【週末は女子プロレス♯139】看護師になりたかった19歳が新人王になるまで 女子プロレス知ってわずか1年「スターダムを代表する選手に」

2011年1月23日、新人選手を中心に旗揚げされたスターダムでは、トーナメントや王座決定戦など人数により形式こそ異なるものの、毎年暮れにその年デビューしたルーキーたちによるルーキー・オブ・スターダム(新人王決定戦)を開催してきた。

2023年度の新人王を勝ち取った弓月【写真:スターダム提供】
2023年度の新人王を勝ち取った弓月【写真:スターダム提供】

ハマったきっかけはドラゴンゲート、WWEにもハマる

 2011年1月23日、新人選手を中心に旗揚げされたスターダムでは、トーナメントや王座決定戦など人数により形式こそ異なるものの、毎年暮れにその年デビューしたルーキーたちによるルーキー・オブ・スターダム(新人王決定戦)を開催してきた。

 11年…世IV虎(現・世志琥)、12年…夕陽、13年…彩羽匠、14年…はづき蓮王(現・葉月)、15年…ジャングル叫女、16年…七星アリス、17年…渋沢四季、18年…林下詩美、19年…上谷沙弥が、歴代の新人王。20年から22年にかけて開催されなかったのは、ブシロード体制に入ってから外部からの参入が中心だったためだ。

 これにより所属人数は大幅に膨れ上がったわけだが、未来を考えれば生え抜き選手の育成は必須。団体のスケールアップとともに、スターダムを目指してプロレス界に入ってくる人材も増えてきた。その結果、昨年は3月のHANAKO、さくらあや(欠場中)を皮切りに11月に弓月、12月に八神蘭奈、玖麗さやかがデビューを飾り、4年ぶりに新人王決定戦も復活した。今年1・3横浜武道館で23年度の新人王に輝いたのが、大本命のHANAKOを決勝戦で破りトーナメントを制した弓月だったのだ。

 2月1日に19歳になったばかりの弓月。名古屋出身の彼女が初めてプロレスを知ったのは、中学生の頃にYouTubeで見たドラゴンゲートだった。そこからアメリカのWWEを知り、ますますプロレスにハマった。と同時に、将来は母と同じく看護師になりたいとの夢を持ち、具体的には助産師になろうと勉強に励んでいたという。

 しかし、高校3年生の夏、家族が新型コロナウイルスに感染。自身も感染し、1か月ほど外に出られない日々が続いた。そのとき、「自分のやりたいこと、本当に好きなことをやろう」と考え、その「やりたいこと」「本当に好きなこと」がプロレスだったのだ。

 女子プロレスを知ったのは、その1年前。「それまで男子のプロレスしか見てなかったけど、女子でもこんなに輝ける場所があるんだ、こんなにすごい人たちがいるんだ」と感銘。いざ自分がやろうと思ったときに頭に浮かんだのが、「キラキラ輝く」スターダムのリングだったわけだ。

 そして、昨年3月末にスターダムに入門、練習生となった。それまで水泳やハンドボールの経験があり、小3から高3までの9年間、柔道の稽古も重ねてきた。その経験が受け身を取る際に役立ったというが、「見るのとやるのとは大違いでした」と困惑の日々が続いた。とはいえ、練習を積む中で自分がなりたいレスラー像というものもしっかりと描いていた。

「最初はハイフライヤーにあこがれていたんですけど、たとえ飛ばなくても相手の力を逆利用して勝つスタイルもいいんじゃないかなと思いました。(コーチの)ミラノ(コレクションA.T.)さんに、自分はこういう試合がしたい、こういうレスラーになりたいですと伝えさせていただいたところ、『じゃあ、こういうのはどう?』と教えていただいたのが、丸め込みでした」

 弓月は昨年11・17大阪で、渡辺桃を相手にデビュー戦をおこなった。桃はワンダー・オブ・スターダム王座で当時の最多防衛記録を樹立した実力者で、現在はヒールの大江戸隊に所属している。そんな強豪相手の初陣で、弓月は当然のように完敗ながら、新人離れしたスピードと切れ味鋭い丸め込みの連続でポテンシャルの高さをアピールすることには成功した。それを存分に生かせたのが、年明けの新人王決定戦だったと言えるだろう。

 その前に、デビューから1か月後の12・29両国国技館で、弓月は初勝利を挙げている。もちろん、プロレスラーとして初めての大舞台だ。試合は天咲光由、稲葉あずさとのトリオでHANAKO&八神&玖麗組と対戦する6人タッグマッチ。そこで弓月は玖麗からフォール勝ち。玖麗と八神はデビュー2戦目とはいえ、ビッグマッチでの初勝利は年明けのトーナメントに向けて大きな自信となったのである。「もちろん、うれしかったです。と同時に、私はこれがスタートラインだと思っているので、ここからもっともっと上に行きたいという気持になりましたね」。

「いろんな人からあこがれられるようになりたい」と未来を見据えた【写真:新井宏】
「いろんな人からあこがれられるようになりたい」と未来を見据えた【写真:新井宏】

「成長していくためには(新人の)みんなから離れていかないといけない」

 そして迎えた新人王決定戦。弓月は1回戦で八神を破り、決勝戦でHANAKOと相対した。HANAKOは身長181センチを誇る現役日本人女子最長身レスラー。身長で闘うのではないとはいえ、160センチの弓月が圧倒的不利の感は否めない。キャリアにおいても8カ月の開きがあり、ベルトには届いていないものの、HANAKOはそれまでタイトルマッチに2度挑戦。経験値では天と地ほどの差があったのだ。

 しかしながら、試合では下馬評を覆して弓月がピンフォールをゲットした。最後は得意の丸め込み技ローリングアロー。彼女が目指すスタイルでもあり、大型の選手に有効な戦略を実証してみせたのである。

「新人の中で一番意識しているのがHANAKOさんでした。(不利と言われていたが)自分は勝てないとは思っていませんでしたね。いつ誰とやるときでも自分は勝つと思ってやっているし、負けると思ってやるのは違うと思うんです。HANAKOさんから何かを仕掛けてきたら不利なのはわかっているので、こっちは相手の隙を突くというか、その瞬間を狙って得意の丸め込みで絶対に勝つ気持ちでいました」

 そして手にした新人王の称号。だからこそ、ほかの新人たちと同列に並ぶわけにはいかないと考えた。1・14大阪で、弓月はさっそく行動に出た。その日のカードは、岩谷麻優&葉月&羽南&飯田沙耶組vsHANAKO&弓月&八神&玖麗組の8人タッグマッチ。STARSvs新人という図式である。試合は飯田が玖麗を破る結果に終わった。が、弓月がSTARS入りをアピールし、新人の中でユニット入り一番乗りを果たしてみせたのである。

「自分が成長していくためには(新人の)みんなから離れていかないといけない。いつも一緒というのは自分にもプラスじゃないと思いました。自分がもっと上に行く、成長していくためにも、あこがれる麻優さんのもとでやっていきたい。それが成長して強くなる近道なんじゃないかなと思いました」

 岩谷たちが認め、弓月は晴れてSTARSの一員となった。その後、HANAKO、八神がユニット入り。弓月の行動に影響を受けたことは間違いない。

 そして弓月は、2・4エディオンアリーナ大阪で初めてのタイトルマッチに臨む。デビュー戦のときから「ほしい」と言っていたフューチャー・オブ・スターダム王座に挑戦するのだ。王者は、デビュー5戦目にシングルで対戦した吏南。弓月より年下の17歳ながら、キャリアはすでに5年を超えた。フューチャーのベルトはここまで4度の防衛に成功しており、その中にはHANAKOも含まれている。

「デビュー5戦目のときとは、すでに違う私です。新人王も取らせていただいて、STARS入りもさせていただきました。その後の2か月で得たものがたくさんあると思います。その違いをフューチャー戦で見せつけて、やられてもやられても食らいつくプロレスで、吏南さんからベルトを奪いたいと思います!」

 フューチャー王座もまた、さらに上に行くための通過点。「スターダムを代表する選手になる」のが最大の目標だ。

「麻優さんみたいに、いろんな人からあこがれられるようになりたいですね。私のスタイルに引かれる人が出てくればいいなと思います」

 岩谷にあこがれ、同じユニットに入った選手は多い。また、岩谷を越えるために岩谷を裏切る選手が多いのもまた、スターダムの歴史でもある。「私は裏切ることはないと思います(笑)」と弓月。最初は誰でもそうなのだが……。成長した弓月がいつ岩谷のもとを去るのかも含め、本格的に始まる彼女のレスラー人生を見守っていきたい。

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