ぶりの出演になります」

岸谷「風間くんと初めて一緒に舞台に出た時(04年『クラウディア』)僕は40歳でしたが、その時の僕の年齢に彼も追いついてしまいました。その後、10年前の『クザリアーナの翼』では主人公並みに活躍するキーマンの役をやってくれて、今回は初めて参加する若い俳優たちを引っ張ってくれることを期待しています。地球ゴージャスの3人目のメンバーといってもいいくらい大切な存在で、彼の舞台経験には絶大な信頼を置いています」

寺脇「鈴木福くんは子どもの頃からあの通り、好感度バッチリでした。人柄の良さも知っていて、『19歳を迎えた彼にしかできない演技を見たいよね』と五朗ちゃんと話し合っていました」

岸谷「他にも去年『オイディプス王』でギリシャ悲劇の主演も務めた三浦涼介くん、2.5次元舞台でのアクションや役作りが飛び抜けて輝いている佐奈宏紀くん、一昨年にアメリカ版ミュージカルを僕らで潤色・上演した『The PROM』に出ていただいた保坂知寿さんと、絶対的に信頼できる方々に出ていただけることができました」

寺脇「お酒を飲みながら『この人にこの役をあてたい』と話をしてきました。僕らの妄想がかなったベストキャストです」

俳優のほか、演出家としても活動してきた岸谷【写真:冨田味我】
俳優のほか、演出家としても活動してきた岸谷【写真:冨田味我】

唯一無二のユニットを立ち上げた理由

――舞台俳優としても30年間過ごしてきて、日本の演劇界は変わりましたか。

岸谷「30年前は劇団による興行の方が多数派でしたが、今は公演ごとに俳優を募るプロデュース形式の興行が随分主流になりました。かつては地球ゴージャスのような俳優だけでトータルで作品をプロデュースするユニットなんかなかったし、2人だけのユニットとなると僕らが今でも唯一です。そして、海外ミュージカルの影響力がすごく大きくなりました。ブロードウェイなどからやってきた有名作品にはブームのようにたくさんのお客さんが来てくれていますが、いい面と悪い面が生まれてしまったかなと」

――どういうことでしょうか。

岸谷「オリジナル作品の数が減ってしまい、国内発でも海外のヒット作の焼き直しのような作品で稼げるようになっています。観客が増えるのはよいことなんですが、だから書き手として頑張らないといけませんね。地球ゴージャスを立ち上げた頃、既存の劇団に所属しているとなかなか小回りが効かないから、『2人だけのユニットならどんどん公演も打てるだろう』と考えて寺脇くんと組みました。『あっ』という間の日々でしたが……道半ばですね。30年かけてやっと明治座で公演ができるまでになりました」

寺脇「とはいえ、変わらないものはあります。生の舞台ゆえに他のエンタメと比べてもごまかしがきかないんです。俳優としての力がないとすぐ観客にバレてしまう。演劇のジャンルが多様化しても、ここだけは変わりません。映像やCGの技術は日々進歩がすごいけれど、演劇はそれらだけでは成立しない芸能です」

地球ゴージャスとしての2人の活動は30周年を迎えた【写真:冨田味我】
地球ゴージャスとしての2人の活動は30周年を迎えた【写真:冨田味我】

――そんな30年でおふたりの関係に変化はありますか。

寺脇「昔と変わらずですね。バカな話もするし、この間も子どもの頃に見ていたアニメの話で盛り上がっていました(笑)。五朗ちゃんと話していると、彼の発想に刺激を受けます。さっきまで『ハクション大魔王』の話をしていた男と同一人物とは思えないくらいボキャブラリーが豊富で、彼が書く脚本の奥深さにもなっていますね。『よくこんな本が書けるな』って」

岸谷「先ほど、『儚き光のラプソディ』について『時代に書かされるようにして作った』と話しましたが、加えてキャスティングをしてプロットができると彼らが自然にせりふをしゃべり出す……そんな流れで脚本を書き上げていきました。僕の脳内では、スイッチが入ると劇中のキャストが勝手にせりふを話してくれているようです」

寺脇「やっぱり天才ですよ。五朗ちゃんは。すごい」

――一方で、岸谷さんから見た寺脇さんの俳優としての持ち味は。

岸谷「すごく面白い人で何をやっても興味をかき立てられるし、いつも俳優として面白いことを追求しています。でも、他者に殉じるような役をやらせても格好いいんです。20年前の『クラウディア』の初演で彼が演じた細亜羅(ジアラ)が僕は大好きです。愛を知らなかった男が初めて愛を知って、ヒロインのクラウディアのために死ねるんですが、舞台で大立ち回りもやって愛する女性のために死んでいく。死に様までかっこよかったね」

――最後におふたりの抱負を。

岸谷「目標を作っても絶対に状況が変わってしまうので、僕は将来への目標を作らないんです。ただ、大切なことは『飢えている』方向に向かうことです。舞台に限らず、オファーをもらった時に『この役をやりたい』という欲求が内発的に芽生えてきます。それを役者としての原動力にして、やりたい役や作品に突き進んでいかないと。『前に似たような役をやったな』と思ってしまうと無意識に手を抜いてダメになってしまいます。だから、飢えというか、役者としての渇望感を大切にしていきたいです」

寺脇「正解のない仕事ですから、公演の幕が上がる1分前、せりふを話す1秒前まで『もっと、良くできないか』を追求し続けることです。『これでいいや』とおざなりにならないで、自分のベスト・オブ・ベストを見せていきます。『最新作を最高傑作にする』。この気概をもって舞台に立ち続けていきます」

□岸谷五朗(きしたに・ごろう) 1964年9月27日、東京都生まれ。83年に三宅裕司主宰の劇団『スーパー・エキセントリック・シアター』(SET)に入団し、俳優デビュー。93年、『月はどっちに出ている』で映画初主演。94年にSETを退団し、寺脇康文と演劇ユニット『地球ゴージャス』を立ち上げる。以降も俳優として活動しつつ、舞台演出や脚本を手掛けている。NHK大河ドラマ「光る君へ」に出演。175センチ。血液型O。

□寺脇康文(てらわき・やすふみ) 1962年2月25日、大阪府生まれ。高校卒業後、名古屋の俳優養成所を経て、1984年にSET入団。以降、テレビ、映画、舞台に出演し、94年にSETを退団。岸谷五朗とともに演劇ユニット『地球ゴージャス』を結成。00~08年、テレビ朝日系『相棒』で水谷豊演じる杉下右京の初代相棒・亀山薫役。22年の『相棒 Season21』から同役で復帰。放送中のテレビ朝日系『相棒 Season22』にも出演。180センチ、血液型O。

□Daiwa House Special 地球ゴージャス三十周年記念公演『儚き光のラプソディ』
作・演出:岸谷五朗
出演:中川大志、風間俊介、鈴木福、三浦涼介、佐奈宏紀、保坂知寿、岸谷五朗、寺脇康文 他
東京公演:4月28日~5月6日(明治座)
大阪公演:5月31日~6月9日(SkyシアターMBS)

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