「クマこそ被害者」物議の保護団体を直撃 バッシング浴びた「どんぐりをまけばいい」発言の真意
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。秋田県内で今年に入りクマに襲われるなどしてけがをした人は24日時点で57人で、これまでで最も被害が多かった年の3倍近くに上っている。全国でも少なくとも160人以上が被害に遭っており、国が統計を取り始めて以降最も被害の多かった3年前を上回り、過去最多を更新している。一方、今月5日に秋田県美郷町の作業小屋に立てこもったクマ3頭が駆除された際には、全国各地から苦情や批判の声が殺到し、大きな物議を呼んだ。人が安全な生活を営むためにクマを駆除するのはいけないことなのか。支部長が実際に現地まで足を運び駆除に抗議したという環境保護団体「日本熊森協会」の森山まり子名誉会長に、クマと人が共存するための方法を聞いた。
全国でも少なくとも160人以上が被害、国が統計を取り始めて以降過去最多を更新
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。秋田県内で今年に入りクマに襲われるなどしてけがをした人は24日時点で57人で、これまでで最も被害が多かった年の3倍近くに上っている。全国でも少なくとも160人以上が被害に遭っており、国が統計を取り始めて以降最も被害の多かった3年前を上回り、過去最多を更新している。一方、今月5日に秋田県美郷町の作業小屋に立てこもったクマ3頭が駆除された際には、全国各地から苦情や批判の声が殺到し、大きな物議を呼んだ。人が安全な生活を営むためにクマを駆除するのはいけないことなのか。支部長が実際に現地まで足を運び駆除に抗議したという環境保護団体「日本熊森協会」の森山まり子名誉会長に、クマと人が共存するための方法を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
一般財団法人日本熊森協会は1997年、兵庫県西宮市で設立された。元中学校教諭だった森山会長の教え子が環境破壊とクマの減少に関心を持ち、保護を訴える運動を開始。その活動が全校生徒に広まり、卒業生が中心となって協会を立ち上げたという。現在では北海道から熊本まで、全国27か所に支部を持ち、会員数は2万人以上。フィールドワークによる実地調査や植林活動、講演会などを通じ、日本の自然林を取り戻すための活動を行っている。また、実際に捕獲され駆除を免れたツキノワグマ3頭を飼育。クマの生態についての研究も行っているという。
「クマは本来、とても臆病で賢い動物です。飼ってみれば分かりますが、人の言葉だって理解できる。人身事故が起こることはあっても、それは人がクマを脅かしたり、怖がらせたりしてパニックを起こさせているから。クマに人を襲う習性はありません。それなのにすみかを追われ、食べるものがなく人里に下りてきたら捕殺される。クマの方こそ被害者です」
今回の秋田県美郷町のクマ駆除をめぐっては、新潟支部長が現地に駆けつけ、駆除の中止を行政側に交渉。奥山への放獣や引き取りも申し出たが、あえなく捕殺されてしまったという。ホームページ上のブログでは、新潟支部長による現場のレポートが詳細に記されている。森山会長も、駆除ありきの県の姿勢やマスコミ報道の在り方に苦言を呈する。
「秋田の対応は本当に遅れていると言わざるを得ません。住民に家から出ないよう注意を促し、念のため1人か2人監視をつけて静かにしていれば、クマは自然と森に帰っていきます。それをパトカーが何台も出動して大騒ぎ、怯えて小屋に逃げ込んだのを『立てこもった』と凶悪犯のような言いがかりをつけ、おりに入って抵抗できない状態なのに撃ち殺す。クマを森に返すとまた戻ってくるという声もありますが、これだけ怖い思いをしたらほとんどのクマは二度と人里に近寄りません。
けがをした人は本当にお気の毒ですが、朝家を出る際には大きな声を出してクマに存在を知らせる、できるだけ車で移動するなど取れる対策はたくさんあります。畑や果樹園などの被害も深刻だと思いますが、生きるか死ぬかで飢えているのだから落ちて売り物にならないものなどは食べさせてあげたらいい。同じ東北でも捕獲したら積極的に奥山放獣している県もありますが、秋田では声を上げる人が少ないのが現状です」
「全国の公園からどんぐりを集めて森の奥に置く」 バッシング浴びた発言の真意
ただ、現実問題としてクマによる人的被害は拡大している。連日のようにクマと人との遭遇が報じられ、地域によっては接触は避けられない状況となっているが、クマの側に原因はないのだろうか。
「研究者の方は、クマの個体数の増加や生息地の拡大、人に慣れたり人を怖がらないクマが出てきたなど、クマの方に原因があるかのようなことばかり言っていますが、クマにはもともと秋に栄養が蓄えられなければ流産するなど、自ら個体数を調整する能力が備わっています。人里に下りてくるのはそれでも食べるものがなく、種の存続がかかっているから。
日本の国土森林率は67%ですが、戦後の拡大造林政策でそのほとんどが材木用針葉樹の人工林に植え替えられてしまい、多様な生態系を持ち、クマのエサが豊富な自然林はわずか7%しかありません。さらに、林業の国策失敗でそれらの人工林が放置されていて、森と人里の境界が曖昧になっている。学者は国から研究費をもらっているので、国策の失敗は絶対に指摘できないのです」
今後、クマと人が共存していくためには何が必要なのだろうか。
「起きたことばかりを騒ぎ立てるのではなく、根本の原因、クマのエサをどうするかという問題について考えていかないといけません。クマの一番の好物はどんぐりで、どんぐりさえあれば柿やリンゴなど見向きもしません。今年のように不作の年は、全国の公園からどんぐりを集めて森の奥に置いておけば、人里に下りてくることはない。1頭あたり1日10キロ弱、50キロもあれば1週間は出てこないでしょう。『どんぐりのDNAが混ざって大変なことになる』と大バッシングを受けたこともありますが、ブナとミズナラには地域固有種があっても、クヌギやコナラ、アベマキは固有種がなく、日本全国同じもの。何も知らない人が批判しているだけに過ぎません。電気柵も有効。人もお金もないというのなら、森林環境税を原資に国策で進めるべきです。
ただ、これらはあくまで対症療法に過ぎません。根本的な解決策は、荒廃した放置人工林を地道な植樹で再び自然林に戻していくことしかありません。森に切り開いて、クマたちのすみかを一方的に侵したのは人間の方。森や水源を失った文明が滅ぶのは自然の摂理です。倫理観を持ち行動しなければ、いずれ人間にも大きなしっぺ返しが来るでしょう」
秋田県の佐竹敬久知事は23日の記者会見で、駆除費用などを県が負担する考えを明らかにしており、関連費用約1500万円を本年度予算に計上する方針。また、駆除への抗議の電話が相次いでいることについては「業務妨害」とし、悪質なものには対応しない考えを示している。