赤井沙希、引退試合で味わった強烈な“洗礼” 男子からの張り手に頭突き…記憶を飛ばされた後頭部への蹴り
2013年8月にDDTの両国国技館大会でプロレスデビューし、その10年後の今年11月12日に同じく両国国技館で引退した赤井沙希。11月20日に発売された自伝本のタイトルにもなっている『強く、気高く、美しく』を胸に戦い続けた10年間に終止符を打つ戦いで、赤井が見事に散った。その引退試合から1か月……今の赤井がどのような心境で過ごしているのかを聴いた。
引退から1か月、赤井沙希の今の心境は
2013年8月にDDTの両国国技館大会でプロレスデビューし、その10年後の今年11月12日に同じく両国国技館で引退した赤井沙希。11月20日に発売された自伝本のタイトルにもなっている『強く、気高く、美しく』を胸に戦い続けた10年間に終止符を打つ戦いで、赤井が見事に散った。その引退試合から1か月……今の赤井がどのような心境で過ごしているのかを聴いた。(取材・文=橋場了吾)
10年前、赤井沙希がプロレスデビューをしたときには、ファンだけでなく所属団体のレスラーからも「それほど長くやらないのではないか」と思われていたという。しかし、赤井は10年という長い間、プロレスラーとして戦い、数々の勲章を手に入れた。そして何より、DDTという赤井が大好きな団体のファンに愛され続けた。
「引退して1か月………お礼状を書いたりごあいさつをしたり、やることがたくさんあって、ずっとテンパってますね(笑)。試合はないけど、引退ロードがまだ続いているような感覚です。引退したら、一人旅行をしたいとか陶芸やぬか床を始めてみたいとかいろいろな妄想があったんですけど……今までやってきたことにプラスして、DDTのスタッフとしての仕事も増えているので忙しくしています。ただ、首が痛くないのが『プロレスラーを引退したんだな』という実感につながっていますね」
今年5月24日に引退を発表してからは、とてつもない試合数をこなした赤井。
「実は、お断りしたオファーもたくさんあって……(DDT以外の)ほかの団体さんにもお世話になったので全部出たかったんですが、スケジュールが厳しくなってしまいましたね。『もっと前から呼んでよ』とも思ったんですが(笑)、引退を発表してからでないと見せられないものもあったので、それはそれで良かったのかなと思います」
「赤井がいるDDT」は当たり前の風景だったが、それは永遠には続かない。赤井はその引退発表記者会見で「私は枯れて朽ちていく花ではなく、美しいまま散る花でありたい。ファンの皆さんの中で美しくいることが理想」と話していた。
「松井(幸則レフェリー)さんもおっしゃってくれていたんですけど、『根拠があるわけじゃないんだけど、赤井さんはずっとDDTにいてくれると思っていた』と。私もそのつもりでいましたし、体も気持ちもプロレスをやろうと思えばできるかもしれないですけど、やはり10年という時間の経過は尊くて。この先の未来のことを考えたら、自分がプロレスを続けることがいいことなのかな?と考えました。引退発表記者会見で話したことがすべてですね」
引退試合で山下実優のスカルキックで記憶が飛ぶ
そして決定した引退試合は、11月12日・両国国技館で開催されたDDTの秋のビッグマッチ『Ultimate Party 2023』の第8試合にラインナップ。赤井が所属するユニットEruptionの盟友でありプロレス界における師匠である坂口征夫と、同じEruptionの岡谷英樹と組み、元Eruptionの樋口和貞、初対決となるプロレスリングNOAHの丸藤正道、同期である東京女子プロレスの山下実優の異色タッグと対戦した。
「丸藤さんが私に強烈なチョップを出した後に、樋口君にタッチしたんですよ。うわ、またチョップが来る!と思っていたら、みぞおちに張り手のようなパンチが飛んできて……引退試合でこんな強烈な打撃で動けなくなるのかと(笑)」
※戦前、丸藤は赤井に「プロレスの恐怖を植え付けて卒業させる」と宣言していた
それだけではない。試合終了までのラスト5分にドラマが凝縮されていた。坂口と岡谷が赤井のピンチに飛び込み連係を決めるも、丸藤と樋口が力でねじ伏せる。リング上では赤井が二人と対峙しエルボーを打ち込むも、樋口にのど輪をとらえられ丸藤のフックキック(死角から打たれるトラースキック)を浴びてしまう。その後に、各界出身で業界一の石頭といわれる樋口の強烈な頭突きを食らうことに……。
「丸藤さんの試合は何度も見ていたんですが、あんな見えないところからキックが飛んでくるとは思わなくて。あの角度で蹴られたのは初めてでしたね。その後の頭突きは、後で動画を見たら『ズンッ』という音が聞こえて、これはヤバいなと思いました」
その後、山下がアティテュード・アジャストメント、クラッシュ・ラビットヒートというフィニッシュムーブを連射。赤井は意地で返すも、ここで思いもよらぬ光景を目にすることになる。赤井にリング上は任せたとばかりに、坂口・岡谷・丸藤・樋口の4人はリングを降りていったのだ。
「(4人がリング下に自主的に降りたのは)あとから聞いて知りました。(山下の)心臓を撃ち抜かれるような蹴りを食らった直後でフラフラだったので、立つのがやっとで……。で、仲間の顔を見て立ち上がったら……」
山下の戦慄のスカルキック(頭部への後ろ回し蹴り)が飛んできた。
「あの子の蹴りは、顔に向けて蹴ってくるのにかかとは後頭部に入るんですよ。で、『飛んで』しまいました。気づいたら、山下が私の上で号泣しているという。私が引退試合の相手に決めた子だからこそ、しっかりレスラーとしての息の音を止めてほしかったので、しょぼいキックが来たら絶対キックアウトしてやろうと思っていたんですが、一発で決められました(笑)」
赤井はDDT所属ではあるものの、東京女子プロレスでの戦いもこの10年間の重要なパーツだと考えていた。自分の“家族”であるDDTや東京女子に遺す戦いをしたい、だからこそ、そのトップランナーである山下実優を対戦相手のひとりとして選んでいた。
「これは私のいいところでもあり、悪いところでもあるんですが、自分自身よりも周りのことを考えてしまうんです。周りの方のために自分が動くことが幸せなので、私の引退試合をきっかけにプロレスを見始める方や、最近は離れていたけどまた見てくれる方に向けて自分ができることは『こんないいレスラーがいるんだ』と思ってもらうことだと思いました。だから、同期であり、これからもどんどんプロレスを続けていくであろう山下に出てもらいたかったんです」