「杉咲花の演技は次元が違った」 若葉竜也が明かす3度目の共演「この役だけは譲りたくない」
杉咲花主演の映画『市子』(12月9日公開、戸田彬弘監督)で、市子の恋人の長谷川を演じたのが、俳優の若葉竜也(34)。映画『葛城事件』(16)や『愛がなんだ』(19)などメインから脇まで輝く若手実力派は「この役だけは別の役者に譲りたくなかった」と語る。
映画『市子』で杉咲の恋人役を演じる
杉咲花主演の映画『市子』(12月9日公開、戸田彬弘監督)で、市子の恋人の長谷川を演じたのが、俳優の若葉竜也(34)。映画『葛城事件』(16)や『愛がなんだ』(19)などメインから脇まで輝く若手実力派は「この役だけは別の役者に譲りたくなかった」と語る。(取材・文=平辻哲也)
本作は、恋人からプロポーズされた翌日、突然、姿を消した女・市子の壮絶な生きざまを描く。若葉、幸福の絶頂に、絶望感を味わいながら、市子の姿を探す恋人、長谷川を演じた。杉咲とは初恋の相手役を演じたNHK連続テレビ小説『おちょやん』(20)、『杉咲花の撮休/第2話・ちいさな午後』(23/WOWOW)に続く共演となる。
「まず、杉咲花という女優が市子を演じるということにすごく興味がありました。目の前で、どんな風に演じるのだろう、と。長谷川という役は他の誰かがやっているのを想像したくなかったんです」
杉咲との共演には緊張感があるのだという。
「お互いになれ合っているわけでもないので、2回目、3回目と回数を重ねるほど、緊張感があるんです。もちろん初対面の方が新鮮ですが、分かっているからこそ、相手のやり方も見えてくる。でも、予想していくのはやりたくないんです」
交際3年だが、互いの過去については語ってこなかった2人。それゆえ、長谷川は、突然の失踪に大きな衝撃を受け、必死に市子を探し出そうとする。
「市子の素性に迫らなかったのは優しさとも捉えられると思いますが、僕個人としては、長谷川は臆病で、自分のために立ち入らなかったという感覚の方が大きいですね。3年間も付き合っていて、親のことも聞かないわけですから。市子を追いかけていく過程の中で、後悔もあったんだろうと思います。僕だったら、市子の過去について聞こうとしたと思います」
長谷川は、いわば物語の狂言まわし的な存在。観客は長谷川を通じて、市子という人物を知ることになる。
「観客と一緒にその市子の過去を見つめていく役なので、一番のテーマは鮮度だと思っていました。市子の過去の部分はあまり深く読み込むことはしなかったんです。慣れないようにしたという感じでしょうか」
監督の戸田彬弘は演劇、映画で活躍する演出家。本作は主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演が原作になっている。
「戸田監督作品の中では『市子』が一番の傑作と感じました。監督が並々ならぬ思いだったという感覚は現場でもにじみ出ていました」
杉咲の実際の演技はどう映ったのか。
「次元が違います。細胞レベルでその状況に溶け込んでいる感じがしました。もちろん脚本があって演じるという大前提はあったとしても、その演技に全くうそがない。笑う、泣くという感情の起伏、言葉も真実として発せられている。それは目撃した、という感覚がピッタリ合うかもしれません。市子の見てはいけない部分、目を逸したくなる部分を目撃してしまった。例えていうなら、小さい頃に、母親が泣いている瞬間を見てしまった、みたいな感覚かもしれません」
劇中では、杉咲と若葉が演じる幸せな日々が印象深く、それが想像を絶する過去との対比となっている。
「キャッチコピーには『幸せな暮らしを捨ててでも、市子が手に入れたかったものとは……』とあるんですが、僕が思うに、市子が求めていたのは、結局、“幸せな暮らし”だったんだと思うんです。だから、彼女には“幸せな暮らし”を捨てたという感じはなかったと思っているんですよ。杉咲花の演技はすごいので、目撃してほしい」。若葉は杉咲の圧倒的な演技に太鼓判を押した。
□若葉竜也(わかば・りゅうや)1989年、東京都出身。2016年、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高める。映画『葛城事件』(16/赤堀雅秋監督)での鬼気迫る芝居で注目を集め、『愛がなんだ』(19)や『街の上で』(21)など今泉力哉監督作品で欠かせない存在に。『愛にイナズマ』(10月27日公開)のほかに、主演映画『ペナルティループ』(24年3月公開予定)が待機中。