避難長期化で気をつけたい誤嚥性肺炎 歯科医師が訴える災害時の口腔ケアの重要性
1日に発生した能登半島地震から3週間がたった。死者は230人を超え、現在も約4万8000戸で断水状態が続くなど、被災者の日常生活に多くの影響を及ぼしている。避難生活を送る人々は約1万4000人に上る中、懸念されるのは衛生状態の悪化だ。東京・浅草の歯科医院「ヒグチデンタルクリニック」の三枝遵子院長は、「口腔ケアを忘れないでほしい」と悲痛な思いを訴えている。最悪の場合、死に至ることもある「誤嚥(ごえん)性肺炎」を発症するリスクもある。どうすれば予防できるのか、注意点を聞いた。
口内をゆすぐだけでは不十分と指摘
1日に発生した能登半島地震から3週間がたった。死者は230人を超え、現在も約4万8000戸で断水状態が続くなど、被災者の日常生活に多くの影響を及ぼしている。避難生活を送る人々は約1万4000人に上る中、懸念されるのは衛生状態の悪化だ。東京・浅草の歯科医院「ヒグチデンタルクリニック」の三枝遵子院長は、「口腔ケアを忘れないでほしい」と悲痛な思いを訴えている。最悪の場合、死に至ることもある「誤嚥(ごえん)性肺炎」を発症するリスクもある。どうすれば予防できるのか、注意点を聞いた。
「今一番危惧しているのは肺炎です。口の中を清潔に保つことで死を防げます。だからこそ、口腔ケアの重要性を伝えたい」――。三枝さんはそう強く訴えた。
避難所での生活が長引くことで発生する「災害関連死」。ストレスや衛生環境の悪化で亡くなることを指すが、中でも「誤嚥性肺炎」は注意すべき病気であると指摘する。
「体の機能低下によって、口腔内のばい菌が嚥下(えんげ)した際に気管の方に入ってしまい、肺炎を引き起こすことを指します」
健康な成人は肺炎までには至らないことが多いが、「高齢者など、免疫力の低い方は二次的な感染で肺炎になりやすいです。そして、肺炎が引き起こされるかどうかは、その人のもともとの口腔衛生状態によるところが大きいと考えます。発生から3週間がたった現在、誤嚥性肺炎を引き起こす方が少しずつ出てき始めるのではないか、と危惧しています」と説明。避難所で過ごす人々を案じた。
ただ、つらい状況下でも予防法はある。
「口の中のばい菌は歯垢1ミリグラムに何億個という世界です。それを洗わずに放置してしまうと、どんどんどんどん増えてしまいます。大切なのは口の中の汚れやぬめりをしっかり取ることです。単に口をゆすぐだけでは十分ではありません。歯ブラシがない場合にはガーゼやティッシュで歯をふき取るだけでもいい。歯磨きシートがあれば一番いいですね。できる限りの口腔ケアをして、口の中を清潔に保つことが必要です」と三枝さん。
さらに、「嚥下は舌を使いますので、『あいうべ体操』など舌を動かすトレーニングを行って、筋力を維持することも心がけたいです。飲み込む力を低下させないだけでなく、口の中を動かすことによって唾液もよく出るようになります。1日1回でも2回でもいいので、時間のあるときに取り入れたいですね」と明かした。
また、誤嚥性肺炎のリスクが高い高齢者で忘れてしまいがちなケアが入れ歯の手入れだという。「入れ歯にも歯垢はつきます。口さえきれいにすれば良いわけではなく、入れ歯自体のケアもお願いしたいところです。必ず外してティッシュ等でふき取るなど、汚れを残さない必要があります」と警鐘を鳴らした。
三枝さんが強い思いを口にするのは過去の事例があるからだ。「1995年に発生した阪神淡路大震災でも、誤嚥性肺炎の事実は分かっていました。ただ正直、私たちの力不足もあってその危険性を伝えきれず、2011年の東日本大震災でも同様の被害が起こってしまいました。ですから、今回少しでも広まってほしいという思いがあります。同じ過ちを繰り返してほしくないんです」。
近年では口の中を清潔に保つことが、インフルエンザの予防にも効果があることが報告されている。被災者への救援物資の一つとしてはもちろん、日ごろ防災グッズなどの備えにも、口腔ケア用品は準備しておきたい。三枝さんは「口の中がきれいであることで多くの病気の予防につながります。ささいなことかもしれないですが、命を落とす可能性があるので、できることをコツコツとぜひともやっていただきたいです」と呼びかけた。