那須川天心作ったRISE伊藤代表、「FIGHT CLUB」に選手を送り出したワケ「彼らなりに何かをつかむ」
立ち技格闘技団体「RISE」の初代オープンフィンガーグローブマッチ(OFG)65キロ級王者のYA-MANがプロデュースする格闘技イベント「FIGHT CLUB」(ABEMA PPVで生中継)が19日に行われる。運営するRISEの伊藤隆代表はどのような思いでRISE軍団を興行に送り出したのか。話を聞いた。
格闘技イベント「FIGHT CLUB」は19日に開催
立ち技格闘技団体「RISE」の初代オープンフィンガーグローブマッチ(OFG)65キロ級王者のYA-MANがプロデュースする格闘技イベント「FIGHT CLUB」(ABEMA PPVで生中継)が19日に行われる。運営するRISEの伊藤隆代表はどのような思いでRISE軍団を興行に送り出したのか。話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
「細かく考えずにやり切れ」――。朝倉未来軍団との会見に完敗したRISEファイターを見た伊藤代表は現役時代の「後悔」を口にした。
昨年のインタビューでは「話題先行型は続かない」と私見。エンタメ色の強い格闘技イベントへ難色を示すこともあった。1年たって考え方も変化したようだ。
「僕も53歳で、自分の常識が若者の非常識だったりもする。そういう中でYA-MANがイベントをプロデュースしたいというので、やらせてみようかなと。運営自体はRISEがやるんですけど、彼も企画力があるので」
同イベントは立ち技格闘技団体「RISE」の王者であるYA-MANがプロデューサーを務めるオープンフィンガーグローブマッチ(OFG)限定の興行。ルールは3分×3Rのキックボクシングルールで、勝敗はKO決着のみとなっている。朝倉未来―YA-MANをメインに全7試合が行われる。
出場者が出席した今月4日の会見では、RISE勢はほとんどしゃべれなかった。特に朝倉未来軍団 VS YA-MAN軍団の第2部では、未来ひとりに全く歯が立たなかった。
「会見はRISE勢全敗じゃないですか……。悔しさというよりも次にどうするか。あそこで未来選手がいろんなチャンスを与えてくれたと思うんですよ。特にケロベロス。彼はあのチャンスをつかめなかった。あそこはおいしいと思っていかないとダメなんですよ。未来選手の発言の部分を見て勉強になればいいなと思いましたね。あれは完敗ですよ」
それでもRISEは選手に会見の場を用意してきた。ここまでのトークスキルの差は予想外だった。
「あそこまでしゃべりに差があるとは思わなかったですね。未来選手の独壇場だった。でも別にみんながおらつく必要はないんですよ。逆に(山口)裕人と西谷(大成)選手、あれは逆に面白かったですよ。今回の会見に限らず、他の部分ではみんなおらつく必要はないので、自分の理論をしっかり述べることが大切だと思います」
格闘技界のみならず、世間に対して影響力のある朝倉未来の印象について、こう語った。
「アウトサイダーから上がってきて、ある意味、地下格闘技の成り上がり。いまは、格闘技界を動かす選手にまでなって、実業家としてもすごい。この前の会見を見せていただいて思ったのは、ポイントをつかんでいる。頭が良いですよね。これを言ったら盛り上がるとか、先を読んでると思います」
会見でMMAファイターの白川陸斗と対戦する木村“ケルベロス”颯太は未来に「誰お前?」「やるなら今こいよ」とあおられるも何も言い返せなかった。ネット上ではケルベロスではなく「チワワ」と呼ばれている。「何やってんだよ」と苦笑いの伊藤代表だが「逆に良かった」と振り返る。
「『やるのか?』って言われたとき、なんで行かないの(笑)。でも逆なんですよね。あれで逆に拡散された。だから分からない。世の中面白いなと思いました」
「会見も試合と同じ」と語るワケ
「会見も試合と同じ」。伊藤代表はRISEの選手へこう伝えているという。完敗だった会見の直後にはXに「選手は走りきれ! 対価が付いて来るし、道に何かが残るから」と思いをつづった。この発言の裏にはキックボクサー・伊藤隆時代への後悔と未来への希望があった。
「僕らの時代は世間にアピールする部分はないですよね。1試合1試合が勝負だった。会見もない。僕だって計量して終わり。配信もないので、もう試合に全力なんですよ」
エンタメ格闘技が台頭する現代では、一部の格闘ファンや関係者は競技としての強さだけを求めることを選手に強いる。伊藤代表も「ベストはアスリートとして強いこと」と強調するが、それだけではないと現役時代を回顧した。
「僕はウェルター級で実績があって当時ナンバー1と言われていて、あぐらをかいてたんですよ。会見もないし、試合だけをやっていれば良かった。世間にも発信せずに、完全に自己満足の世界だった。後悔もしているんですよね」
伊藤代表はK-1 J・MAX(のちのK-1 WORLD MAX)が誕生したころに脳へ深刻なダメージを負い、29歳にして道半ばで引退した。「それが本当に悔しくて」と唇をかむ。だからこそ「自分ができなかったことを選手たちにはやってもらいたい」とうなずく。
「RISEで那須川天心を育てて世に送り出せました。他の選手たちも、もっと出していきたい。いまの選手は試合以外にもやることがあって大変だろうけど、チャンスですよね。アスリートとして求心力ある試合をする。プラスアルファ、トークができたりすればさらに良い」
その上で「選手は走りきれ!」の真意を明かす。
「やり切れってことなんですよ。これが終わったら反響どうなるかな? じゃないんですよ。とにかくやり切れば、それなりのものが残って、それは道になり対価に変わるってこと。細かく考えずにやり切れって。でも、やり切ったかどうかを決めるのは周りですからね」
YA-MAN逆転勝利の真意「綺麗に戦う選手って思い通りに戦えなくなると消耗しだす」
今回の興行のメインカードを巡っては、多くのファンが「朝倉未来の勝利」と予想している。そんな中、伊藤代表は「YA-MANが2度ダウンしてからの逆転勝ち」と予想した。
「競技者としての見解でもあります。ムエタイルールにRISEルール、立ち技だけでも全く違う。本当にテニスとバドミントンくらい違うんですよ。その中でMMAって全部がある難しい競技ですよ。長年のクセをなくせるか。
2、3か月期間があっても、なかなか取れません。僕らは反復練習を繰り返して体に染みつける。試合は緊張や興奮、恐怖とかいろいろ混じってやりたいことができなかったりするんです。そのために反復して染み込ませるんです。その中で距離が肝になると思います。MMAファイターがボクシングの距離で打ち合いできるのかがキーポイントになる。
未来選手もカウンター上手いので2回くらい倒す。でもYA-MANは倒れてからが真骨頂。綺麗に戦う選手って思い通りに戦えなくなると消耗しだすんです。そういうのも含めてYA-MANの逆転勝利。願望半分、OBの見解ですね」
普段のRISEの興行ではなく「FIGHT CLUB」に出場した選手は、何を経験として得るのか。
「対朝倉軍団というのがあるので、彼らなりに何かをつかむと思います。今後の自分のプロモーションも変わってくるだろうし、プロとしてどうあるべきかFIGHT CLUBですごく感じると思います。
RISEに出場して勝っていても試合が組まれないことはあるんです。プロとして我々が言いたいのはお客さんに何を見せられるか。タイトル戦は別ですけどアマチュアではないので、お客さんに爪あとを残すのがプロ。そこは重要ですよ。今回はPPVですけど、どれだけ視聴者を感動させられるか。会見で全敗だったので、これで勝ったら3人すごくなるんじゃないですか」
「つまらないやつはいらない」の言葉を受けYA-MANに選ばれ、伊藤代表に送り出されたRISEファイターたち。会見に完敗した選手たちは、リングのなかでどんな生き様を見せるのか。心動かす熱い試合を期待したい。