布団を持ち上げるとびっしり黒カビが…気密性の高いタワマンで起きた悲劇

主に「シックハウス症候群」を予防するため、2003年の建築基準法改正の折に義務化された住宅の「24時間換気システム」。窓を開けなくても換気ができるようになり、気密性が高く湿気が高くなりやすい欠点があったタワーマンションでも、快適な暮らしを送ることができるようになった。しかし、どんなに便利な機能でも使い方を誤ってしまうと、とんでもない被害を生むことになるようだ。

タワーマンション(写真はイメージ)【写真:写真AC】
タワーマンション(写真はイメージ)【写真:写真AC】

自宅のドアを開けた途端に襲った刺激臭の正体は…

 主に「シックハウス症候群」を予防するため、2003年の建築基準法改正の折に義務化された住宅の「24時間換気システム」。窓を開けなくても換気ができるようになり、気密性が高く湿気が高くなりやすい欠点があったタワーマンションでも、快適な暮らしを送ることができるようになった。しかし、どんなに便利な機能でも使い方を誤ってしまうと、とんでもない被害を生むことになるようだ。

 4年前に夫の海外赴任で欧州へ移住し、コロナ禍のため一時帰国することもかなわず、昨年冬にようやく日本に帰ってくることができた田中玲さん(仮名)。帰国後に見たものは、とある地域のタワーマンション中層階にある変わり果てた我が家だった。

 久しぶりの日本。空港で夫とともにラーメンを食べ、そのおいしさに感動を覚えながら我が家へ向かったという玲さん。家に着いたら、2~3日はゆっくりしよう。日本に残っていた社会人の息子と一緒に、おいしいおすしを食べに行こう。温泉に行くのもいいな――。

 そんなことを考えながら自宅のドアを開けた玲さん夫妻を襲ったのはツンとした刺激臭だった。そして、息子が苦笑いを浮かべながら出迎えてくれたという。

「異臭の原因は、玄関を入ってすぐのところにある息子の部屋でした。息子は布団派で、畳ベッド+布団で寝起きをしていたのですが、どうやら私がいないこの4年、ほとんど布団を乾かしていなかったようなんです。

 寝汗をたっぷり蓄えた畳ベッドは、敷布団を持ち上げるとみっちり黒カビが生え、布団も寝汗が付いてムラになっているような状態。それを見た息子が、慌てて畳にカビキラーを振りまいたようで、異臭はそのせいでした。しかも、換気扇の音が気になるからと、息子は24時間換気システムを止めてしまっていたんです。おかげで部屋の中にカビ臭がこもり、冬だというのにリビングや台所も湿気がすごくて……。部屋の中でもマスクなしではいられない状態になるなんて」

 家には布団乾燥機が用意してあり、玲さんと共に暮らしていたときは毎日のように使っていたはず。なぜこんな状態になったのかを息子に尋ねると「面倒くさかったから1度も布団乾燥機は使ってない」との返事があり、玲さんは膝から崩れ落ちたという。

 かろうじてシーツは洗っていたようだが、それでも年に1度か2度程度。敷き布団・掛け布団ともにカバーは1度も洗われることなく、シミだらけの状態だった。

「ベッドは何度も何度もお酢と重曹を使って拭きましたが、奥底までカビが浸食していたので捨てることになりました。部屋にこもった匂いも全て取れるまでに2~3か月はかかったように思います。タワマンは気密性が高いと聞いていましたが……まさか、ここまでとは」

「24時間換気システムは絶対に止めない。これだけは必ず守るように」

 今回すべての原因となったのは息子の怠惰な生活だが、気密性が高いタワマンで快適に暮らすためには、どのようなコツが必要なのか。中目黒「コレカライフ不動産」の姉帯裕樹さんは「まず、24時間換気システムは絶対に止めないこと。これは徹底しましょう」と語る。

「そもそもこのシステムは、快適に暮らすために必要とされているからこそ『義務化』されているものです。つまり、電源を切らず、そのシステムを常に使用することが大切だということ。それなのに、気密性が高い部屋で4年間も換気を止めていたら……想像するだけで怖いですね。

 ちなみに、24時間換気システムには種類があります。換気扇などを使い、強制的に給気・排気を行うタイプが『第1種換気方式』。給気を換気扇で行い、排気口から自然に屋外へ排気するタイプが『第2種換気方式』。第2の逆で、換気扇で排気し給気口から空気を取り入れる『第3種換気方式』。2003年以降に建てられた建物には、上記いずれかのシステムが用意されています」

 どの換気システムにもデメリットはあるというが、止めてしまうのだけはNGだと姉帯さんは強調する。

「例えば第1種はランニングコストが高く、吸気・排気ともに機械で行うので、騒音が気になる場合もあります。第2の場合は、結露が発生しやすくカビが生えやすいのが欠点。第3は結露の発生は防げますが、室内の温度調整がしにくくなります。ただ、いずれの方式であったとしても、24時間換気システムは絶対に止めない。これだけは必ず守るようにしましょう。寒いから、暑いから、風がうるさいからと、給気口をふさいでしまうのもNGです。

 定期的に給気口や排気口の掃除を行うことも大切です。面倒臭いと思われるかもしれませんが、便利なシステムはそれなりの手間がかかるものだと脳裏に刻んでおきましょう。なお、風呂場やトイレなど水回りに関しては換気扇を常時付けておくことをおすすめします。何はともあれ、玲さんの件は息子さんの再教育からスタートでいいのではないでしょうか」

□姉帯裕樹(あねたい・ひろき)「株式会社ジュネクス」代表取締役。宅地建物取引士の資格を持ち、不動産取り扱い経験は20年以上を数える。独立した現在は目黒区中目黒で不動産の賃貸、売買、管理を扱う「コレカライフ不動産」として営業中。趣味はおいしいラーメンの食べ歩き。

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