『VIVANT』福澤克雄監督「考察ドラマを作る気持ちはなかった」 制作費は「赤字です」

TBS系7月期の連続ドラマ『VIVANT』の原作・演出を担当した同局の福澤克雄監督が、ENCOUNTなどメディアの取材に応じ、視聴者による空前の“考察合戦”となった同作を振り返った。俳優の堺雅人が主演し、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、二宮和也、役所広司ら豪華キャストがそろい、モンゴルの首都・ウランバートルやチンギスハーン国際空港、ゴビ砂漠など2か月半に及ぶ長期海外ロケを敢行したことでも話題を呼んだ。この大作をほぼTBSだけで制作できたことに福澤監督は「ノウハウが伝承できた」と語る一方、「考察ドラマを作る気持ちは全くなかった」と胸の内を語った。

インタビューに応じた福澤克雄監督
インタビューに応じた福澤克雄監督

ドラマ制作のノウハウ伝承も目的、羊3000頭を集め自信蓄積

 TBS系7月期の連続ドラマ『VIVANT』の原作・演出を担当した同局の福澤克雄監督が、ENCOUNTなどメディアの取材に応じ、視聴者による空前の“考察合戦”となった同作を振り返った。俳優の堺雅人が主演し、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、二宮和也、役所広司ら豪華キャストがそろい、モンゴルの首都・ウランバートルやチンギスハーン国際空港、ゴビ砂漠など2か月半に及ぶ長期海外ロケを敢行したことでも話題を呼んだ。この大作をほぼTBSだけで制作できたことに福澤監督は「ノウハウが伝承できた」と語る一方、「考察ドラマを作る気持ちは全くなかった」と胸の内を語った。(取材・文=鄭孝俊)

 取材会は、U-NEXT Paraviコーナーで12月15日から独占配信される『VIVANT別版~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』の収録時に行われた。福澤監督は笑顔を浮かべて言った。

「もう、何十回も編集して死ぬほど見ているから、飽きるなと思っていましたが、そうでもなかった。撮影を思い出しながら見ることができました」

 同作には、バルカ共和国の警察官・チンギス(バルサラハガバ・バトボルド)や外務大臣のワニズ(河内大和)、日本警察の公安・野崎(阿部寛)をサポートするドラム(富栄ドラム)ら個性的な面々が多数出演した。続編があれば、注目してもらいたキャラクターを聞かれると、「全員です」と即答して続けた。

「初めてドラマに出演したワニズ役の河内さんは非常にいい芝居でインパクトを与えてくれて良かったと思っています。あと、チンギスやドラムがあそこまで人気が出るとは思っていませんでした。やっぱり、それは軸となる堺さんがビシッといたからだと思います」

 堺は二重人格役を演じるなど、2倍の熱量で臨んでいたという。

「キャストで一番難しい役は主人公・乃木の二重人格。2つの人格を使い分けるので、衣装も1カットずつ交互に脱いで撮影しているので大変だったと思いました。また、ベキ(役所)の右腕として動く男・ノコルを演じた二宮さんも何気に演技が難しい。嫉妬心に燃えるようなところを描きながら、父親の尊敬もあり、青年の何とも言えないまだ成人しきれていない雰囲気がとてもよく出ていて助かりました。役所さんもどこかわけが分からない感じのキャラクターに、すっと乗っかってくれて非常に助かりました」

 モンゴルでの長期ロケを敢行。海外ロケの経緯も語った。

「『日本のドラマはもう少し外に出て行かないといけない』という危機感があるのは確かです。1億2000万人の人口相手にドラマを作ればある程度ヒットはするし、まあまあもうかるシステムですが、(Netflixなどに進出している)韓国は人口が5000万人だから、国内向けだけに制作するのではなく海外に出ています。外に出ていく国民性もありますが、日本はなかなか内向きで外に行かない。なぜかというと、『国内にいれば幸せだから』『どうにかこうにか生きていけるから』です。そんな内向きなドラマを作ってばかりではなく、『外に出ていかないと』という気持ちは日本のテレビ局にあると思いますし、役者さんもそうです。それで今回、このドラマを『TBSでやります』『外向けに作っていきます』と言ったところ、皆さんが賛同してくださったという感じがしますね」

 壮大な世界観を作り上げた作品の制作費に踏み込んだ質問を受けると、「赤字です」と苦笑い。一方で、大作を自社制作できた意義を語った。

「ただ、TBSとしては『大変だけどやってみよう』と今回のドラマ制作については前向きでした。TBSドラマ部の社員で作ることで、ノウハウの伝承ができました。制作会社に任せると予算管理が非常にやりやすいが、これだけだと局内でのドラマ制作のノウハウ伝承はストップしてしまいます。毎回、ドラマの作り方は変わりますが、脈々と伝承されてきたノウハウをストップさせないよう、赤字になっても局内で作り続けてきたからこそ、今になって『VIVANT』というドラマの制作に生きてきたと思います。大型ドラマをポンと作れるシステムや技術が局内にあることが重要です」

『VIVANT』へ込めた思い「脚本家を育てるという義務もあった」

 続けて、『VIVANT別版』をアピールした。

「そういう伝承を大切にしなくてはいけないという心意気があるから『VIVANT』ができました。『外に出ていかないと限界だ』『誰かが世界に向けて1歩出ないと』などの声があったから今回挑戦してみました。副音声には 今回のドラマ作りで私が新しく挑戦したことを細かく入れています。『皆さんも多分聞きたいだろうな』と思いますので」

 ドラマのストーリー展開については、海外ドラマを参考に“新たな挑戦”があったことを明かした。

「日本のテレビドラマの作り方は第1話が勝負で、いかに第1話を面白くするかに最大限のパワーで臨み、原作本があったとしたら1話で3分の1ぐらいまで使ってしまう。そうすると、最後はだいたい予想がついてしまいます。海外はドラマの結末が分からないように作っています。『VIVANT』の第1話も、最初は『主人公の乃木憂助が別班であることを明かした方がいいかな』と思いましたが、『分かったら面白くない』と思って止めました。これも新たな挑戦なので、ビビりながら作りました」

 また、「僕は考察ドラマを作る気持ちは全くなかった」と言いながらも、さまざまな考察をしっかりとチェックしていた。

「『乃木がザイールを撃った』という考察には『バレた』と思いましたが、『黄色は裏切りの色』『ノコルの肌の白さ』『乃木と野崎の車間距離が近すぎる』というのは関係ありません。そういった考察があまりに多いため、途中から気にするのをやめました(笑)」

 現在59歳。定年を前にチャレンジした作品には、後進や日本ドラマへのメッセージが込められていた。

「『集大成』とか『やり切った感』というのはありません。もうすぐ定年というきっかけなので『どんとやってやろう』という気持ちがあったので、日本のドラマが世界に出て行く道、1年間以上考えたドラマを『世界に向けて出していくシステムを作ろう』と思っていました。それから脚本家を育てるという義務もあったわけですよ。3人など複数の脚本家が集まって作るシステムが良いと思いますし、人生経験が3人分集まれば、作品にリアルさが生まれます。ただ、その中でまとめ役となるリーダーを育てることも大切です」

 その上で、「『VIVANT』では、若い社員演出家も成長してくれました」と言い、同作に多くの社員を投入した理由も明かした。

「海外ロケで羊3000頭を集めることができるほどだから、これはすごいことです。国内だけだと、トラックやパトカーをバンバンぶっ潰すなんてできません。『へこんだらトンカチで直せばいい』というノウハウも積み上がりました。こういうことのために今回、無理矢理、社員スタッフを投入したわけです。みんなの気合はすごかったですよ。ロケ終了後、全員自信満々でTBSに帰ってきました。ドラマも最後は体力だと改めて分かりましたね」

 自身を育ててくれたTBSへの恩返し。その思いも抱いて作っていたのが、『VIVANT』だった。

□福澤克雄(ふくざわ・かつお)1964年生まれ。1989年TBSテレビ入社。テレビドラマのディレクター・監督、映画監督として数々のヒット作を手掛ける。主なドラマ作品に『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『VIVANT』などがある。

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