景観保全で店舗カラー変更の決断…“世界遺産の宮島”にローソン出店 想定外の需要に担当者驚き

“世界遺産の島”に「いつの日かローソンを」――。世界文化遺産・厳島神社のある広島・宮島に今年6月、ローソンの新店舗「ローソン宮島店」がオープンした。世界的な観光名所ながら、路面出店は初めて。景観保全を最優先に、“ローソンカラー”で知られる青色ではなく「茶色」のデザインを採用。ごみ箱を店舗内に設置するなど、古くから大切にされてきた名物のシカとの“共存”も意識した店づくりを実現させた。島外との交通手段は船舶のみに限られ、観光業従事者の多い島民のニーズに応える商品・サービスの工夫も。2年がかりで進められた、ほぼ前例のないコンビニ出店の舞台裏に迫った。

ローソン宮島店は“世界遺産仕様”の店づくりが話題だ【写真:株式会社ローソン提供】
ローソン宮島店は“世界遺産仕様”の店づくりが話題だ【写真:株式会社ローソン提供】

島民ファーストの店づくり 世界文化遺産・厳島神社のある宮島でコンビニ路面出店は初めて

“世界遺産の島”に「いつの日かローソンを」――。世界文化遺産・厳島神社のある広島・宮島に今年6月、ローソンの新店舗「ローソン宮島店」がオープンした。世界的な観光名所ながら、路面出店は初めて。景観保全を最優先に、“ローソンカラー”で知られる青色ではなく「茶色」のデザインを採用。ごみ箱を店舗内に設置するなど、古くから大切にされてきた名物のシカとの“共存”も意識した店づくりを実現させた。島外との交通手段は船舶のみに限られ、観光業従事者の多い島民のニーズに応える商品・サービスの工夫も。2年がかりで進められた、ほぼ前例のないコンビニ出店の舞台裏に迫った。(取材・文=吉原知也)

「私自身、過去一番、時間と労力をかけました」。同社で広島県の店舗開発を担当する中四国開発部の池田速人さんは、高いハードルを乗り越えた苦労についてこう語った。広島を拠点に店舗開発に携わって約12年のプロ。2022年2月に前任者から引き継ぐ形で、21年7月から出店へ向けた調整が続けられてきた重要プロジェクトを任されることになった。

 宮島への出店は歴代担当者の長年の大きな夢だった。現在、島内のフェリー乗り場の一角に他社のコンビニがあるが、路面出店での営業は今回が初めてだ。「世界から観光客の集まる宮島で、より多くの皆様にローソンの魅力を知っていただきたい。そして、ローソンには『私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします』というグループ理念があります。約1400人の島民の皆様の生活ニーズに応えて、島の発展に貢献したいという強い思いがあります」と語る。

 島内には全国チェーンのスーパーマーケットやドラッグストアはない。買い物をするのも一苦労だ。今やどこのコンビニにも標準的に設置されているATMとコピー機が、宮島の人たちにとっては希少なサービスになる。池田さんは実地調査で、フェリーから降りて島に入る住民が、大きな袋を抱えたり、台車に買ったものを載せて運ぶ場面を多く見た。買い出しやATMとコピー機の利用が「大変なこと」という実情をヒアリングで聞いた。「社会インフラを整えるという重要な役割を感じました」。島民ファーストの店づくりを決意したという。

 世界遺産を抱える歴史と伝統の島。乗り越えなければならない課題はいくつもあった。景観への配慮は特に重要だった。出店する場所はフェリー乗り場のほど近くで、もともと物産店やカフェが入居していた建物の1、2階。既存の建物を改築する形となった。

 文化財保護法の規定を丹念に確認。地元自治体の廿日市市と幾度となく調整を重ねた。建築設計事務所、建設会社、社内関係部署とも議論を重ね、必要な申請内容を準備し最終申請した結果、廿日市市、広島県、国の許可が下り、慎重に工事を進めていった。外観は木の格子を設置して和をイメージしたデザイン設計、茶色の背景に白文字のローソン看板を導入。「周囲との調和」を図り、島内の景観に最大限に配慮した新店舗が完成した。

 また、商品の供給体制をゼロから築き上げた。フェリー会社の協力を得て、ローソン社内の商品部、取引先との綿密な調整の上で、商品を積んだトラックをフェリーで運び込む独自の配送体制を確立させた。

 そして、宮島にとって大切なシカへの配慮も。自動ドアを開けて中に入ってしまわないように、センサーによる開閉ではなく、ボタンを押すことでドアが動く「タッチスイッチ」の仕組みを採用した。シカの鼻先がボタンに当たらないような高さ設定にも工夫を凝らした。ごみ箱は店内に設置。「実は大きなテーマの一つで、シカが紙やビニール袋等のゴミを誤食して健康被害が出てしまわないように、保護の観点から配慮しました」と強調する。

 多くの人の関わり合いの中で誕生した新店舗。広島市に本社を置く株式会社ポプラリテール(株式会社ポプラ100%出資子会社)が運営しており、池田さんは「ローソンの新規出店について、地元の皆様にも真摯(しんし)に向き合いご説明し、ご理解いただけるように努めました。新規出店に関わってくださった全ての皆様に心から感謝しております」と力を込める。

ローソン宮島店では宮島で大切にされているシカへの配慮も徹底している【写真:株式会社ローソン提供】
ローソン宮島店では宮島で大切にされているシカへの配慮も徹底している【写真:株式会社ローソン提供】

「小さな子のオムツの要望もありました」約1400人島民の生活ニーズも大事に

 6月9日のオープンから3か月。通常の店舗と同様に「からあげクン」などの揚げ物や弁当、デザート、飲料に加えて日用品など約3000アイテムを販売しており、売上は「順調な推移」。こうした中で、新しい発見が次々と出てきているという。

 まずは弁当。事前に立てていた仮説通りに島民や島で働く人が多く手に取っており、「島民や宮島で働く方にとって、観光客向けの飲食店で毎日ランチと言うのはあまり現実的ではないと聞いていました。島外から勤務する方の中には、出勤のためにフェリーに乗る前に昼食を買う手間もあったとのことです。ニーズに応えることができていると思います」。

 島民に好評なのが、手書きの領収書や文房具。困ったときに日用品をすぐ買える利便性が評価されているといい、「お客様から小さな子のオムツの要望もありました。生活ニーズに応える品ぞろえを検討していきます」。

 そして、日本有数の観光地だけに、宿泊客の思わぬ需要も。新店舗はフェリーの運航時間などに合わせて、午前7時30分から午後9時30分までの営業。島内では夕方に閉まる店が多く、午後8時、午後9時台に“駆け込みラッシュ”が訪れるそうだ。「オープン前の予想と違って、夜の時間帯もニーズがあり、浴衣姿で旅館から来られるお客様も多いです」。早速商品の陳列レイアウトを変更した事例も。「当初、お酒売場は1階と2階に分けて陳列し、2階に珍味・おつまみを置いていたのですが、ホテルで“部屋飲み”を楽しむ方も多く、よりお買い求めしやすいように、1階に集約させました」。観光客の利便性もしっかり反映している。

 新型コロナウイルスの水際対策の緩和や円安などの影響でインバウンド(訪日外国人)が回復傾向に。店内外に英語の表示案内を設置するなど、グローバルの対応も決して怠らない。島民、島で働く人、観光客、外国人客の幅広いニーズを「最適化」することに努めているといい、池田さんは「本当に毎日新しい発見があって、日々勉強です。可能な限りのニーズに応えて、進化を続けていきたいです」と前を見据えている。

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