【週末は女子プロレス♯118】スターダムなつぽい「プロレスとは『最強』に向かうための人生の武器」
現在開催中のスターダム最強決定リーグ戦「5★STAR GP(ファイブスターグランプリ)」で、トップグループを快走しているのが、“世界最速の妖精”なつぽいである。身長150センチの小柄な体格をスピードでカバー、見た目によらぬ負けん気の強さで主力選手にのし上がってきた。
安納サオリとのコンビでゴッデス・オブ・スターダム王座を防衛
現在開催中のスターダム最強決定リーグ戦「5★STAR GP(ファイブスターグランプリ)」で、トップグループを快走しているのが、“世界最速の妖精”なつぽいである。身長150センチの小柄な体格をスピードでカバー、見た目によらぬ負けん気の強さで主力選手にのし上がってきた。
プロレスキャリアは8年。最近は「最強」をテーマとし、安納サオリとのコンビでゴッデス・オブ・スターダム王座を防衛したばかり。5★STAR GPでは刀羅ナツコに敗れ初黒星を喫したものの、4勝1敗1引き分けでブロック2位、初優勝を狙える位置につけている(9月3日現在)。シングルとタッグの両方で「最強」を目指すなつぽいだが、その原点は3歳でスタートした芸能活動にあるという。もちろん自分の意志ではなく、両親が彼女のポテンシャルを発見、芸能事務所のオーディションに連れていったことからすべてが始まる。
「おじいちゃん、おばあちゃんの家に行ったときに、『火垂るの墓』の絵本を声に出して読んでいたらしいんですよ。全部ひらがなとはいえ、ちゃんと字に合わせて読んでいたと聞きました。自分にはそんな記憶はまったくないんですけど、両親が、『これは!』と思って、子役というか赤ちゃんモデルのオーディションを受けさせたんですよね。ただ、オーディションでは私だけ何もしなかったんです。『私はできるから、みんなと一緒のことなんかしない!』とか言って、すごく生意気な子だったらしいです。なのに、なぜか受かってしまって(笑)」
かえって目立つ存在だったのだろう。事務所に所属して芸能活動を開始、5歳で『とんねるずのみなさんのおかげでした』に母と出演したのがもっとも古い記憶だという。
「物心つく前から芸能の仕事をしていたので、自分にとってはそれが当たり前でもありました。『将来の夢は?』と聞かれたら女優さんと答えるのも自分の中に染みついていて、むしろほかの職業を知らないくらいでしたね」
テレビや舞台、グラビアなど多くの仕事をこなしてきた彼女。ゆくゆくは女優をなりわいとしていくつもりだった。当然、プロレスとのかかわりなど皆無。プロレスを知ったのは、「やってみないか?」とスカウトされてからだった。
「19歳のときに突然声をかけられたんですけど、ずっと断り続けてました。逃げ回ってるなか、一度見てほしいと言われて連れていかれたのがスターダムの会場(後楽園ホール)だったんですよね」
初めて見るプロレス。まったく知らない世界に圧倒された。とくに印象に残ったのは、コグマと紫雷イオ(現イヨ・スカイ=WWE)の闘う姿だった。
「コグマさんはあんなに小さいのに天才みたいな動きをするなって思いました。イオさんはアクロバティックな動きがすごくて、バトンをやってた私に、体操のような動きを生かせるんだと思わせてくれたんですよね。怖いというより、希望を感じたんです。じゃあ、(プロレス)やってみようかなって」
「最初は舞台の現場の延長線上みたいな感覚だったんです」
彼女がスカウトされたのは、女優によるプロレスをコンセプトとして旗揚げするアクトレスガールズだった。2015年5月31日の旗揚げ戦で初期メンバーが一斉デビューし、彼女は万喜なつみのリングネームで初マットを踏んだ。しかし当初はプロレス団体として認められず、プロレスを知らないことでかえって辛い思いもたくさんしたという。試合だけではない。リング外でのしきたりやルールに戸惑うこともしばしばだった。
「アクトレスでデビューした選手たちは舞台で共演したメンバーがほとんどだったので、先輩後輩の厳しさもなく、最初は舞台の現場の延長線上みたいな感覚だったんです」
このままでは業界内でも認められない。危機感をおぼえはじめた彼女に、堀田祐美子との対戦が提示された。プロレスの歴史を知らないとしても、写真だけで圧倒された。「殺されるかもしれない」。そんな恐怖心に打ち勝ち、16年1月31日、彼女は堀田の前に立っていた。やられてもやられても立ち向かっていくひたむきな姿に、最初は否定的だった堀田の心が動かされた。試合後、堀田はアクトレスガールズのプレイングマネジャーの役割を買って出た。以後、堀田の指導もあってアクトレスガールズはプロレス団体として認められていくようになっていくのだが、彼女の思いが届かなければ、アクトレスのプロレスはプロレスになることなく終わっていたかもしれないのだ。
堀田戦から約1か月後の2月21日、彼女はプロレスに初めて触れたスターダムのリングに上がった。前月、REINA後楽園大会で初めて他団体のリングに参戦したのだが、このときはアクトレスのメンバーによるタッグマッチ。スターダムの後楽園大会で、事実上初めてアクトレス以外の選手と絡んだのだ。
スターダムのリングにも上がるようになると、そのままその年の5★STAR GPにエントリー。しかし当時は、シングルリーグ戦の感覚はないに等しかった。上がる団体すべてが初めて、初対戦の選手ばかりだったからである。
「最近シングル多いなと思ったらリーグ戦だったり(苦笑)。外国人選手と試合させていただく機会もあって、ボロクソにやられ続けましたね。トニー・ストームさんには遊ばれてる感じでした。本気でプロレス界に足を踏み入れる以上、このままじゃダメだと思って他団体の練習に参加させていただくようになったんです」
そんななかで出会ったのが、ディアナのSareeeだった。
「同い年ではあるんですけど、4年先輩。本当に先輩って感じでしたね。きついトレーニングで何もできないところを教えてくれたのがSareeeと、伊藤薫さんでした。私がはいつくばりながらやっていく伊藤さんのきついメニューを、Sareeeは簡単にこなすんですよ。それを目の前で見せられて、なんとかついていこうと追いかけてる感じでした。負けたくない感情が芽生えたんです」
アクトレスでの活動に加え、プロレスラーとして強くなりたいとの思いから出稽古にも積極的に出かけた。2019年1月には東京女子に主戦場を移し、同年8・25後楽園でジゼル・ショーとの王座決定戦を制してインターナショナル・プリンセス初代王者に。これが初めてのチャンピオンベルトでもあった。
「ここまで長かったなっていう感覚でした。ずっと意識してる同期の(安納)サオリはすでにベルトを巻いてるけど、私はベルトにとことん縁がなかったので。いまやっとベルトというものを巻けたんだ、やっと始まった、みたいな感じだったんですよね」
ただし、初防衛戦で試合中に負傷。一度も守ることなく王座から転落した。
「悔しい反面、まだ自分はチャンピオンじゃなかったんだなというのをすごく感じました。まだベルトを取るまでの選手じゃないって、神様からのメッセージのように感じたんですよね。でもあれがあったから、ここで満足してちゃいけないと思いました」
親友だったひめかの引退「うらやましいとも思った」
そして彼女は、2020年10月3日、リングネームをなつぽいと改めスターダムに参戦。あれから3年がたとうとしているが、このリングでは中野たむ、ひめか、また最近になって安納サオリら、アクトレスガールズ時代の仲間と再会。とくに中野や安納とは彼女たちの関係ならではの身を削るような闘いを展開した。その上で同じユニットに属し、共闘の道を歩んでいる。そして今、デビュー以来最高値かと思えるような実績を積み上げている真っ最中。キーワードは「最強」だ。ではなぜ、なつぽいは「最強」をテーマに挙げるようになったのか。
「(センダイガールズの)橋本千紘さんのツイッターに『強くなりたい理由はいくつあってもいい』というのを見て、それまで以上に『強い』とか『最強』とかいうワードに引かれたんですよね」
それはちょうど、なつぽい自身が今後についてより真剣に考えているときだった。きっかけは、プライベートでも親友だったひめかの引退だ。
「ひめかは団体が違うときでもほとんど毎日家に来たりとか、プロレスについてもメチャクチャ話したし、一番一緒にプロレス人生を歩んできたんですよね。そんなひめかが自分で決めた通りに引退して、ひめからしいなと思ったし、ある意味うらやましいとも思ったんです。そこから、私は結局何のために闘ってるんだろうとか、なにがしたいんだ、どうなりたいんだと自分のプロレスの意味を深く探し始めたんですよね」
そこで出会った「最強」のキーワード。7月16日には仙女・後楽園に乗り込み、橋本との一騎打ちを実現させた。橋本は現在の女子プロにおいて間違いなく「最強」の一人。そんな橋本に敗れたとはいえ、なつぽいは「プロレス界で唯一無二の存在になること」が彼女にとっての「最強」と感じられた。しかし、ここにきてその意味も若干変わり始めているとも言う。
「まだそれは途中経過というか、また違ったものが見えてきてはいます。それが何かは、5★STAR GPが終わった頃にちゃんとした言葉が出てきそうな気がします」
5★STAR GP最終公式戦は9・30横浜。最後のカードは中野たむとの同門対決。勝った方が決勝進出、となる可能性もあるだろう。金網マッチで命を削り合った両者だけに、これもまた大きな意味を持つ闘いとなるに違いない。
「プロレスって喜怒哀楽が詰まっているから、“プロレスは人生”とも言えますよね。もともと私の人生は女優さんになることだったんです。そのなかでプロレスというものが突然現れて、いま『最強』を目指している。いまでは、プロレスって『最強』に向かうための人生の武器だと思ってます。過去の経験でいろんな武器を得てきたと思うので、この武器を『最強』に向けて使っていきたい。プロレスとは人生の武器。それがいまの自分には一番しっくりきますね」