『水どう』ED曲で起きた著作権トラブル 樋口了一が明かす当時の思い「運命の皮肉」
パーキンソン病をテーマにした『いまダンスするのは誰だ?』(10月7日公開、古新舜監督)で映画初主演を果たしたシンガー・ソングライターの樋口了一(59)。北海道テレビ放送(HTB)の人気バラエティー『水曜どうでしょう』のエンディング・テーマ『1/6の夢旅人』のヒットでも知られる。樋口が名曲の秘話と現在を明かした。
『1/6の夢旅人』ヒットの裏にあった“問題”
パーキンソン病をテーマにした『いまダンスするのは誰だ?』(10月7日公開、古新舜監督)で映画初主演を果たしたシンガー・ソングライターの樋口了一(59)。北海道テレビ放送(HTB)の人気バラエティー『水曜どうでしょう』のエンディング・テーマ『1/6の夢旅人』のヒットでも知られる。樋口が名曲の秘話と現在を明かした。(取材・文=平辻哲也)
映画同様、自身もパーキンソン病と闘っている樋口。その代表曲『1/6の夢旅人』は人気バラエティー『水曜どうでしょう』のエンディングテーマとして知られるが、数奇な運命を辿ってきた。もともとは1997年に番組の応援歌としての起用。それが99年から始まった番組の再放送版『どうでしょうリターンズ』のエンディングテーマになった。
ところが、98年に樋口が『1/6』のメロディーをV6に提供したことで、著作権問題が発生し、エンディングテーマには使えなくなった。その後、歌詞をほぼ活かし、メロディーを刷新した『1/6の夢旅人2002』を制作。さらに2005年には著作権問題が話し合いによってクリアになり、再レコーディングされたCD『1/6の夢旅人』が発売されている。
「著作権の問題が生じてしまい、少し翻弄された時期があって、とても不思議な気持ちでした。あれほど愛されていた曲が、ある日を境に使用できなくなったのは、まるで運命のいたずらのようでした。自分としては『この不憫(ふびん)な曲、どこかでしっかりと受け止めてあげたい』と思い、新しい曲を制作することになりました。それで制作した新曲は、以前の曲を上回るほどの愛され方をしています。これがまた運命の皮肉といった感じでしょうか」
いいことと悪いことが同時に起こるのは、樋口の人生では「よくあること」だと笑う。『手紙~親愛なる子供たちへ~』が大ヒットし、第51回日本レコード大賞優秀作品賞を受賞した時は、樋口は人知れず、パーキンソン病の症状と闘っていた。「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉があるが、樋口の人生はまさにそれだろう。
パーキンソン病の確定後の2011年からは活動の拠点を故郷・熊本に移している。
「東京では多忙な日々でしたが、心の中は東京に住んでいたときと変わりません。熊本には東京のような施設も多くありますし、視野が広がることも感じています。曲作りでは、地元のさまざまな場所から曲の依頼を受けることが増えました。益城町、山鹿の歌などさまざまな曲を作ることができるようになりました」
映画では実話をモデルに、40代でパーキンソン病を発症した主人公(樋口)が、家族や人生と向き合い、ダンスのちからによって再生する姿を描く。同名の主題歌『いまダンスするのは誰だ?』も担当している。80年代を思わせるようなポップチューンだ。
「歌詞は監督が書いてくれました。私は、80年代の曲のような、前向きで能天気な雰囲気がこの映画に合うと感じました。佐野元春さんの曲や『愛は勝つ』(KAN)といった曲調が心に浮かびました」
演技と歌には通じる部分もあったのか。
「撮影がもうすぐ始まる中で、私がこれまで数十年間培ってきた歌の経験をどう活かせるか考えました。歌うとき、歌詞をただ記憶から掘り起こしているわけではない。まさにその瞬間に生まれたように歌っています。それをイメージしながら演技することが、一つの解決策だと感じました」。歌うように演技を見せた樋口の表現者としての新境地にも注目だ。
□樋口了一(ひぐち・りょういち)熊本県出身。1993年『いまでも』で東芝EMIからデビュー。『水曜どうでしょう』エンディングテーマの『1/6の夢旅人2002』はインディーズながらCD15万枚を売り上げ、『手紙~親愛なる子供たちへ~』は16万枚を超えるヒットとなり、日本レコード大賞優秀作品賞、日本有線大賞有線音楽優秀賞を受賞。SMAP、郷ひろみ、石川さゆり、中島美嘉らに楽曲を提供している。