K-1の“生みの親”石井館長が明かす現金交渉「魔裟斗に3000万円、A猪木のスカイダイビングに5000万円」
2023年もいよいよ残りわずかとなってきたが、これまで格闘技界と大みそかは、切っても切れない関係が続いてきた。とくに2000年代には、K-1とPRIDEが地上波のテレビ局を巻き込みながら、双方が大みそかに一大ビッグイベントを開催し、日本国中のお茶の間に激闘を届けてきた。そこで30年前にK-1を立ち上げた“生みの親”である石井和義館長(正道会館宗師)に、当時を振り返りながら、今後の格闘技界に対する思いを聞いた。
「RIZIN、K-1、RISE、KNOCK OUT…今の格闘技熱なら10万人興行はできる」
2023年もいよいよ残りわずかとなってきたが、これまで格闘技界と大みそかは、切っても切れない関係が続いてきた。とくに2000年代には、K-1とPRIDEが地上波のテレビ局を巻き込みながら、双方が大みそかに一大ビッグイベントを開催し、日本国中のお茶の間に激闘を届けてきた。そこで30年前にK-1を立ち上げた“生みの親”である石井和義館長(正道会館宗師)に、当時を振り返りながら、今後の格闘技界に対する思いを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
実は以前から石井館長に聞いてみたいと思っていたがあった。
それは、2年半前に石井館長が魔裟斗のYouTubeチャンネルに出演した際、魔裟斗を年末の大会に出場させるべく、現金3000万円を持参し直接交渉に出向いた話が登場する。当時のK-1では、そういったお金を、常にプールしていたのか、である。
この問いに対し、石井館長は「してないしてない。あれは僕が(2002年に脱税で)捕まった後の大会の話だから」とコメントした。
石井館長が当時を振り返る。
「あの時は谷川(貞治K-1イベントプロデューサー)さんから『魔裟斗くん、僕が言っても(大みそかの試合に)出ないんです』って言われて。そうなんだと思ったから、『そういう時はキャッシュがいいよー』って現金を用意してもらってね。銀行でお金を降ろしてもらって、銀行の袋に入れて、僕が直接、魔裟斗に渡したの。そしたら僕の顔もあるやろ? 魔裟斗くんからしたら『あー、館長来たかー』って感じやろうな」
当時の魔裟斗からすれば、なかなか断りにくいシチュエーションだっただろう。
「僕が『魔裟斗、頼むよ』って言ったら、『分かりました』って言ってくれてね」
魔裟斗はこの話を武蔵とのYouTubeチャンネルでも話しているが、それによると、これは2005年の年末の話で、石井館長に直談判されたのは12月25日だったという。つまり試合の6日前のことになる。もちろん魔裟斗も、数日前にトレーナーと話し、もしそうなった場合に自分がスクランブル発進できる状態なのかを確認してから、石井館長と対面したことを明かしていた。
再び石井館長の言葉に耳を傾けよう。
「だけど彼は別に現金を積まれたから出たんじゃないんだよ。僕がちゃんと足を運んで、なおかつお金を持って行って、頼むよってね。ホントは現金なんて下品だから、そんなことをしないでもいいんだけど、頼むよって、こっちはこっちの誠意だよね。それに対して魔裟斗はちゃんと誠意で応えてくれる。いい男だよ」
石井館長と魔裟斗に深い信頼関係が存在することは分かったが、それだけの多額の現金を渡した相手は、他にいるものなのか。おそるおそる石井館長に尋ねると、「(アントニオ)猪木さんもそうだったよ」と“燃える闘魂”の名前が飛び出した。
詳しく聞いていくと、石井館長が主催した「Dynamite !」(2002年8月28日、国立競技場)の際にアントニオ猪木が行った、4000メートル上空からのスカイダイビングの際に渡したという。
「百瀬博教さんに『館長、5000万円持って来て』って言われてね」
アントニオ猪木とPRIDEやK-1との橋渡し役
百瀬氏とは“PRIDEの怪人”“戦後最大の不良”と呼ばれた作家で、当時はアントニオ猪木とPRIDEやK-1との橋渡し役を担っていた人物である。
「だから『5000万ですか!』って聞いたら、『5000万いるんだよ』って言われたから『分かりました』って百瀬さんに持って行ったよ。そしたら『分かった。猪木に渡しておくから』って。あとになって猪木さんに聞いたら、『そんなのもらってない』って言われるしさ」
そう言って石井館長はニコリと笑ったが、百瀬氏の名誉のために記しておくと、筆者は生前の百瀬氏とは多少なりとも付き合いがあった。そのため百瀬氏の人となりは把握しているので、この話が事実だとしたら、百瀬氏がアントニオ猪木に5000万円を渡さなかった、ということは非常に考えにくい。
実際、石井館長も「猪木さんはもらっているんだろうしね」と話していたが、この辺りのアントニオ猪木の言葉は、猪木流のジョークも含んだやりとりだったに違いない。
「だけど、百瀬さんはそうやって猪木さんを口説いてくれたし、百瀬さんがいなかったら、猪木さんもPRIDEに上がってないし、PRIDEもあそこまでなってなかったよ。あれは百瀬さんの力だよ。百瀬さんが頑張ってくれて、PRIDEを盛り上げてくれた。あれでプロレスファンがドーンと来て、PRIDEがガーンと盛り上がったんだから。もちろん仕掛けたのは柳沢忠之さんとか谷川さん、バラちゃん(RIZINの榊原信行CEO)だろうけど、やっぱり百瀬さんの功績は大きいよね」(石井館長)
そこまで話した石井館長は、「こんなこと言ってもどこまでの人に伝わるか分からないけど、知っている人はたまらない話だよね」と、当時、格闘技に対し、熱を持って接していたファンに向けた言葉を発した。
それにしても3000万円なり5000万円をキャッシュで、というのはいかにも興行の世界の話。最近はフロイド・メイウェザーのファイトマネーが10億円といわれたりもするが、さすがにキャッシュで渡されることはないだろう。おそらく数字の話というよりも、石井館長の言う「誠意」とともに、視覚効果を狙った側面も大きいに違いない。
ちなみに昨年あった『THE MATCH』(6月19日、東京ドーム)は50億円興行とも呼ばれ、記録的な収益を上げたことが予想されるが、観客動員数に目を向けると、いまだに『Dynamite !』(2002年8月28日、国立競技場)で記録した、9万1107人(主催者発表)を格闘技界が越えられていない現状がある。
これに関して石井館長は、「(10万人興行は)やろうと思えば、できるんじゃないかな」と話し、以下のように話した。
「今、熱がこれだけあるから、RIZINで3万人くらいは集められるでしょう。あとはRISEとK-1で1万とか2万とか集められる。他にはプロレスファンを巻き込んでやれば、10万人まで行かなくても、6、7万人集まれば、国立競技場は盛り上がるんじゃないのかな。だから、やろうと思えばできるけどね。ただ、ちょっとリスクが……。あれ、屋根を付けてくれればよかったのになあ。なんでケチるんかなと思って。あそこまでやるんだったら」と天候が悪かった場合のことを懸念した。
とっさにそこに話が向くあたり、さすがは格闘技界の先頭を走っていた石井館長だが、「でも今度、国立よりデカいのができると思うよ」と含みを持たせながら、今後の展開に期待を寄せた。
そして石井館長は、最後にこう話した。
「K-1も盛り上がっているし、来年は3月20日にK-1が生まれた代々木第一体育館で新しくスタートしますし、RIZINも、来年はビッグマッチが控えているし、 KNOCK OUTも龍聖とぱんちゃん璃奈を中心にして、鈴木千裕くんがガーッと来ているし。みなさん、是非、格闘技をよろしくお願いします」
K-1が誕生して30年。最前線の現場からは離れたものの、石井館長は格闘技界に明るい未来が続いていくことを強く願っている。(一部敬称略)