SNS投稿した写真が無断で展示会に 被害に遭ったカメラマンが“加害者”を無罪放免にしたワケ
イラストや彫刻など、アーティストが作品の制作過程や完成物をSNS上で公開することは少なくない。X(旧ツイッター)上では、あるカメラマンが撮影した写真を無断で展示されたことが注目された。被害に遭った青木ユリシーズ(@ulysses_aoki)(以下ユリシーズ)さんに経緯を聞いた。
著作権や肖像権について考えるきっかけに
イラストや彫刻など、アーティストが作品の制作過程や完成物をSNS上で公開することは少なくない。X(旧ツイッター)上では、あるカメラマンが撮影した写真を無断で展示されたことが注目された。被害に遭った青木ユリシーズ(@ulysses_aoki)(以下ユリシーズ)さんに経緯を聞いた。
「あまりにも衝撃的過ぎて、どうしたら良いかわからず…。とりあえずここで報告します。インスタのこの人(Toki Kodama)が、僕の写真で半分構成された展示を名古屋で開催していたとのことです。勿論無断です。自分の作品かのように僕の写真が使われていて、盗用とかそういうレベルじゃないですこれは」という投稿があったのは8月の半ば。文章と共に投稿された4枚の写真には、展示会場の様子も写っている。
被害に遭ったのはカメラマンのユリシーズさん。8月14日に自身のフォロワーから「ユリシーズさんの作品に似ている写真が展示会で、展示されているようだ」と連絡があり、仰天。展示会の告知をしていたToki Kodama(@pen_pugler)さんのアカウントを確認したところ、自分のアカウントがブロックされており閲覧できない状況になっていた。
困ったユリシーズさんは翌日、Xのアカウントを通じで状況を報告。「拡散をお願いしたい」という声にフォロワーらが応え、数時間後には展示会が行われていたギャラリーの場所や、開催時期が判明。ギャラリーのスタッフを通じて、Toki Kodamaさんとやり取りをすることができたという。
「展示会は今年の1月に名古屋(愛知県)で行われていたようです。2日開催され、全部で15点ほどの写真が展示され、その半分が僕の写真でした。賞を取った作品もあったのでとても困惑しました。もちろん事前に連絡はなく、話を聞いて驚きました。(加害者についての)情報などが分からなかった間は、法的な手段も視野に入れなくてはいけないのかなど考えました。でも彼と直接話をして、本当かどうかは定かではないにしろ著作権侵害に当たる行為だとは考えていなかったということ、展示会で写真の販売などはなかったこと、開催時に写真のプリント販売などは行っていないことなどを加味し、Tokiさんがインスタグラムのアカウント上で謝罪をすることを約束した上で、今回僕が知っている事実に基づいて、法的措置を取ることは検討しないことにしました」
Tokiさんから直接謝罪を受けた30分ほどの通話を終えたユリシーズさんは、一連の流れについて、フォロワーに投稿で状況を報告。最初は「こんなあり得ないことがホントに起こるものなんですね…。自分が0からクリエイトした作品が知らずに使われているなんて愕然とします…。ちゃんと罰せられて欲しいと願うばかりです」「さすがにこれは開いた口が塞がらないですね。予想の斜め上というか。写真業界的にも真相と責任追及はしっかりとしないといけない」など支援のため拡散をする人の姿が多くあった。しかし一方で水に流すと決めたユリシーズさんの元には「お人好し過ぎる」と非難する人も現れた。
「彼になぜ写真を無断使用したのかと聞いたとき、『ユリシーズさんのような写真を撮りたかった。憧れていた』という説明がありました。まだ20代前半の彼に対して、犯した罪を追及するよりも、僕が大切にしてきた『キャンディッド写真』を撮れるように努力をしてほしい。『憧れている』という言葉が本当なら、憧れている人の言葉は心に刺さるはずですよね。たくさん苦労をして試行錯誤を積み重ね、撮りたいと思うものが残せるようになったときに、今回自分がしたことの罪の重さを、身をもってやっと分かるはず」と話してくれた。
4~5歳ごろからずっとモデルとして活動をしていたユリシーズさん。10代のとき、「いつもカメラを向けられているけれど、撮影をする人の気持ちが分からない」と思量し、自分の仕事の力になればと20歳のときにお金を貯めてカメラを購入。最初はポートレートを撮影するようになったという。今回盗用された「キャンディッド写真」を始めたのは2016年ごろ。レフ板を置くなどの手を加えず、スナップのように時間を切り取る写真に魅了され、国内外を歩き回りシャッターを押し続けている。
「今回のように作品を無断使用するという大胆なことは初めて経験しましたが、撮影をした写真の構図や対象をまねされたことは過去にたくさんありました。インスピレーション(影響)との線引きは、グレーゾーンであり続けます。ファッションの場合はトップコレクションで発表されたデザインが、数週間後にファストファッションの店で販売されることは珍しくないこと。僕ら写真家は、自分にしか撮れないものを追求していくしかない。悔しいけれど、撮って発表し続けて、力をつけていくしかない」と苦しい胸の内を明かしてくれた。
世間を騒がせたTokiさんは、ユリシーズさんと交わした約束通りインスタグラムの投稿を通じて「この行為が肖像権・著作権侵害にあたるという事をその時の私は認識しておらず、展示会で友達に見せたいが故に作品を出展した」などと説明。謝罪をした上で、「私自身の安易な考え方を徹底的に見直すことから始め、日常生活の行動から気を改めて過ごしていきます」としている。
ユリシーズさんは「今回のことで、著作権や肖像権について考えてくれた方がいたことは、今後の活動に向けての救いになりました。僕自身も写真の公開をどのようにしていくのか、考えて行きたい」と語っていた。