不穏な空気が流れる全日本プロレスの救世主は斉藤兄弟 双子の“巨漢コンビ”が放つ強烈な個性
非常事態に陥っている全日本プロレス。所属最終マッチ(1月27日、東京・八王子エスフォルタアリーナ大会)を控える石川修司のノア「LIMIT BREAK.1‐Starting Over‐」(2月15日、東京・後楽園ホール)が発表された。フリー参戦だが、ファイナルマッチを前に公表されるのは珍しいこと。
毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.180】
非常事態に陥っている全日本プロレス。所属最終マッチ(1月27日、東京・八王子エスフォルタアリーナ大会)を控える石川修司のノア「LIMIT BREAK.1‐Starting Over‐」(2月15日、東京・後楽園ホール)が発表された。フリー参戦だが、ファイナルマッチを前に公表されるのは珍しいこと。
しかも“火種”三冠王者・中嶋勝彦が「全日本に不穏な空気が流れている。引き抜き、そしてクーデターが起ころうとしている」とリング上からマイクで暴露するなど異例な“事件”が続いている。
中嶋の指摘通り、全日本プロレスのファンは焦燥感と不安に襲われている。内部からも「どうなってしまうのでしょう」という声が聞こえてくる。
これまでも何度か選手の大量離脱に見舞われた全日本プロレス。その度に何とか再興してきたが、今回は福田剛紀社長への不信感を口にする選手や、背後で暗躍する黒幕の存在が噂されるなど、深刻であり混迷の極致。果たしてこの「令和の危機」を乗り越えられるだろうか。
全日本プロレスの今後を占うキーパーソンといえば、ジュンとレイの斉藤兄弟だろう。世界タッグ王座を保持する双子の巨漢コンビ。入門時から期待されていたが、昨年のプロレス大賞新人賞を2人で受賞するなど大爆発している。
冷静沈着な伯爵というような顔立ちの兄・ジュン。昨年、誰もがアンタッチャブルだった大ベテランの小島聡の”聖域” 鼻テープをむしり取り、しかも食べるという暴挙に出た弟・レイ。個性の違いが際立つが、双子ならではのタッグは息もピッタリ。
1・14後楽園ホール決戦でも、昨年の世界最強タッグ優勝コンビ、中嶋、大森北斗組を退け3度目の防衛を果たした。しかも、レイが三冠王者・中嶋をピンフォールしての完全勝利だった。
レイが「俺たちサイト―ブラザーズが勝ったぞ、フォー。DOOM!」といつもの雄叫びを上げると、会場には拍手と喝采、加えて安堵のタメ息が漏れた。
ここで、中嶋の快進撃を食い止めなければ「王道の誇り」は木っ端みじんに砕かれるところだった。
ノアを退団した中嶋は、昨年10・21後楽園決戦で、宮原健斗にテロ攻撃。11・5北海道・札幌決戦で、青柳優馬から三冠ベルトを奪取し、暮れの最強タッグ戦を制覇した。あっという間にシングル、タッグの両部門で全日本プロレスの頂点にのぼりつめてしまった。
その上「闘魂スタイル」を標榜し、赤い闘魂マフラーを首に巻き、宮原健斗とのV1戦(12・31東京・代々木決戦)では、セコンドに新間寿氏がつき、入場テーマ曲はアリ・ボンバイエだった。
退場時に流れる「炎のファイター」
宮原を下すと、新間氏とともに「1、2、3、ダーッ!」で締めた。退場するときには「炎のファイター」が流れ「イノキ・ボンバイエ」の歌詞が全日本プロレスの会場に繰り返し響き渡った。
しかもPWFまでおざなりにされた。1・3後楽園決戦のV2戦の挑戦者はNXTからの刺客チャーリー・デンプシーだった。「このベルトの価値を上げるためにNXTに持って行く」とうそぶく中嶋だった。
これで、世界タッグ王座まで中嶋の腰に渡ったら…最後の砦が斉藤兄弟だったのだ。三冠王者・中嶋からの3カウント奪取は「全日本プロレスを闘魂に染め上げる」という中嶋の野望に急ブレーキを掛けたといっていいだろう。
負けたというのにマイクを握った中嶋の掟破りの行為が、中嶋の焦りを物語っている。中嶋は置き手紙で1・27八王子大会まで旅に出ることを通告。決して額面通りには受け取れないが、全日本プロレス制圧プランに修正が生じているのは間違いないだろう。
斉藤兄弟は1・27八王子大会で、安齊勇馬、本田竜輝組の挑戦を受ける。安齊は1・14後楽園決戦で、まさに「王道の生き字引」の渕正信と対戦し「王道の魂」を伝授された。
本田も「全日新時代」を担っており、斉藤兄弟VS安齊、本田組で現在進行形の「令和の王道」を披露してくれれば「令和の危機」は遠ざかる。
斉藤兄弟はすでに今年の契約を済ませているという。大きくて豪快なファイトスタイルはまさに全日本プロレス。王道の救世主に、クールな兄・ジュンと暴れん坊の弟・レイの「イケメンと野獣」ブラザーズが躍り出た。