「しゃべりは苦手」だった元宝塚トップスター凰稀かなめが培った“コミュニケーションの極意”とは

俳優の凰稀かなめが、今月30日に幕を開けるブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』(東京・有楽町よみうりホールなど)に出演する。宝塚歌劇団でトップスターも務めた凰稀のクールだが丁寧な芝居、共演者へのアプローチ方法を聞いた。

『ロジャース/ハート』でスター女優のペギーを演じる凰稀かなめ【写真:長谷英史】
『ロジャース/ハート』でスター女優のペギーを演じる凰稀かなめ【写真:長谷英史】

30日初日のブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』に出演

 俳優の凰稀かなめが、今月30日に幕を開けるブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』(東京・有楽町よみうりホールなど)に出演する。宝塚歌劇団でトップスターも務めた凰稀のクールだが丁寧な芝居、共演者へのアプローチ方法を聞いた。(取材・文=大宮高史)

 凰稀の身長は173センチ。2012~15年は宝塚歌劇団の宙組トップスターを務めた。退団後も華やかさは健在、ハスキーな低い声を持ち味に舞台、映像で活動している。だが、今回はスター女優の役。発声は自身が持つイメージとのギャップもあるようだ。

「大役をいただくときはどの公演でも、大きなプレッシャーを感じますね。今回、いただいたペギーはブロードウェイのスター女優の役ですが、全編ほとんどが歌で構成されていて、ミュージカルナンバーが39曲もあります。これだけの曲を歌うのも数年ぶりなので『どう歌うべきか』から稽古場で構築している日々です。それに女性的な高いキーの声は滅多に出さないんです。すごく独特な男役の声作りを長年やってきて、むしろ、高い声で演じていると何だか座りが悪いですね。共演の壮一帆さん(元雪組トップスター)とも『女性の声って難しいですね』と共感し合ってしまいました」

 芝居・歌・ダンスで魅了してきたが、「しゃべることは苦手です」。稽古でのコミュニケーションの極意は「人のために芝居をすること」だという。

「一緒に舞台に立つ役者さんがどんな人となりなのか、私がどう振る舞えば、皆がやりやすいのか。そういったことを稽古始めに顔を合わせて以来、考える習慣にしています。稽古中はもちろん、休憩中のちょっとした会話やしぐさで皆さんの人柄が伝わってくるので、それに合わせて私も接し方を変えてみる感覚ですね」

 人間観察をするように、共演者の人柄を感じ取って研究していく。アドリブで客席を沸かせるコメディーや会話劇ともなれば、いっそう深く理解しあった上で、芝居を練っていくスタイルだ。

「会話の端々からでも『人柄を知る引き出しを見つけないとな』と意識しています。言葉を介さなくても、人間性は感じ取れることができますからね。役のモードに入っていなくても、芝居のヒントはいたるところにあります」

「ロジャース/ハート」は、戦前の米国の興行界を舞台に映画やミュージカルの名曲を手掛けた作詞家と作曲家、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースを主人公にした物語。主演のロレンツ・ハート役の林翔太とは、今年5月に舞台『ホロー荘の殺人』でも共演し、気心知れた関係で同作への準備を進めている。

「『ホロー荘の殺人』の千秋楽の日に『ロジャース/ハート』の撮影でまた顔を合わせたんです。すごく器用な役者さんで、セリフの覚えも振り入れも速くて、完璧なイメージがあって、年齢は離れていてもリスペクトできる存在です」

一昨年には大ファンだったドラマ『ドクターX』シリーズにも出演した【写真:長谷英史】
一昨年には大ファンだったドラマ『ドクターX』シリーズにも出演した【写真:長谷英史】

 俳優業の他、ラジオでのトークにも挑んできた。2020年4月から3年間、ラジオ日本で『マットとかなめの価値組Sunday』でパーソナリティーとして毎週日曜に出演。タレント、企業家ら多彩なゲストとの掛け合いを楽しんできた。

「もともと本当にしゃべらない性格なので…どうしていいか分からなかった始めの頃から、次第にしゃべりや間の取り方も慣れてきて、楽しむ余裕もできてきた3年間でした」

今ではラジオやテレビで、美意識や宝塚時代の思い出を話す機会も増えた。そして、来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』に、赤染衛門役での出演が決定。古今東西どんな時代の装束も着こなしてきたが、ドラマでの女房役は初めてになる。

「舞台でも映像でも、まだまだ経験していない役柄がたくさんです。そういった新境地への開拓は続けていきます。(宝塚で)トップスターもやらせていただいて、退団後もスター性のある役をいただいてきましたが、そろそろ中心の役は若い方にまかせて、脇を固めていく道も面白そうですね」

 プライベートも大切にしている。「マイブーム」は、水と液体肥料で植物を育てる水耕栽培だという。

「普通の鉢と土で育てていたら、土から虫が大増殖して家中が虫だらけになってしまいました(笑)。以来、土が大の苦手になってしまって…。水と花瓶だけで育ってくれる観葉植物を楽しんでいますね」

 茶目っ気を見せながらも、公演に向けて気を引き締めている。

「久しぶりのミュージカル出演になります。ドキドキしている気持ちもありますが、見ているだけでハッピーな気分になれる作品です。日頃のストレスを忘れて客席で楽しんでいただけるように、私たちも頑張っていきます」

□凰稀かなめ(おうき・かなめ)9月4日、神奈川県生まれ。元宝塚歌劇団宙組トップスター。2015年に退団後、単独コンサート『The beginning』を開催し、シリーズ化して現在も年1回公演。16年には舞台『1789~バスティーユの恋人たち~』に女性の役で出演。翌17年にはファーストアルバム『Again アゲイン』で歌手デビュー。18年には主演舞台『さよなら、チャーリー』で文化庁芸術祭新人賞を受賞。ドラマでは、テレビ朝日系『トットちゃん!』やTBS系『ノーサイド・ゲーム』にレギュラー出演し、日本テレビ系『家売るオンナ』、テレビ朝日系『七人の秘書』、『Doctor-X-外科医・大門未知子』などにゲスト出演。映画では、『マスカレード・ナイト』などに出演。24年には、映画『お終活 再春!人生ラプソティ』、NHK大河ドラマ『光る君へ』に赤染衛門役で出演を控えている。

(公演情報)
ブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』
9月30日~10月18日 東京・有楽町よみうりホール
10月24日~10月25日 金沢・北國新聞 赤羽ホール
10月28日 大阪・松下IMPホール

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