「富士山は悲鳴を上げている」 山梨県知事が強い懸念 世界遺産登録「抹消されてしまう恐れ」
山梨県の長崎幸太郎知事が28日、都内の日本外国特派員協会で会見し、観光客の殺到が問題となっている富士山登山の現状について説明した。
世界遺産登録10年 「記念すべき10年と気楽に語っていられるような現状ではない」
山梨県の長崎幸太郎知事が28日、都内の日本外国特派員協会で会見し、観光客の殺到が問題となっている富士山登山の現状について説明した。
富士山では外国人観光客の急増とともに、山小屋に宿泊せずに山頂でのご来光を目指す弾丸登山が相次ぐほか、サンダルなどの軽装登山による体調不良や救急搬送も深刻化している。
長崎知事は、「今年世界文化遺産の登録から10年の節目を迎えました。しかし、記念すべき10年というような気楽に語っていられるような現状ではありません」と、強い危機感を表明した。
五合目を訪れる観光客の数は、2012年の231万人から翌13年の世界遺産の登録を挟み、19年には506万人へと倍増した。コロナ禍で減少したものの、インバウンドの回復で再び急カーブを描いて上昇している。それに合わせ、オーバーツーリズム(観光公害)が、大きな懸念材料となっている。
長崎知事は、世界遺産の登録の際に、世界遺産委員会から与えられた3つの宿題を復唱。「一つ目は人が多すぎること。来訪者を適性にコントロールすることが必要であるという指摘をいただいています。二つ目は環境負荷が極めて大きいこと。来訪者の車、バスから大量の排気ガスが出ている問題がある。三つ目はコンクリートの駐車場など人工的な景観が目立つこと。これが果たして信仰の場所にふさわしいのか。信仰にふさわしい場所にすべきだ。こういうご指摘をいただいています」
そして、「これらの指摘に対し、山梨県は富士山ビジョンというものをまとめ、報告書をユネスコ(国連教育科学文化機関)に提出している。こうした指摘に真摯(しんし)に対応していかなければ、最悪の場合、世界遺産登録から抹消されてしまう恐れがある」と、懸念した。「イタリアのベネチアが先日、オーバーツーリズムが原因で世界遺産センターから危機遺産リストに加えるようにという勧告を受けたばかり」とし、存続が危ぶまれる世界遺産「危機遺産」入りを危惧する発言もあった。
山梨側の麓から五合目にアクセスする有料道路の富士スバルラインは、マイカー規制の導入で、普通車の通行量が減少。一方で、「規制の対象にはなっていない大型観光バスは大幅に増えています」と指摘したように、大型観光バス等は19年までの8年間で2.2万台から6.8万台と3倍以上に膨れ上がった。「富士山の現状をひと言で表現しますと、悲鳴を上げているということになります」と、富士山の気持ちを代弁した。
解決策は鉄道化 「電気バスでいいのでは」「これ以上自然を傷つけないでくれ」の声も
こうした中、改善策として計画しているのが、「富士山登山鉄道構想」だ。長崎知事は19年の初当選の際に公約。「現在の自動車道路である富士スバルラインを廃止して、その上にライトレールを敷設します。CO2を排出しない次世代路面電車(LRT)を走らせる計画」と、訴えた。
登山ルートの一部を“鉄道化”するメリットについては、来訪者数をコントロールできることを挙げ、「電気の供給は地面からワイヤレスで行います。パンタグラフがなく、電柱もありません。自然破壊を最小限にする鉄道と考えています」。実現のメドについては、「現時点において何年後というのは難しい段階」と明言を避けた。また、反対論として、「鉄道という大がかりな仕組みではなく、電気(EV)バスでいいのでは」「これ以上自然を傷つけないでくれ」などの声があることを明かした。
「登山客の最も多いルート、特に弾丸登山のようなイージーな上り方は、五合目から来られる方が多い。五合目に来られる方をどうコントロールするかによって、五合目以上の富士山登山を安全なものにすることができます」としている。
富士山登山の混雑解消に向けては、適切な入山料の徴収、義務化を求める声もある。
長崎知事は富士山の山頂にいたるルートが、日本の法律上道路として位置づけられていることから、「混んでいるから通らないでください、とは言えない。観光客を制限する手段を持っていないというのが置かれている現状」と主張。「スバルラインという道路法上の道路を廃止して、そこに鉄道を通すことによって、入山料や適性な費用の負担、あるいは(登山の)知識ですとか、登ってこられる方にオブリゲーション(義務)を求めることができる」と、声を大にした。
7月、8月の登山客の集中、そしてリスクを軽視する登山客が一向に減らない富士山に、何らかの規制をかける機運は高まっている。
「五合目にはライフラインがありません。発電機の排ガス、し尿処理が急激に増加している。環境面、衛生面ともに、国際観光地の標準を満たしていないとの指摘もいただいている」
富士山のあるべき姿をどう整備するのか。「富士山観光について、量から質への転換を図るべき、と確信しています」と、長崎知事は力を込めた。