「熱中症かと思ったら…」 心筋梗塞で緊急手術 51歳男性が奇跡の生還 語った異変「冷や汗が滝のように…」
猛暑が続いた夏、気をつけていても体調を崩してしまった人はいるだろう。特殊車両レンタル業「ジープカフェ東京」(千葉・松戸市)を経営する和田裕之さんは、7月27日、突然原因不明の体調不良に見舞われた。最初は「あれ、熱中症かな?」と思っていたが、意識を失い、救急搬送。急性心筋梗塞と診断され、緊急手術を受けた。それまで自覚症状は全くなかったという51歳の和田さんは、なぜ病魔に襲われたのだろうか。
壮絶闘病記 「これは本当にやばいやつかもしれない」
猛暑が続いた夏、気をつけていても体調を崩してしまった人はいるだろう。特殊車両レンタル業「ジープカフェ東京」(千葉・松戸市)を経営する和田裕之さんは、7月27日、突然原因不明の体調不良に見舞われた。最初は「あれ、熱中症かな?」と思っていたが、意識を失い、救急搬送。急性心筋梗塞と診断され、緊急手術を受けた。それまで自覚症状は全くなかったという51歳の和田さんは、なぜ病魔に襲われたのだろうか。
元クライスラー社員の和田さんは、車の貸し出しやコーティングを請け負う仕事をしている。コーティングの場合、1台に要する作業時間は洗車から始めて2~3日、計20時間ほど。半年先まで注文が埋まるほどの人気だったが、社員は和田さん以外にいないため、夜遅くまで1人で作業に追われることも珍しくなかった。
7月27日の昼過ぎ、和田さんは仕事場に飲料を2ケース降ろし、少し離れた駐車場に車を止めようとした。すると、突然、体に違和感を感じた。「どうも気分がすぐれない。熱中症かな」。連日、猛暑が続いていた。仕事場ではなく、自宅に戻ろうと車を走らせたが、「家まで大きい信号は1個しかない。その信号がすごく長く感じて、早く帰りたいなと不安にかられました」。
自宅に着き、2階の部屋で水分を補給したが、体調は一気に悪化する。
「やっぱり下の居間に行こうと思ったときはフラフラで……。血の気が引く感じですよ。激しいめまいがしました。下に行こうという意識はあったんですけど、階段から落っこちました」
意識もうろうのまま階段の途中で動けなくなる。夏休みで在宅していた娘に氷と水を持ってきてもらい、急きょ職場から妻を呼んでもらった。
いったん症状は落ち着き、和田さんは部屋で眠りにつく。そして、午後7時ごろ起きると、再び異変に襲われた。
「冷や汗が滝のように出てきて、これはちょっとまずいな。本当にやばいやつかもしれない」
夕食どきなのに食欲がないどころか、尋常じゃない汗の量で、目の焦点も合っていなかった。すぐに救急車が呼ばれたものの、動けない。104キロの体は2階から救急隊5人がかりで担ぎ出された。
救急車の中で、「これ、まずいかもしれない」と話す救急隊員の声が聞こえた。続いて、同乗する妻に対してかけられた「心筋梗塞だと思う」という言葉も耳に入った。心電図をつけられ、心臓の動きがリアルタイムで表示されていた。
のちに診断された病名は、「ST上昇型急性心筋梗塞・心不全」だった。
病院に着いて5分後に、妻は「急性心筋梗塞なので手術をします」と告げられる。右心房の血管が詰まっており、血管の通りをよくするためのカテーテル手術が実施された。
カテーテル手術中のAEDに絶叫 「尋常じゃない声が出た気がします」
和田さんの意識はあったままだった。
「手術中も声は聞こえるんですよ。先生たちの声が」
血流が戻ってきているのか、冷たかった体が次第に温かくなっていくのを感じた。しかし、意識は何度も遠のいていく。そこで和田さんに行われたのはAEDの処置だった。
「本当意識が薄れていくんですよ。そうしたとき、AEDのショックが来るんです。ドカーンって。尋常じゃない声が出た気がします。4回目ぐらいまではしっかり覚えていますね。『先生、それ痛いからやめてもらっていいですか』って言ったんですよ」
のちに病室でこのときの状況について聞くと、7~8回ほどAEDが使われたという説明を受けた。先生からは「心臓止まっていましたよ」と伝えられた。万一に備え、「人工心肺」も用意されるほどだった。
「心臓が震えてしまって、それを治すには電気ショックしかない。(残りのAEDに)気づいていないのは無意識だからだと思いますよと、言われました」
手術は1時間半ほどで終わり、ICUに入った。和田さんは妻に、開口一番、「次の日の仕事キャンセルして……」とつぶやき、深い眠りに入った。
翌朝、目が覚めた。
「生きてるんだって思いました」
体はチューブだらけ。鼻から酸素を吸っていた。ICUで4日を過ごし、一般病棟に移った。リハビリは慎重を期した。「『無理すると、心臓が破裂する』と言われました。『ウソでしょ?』って聞くと、お医者さんは『そんな人何人も見てきました』と」。幸い、術後の経過は良好だったため、8月5日に退院。現在はAEDチョッキを着けながら、生活している。
毎年健康診断を受け、たばこは吸わない。飲酒も出張のときくらいだった。普段はどんぶり飯、ファストフード店ではハンバーガー3個をたいらげるほどの大食漢であったが、大きな持病も既往歴もなかった。血圧は上が145とやや高かったが、「血圧が高いのは知っていたんですけど、心筋梗塞なんてまさか自分が…」という気持ちは強い。
驚いたのは、血管がボロボロだったこと。入院中、看護師が注射器を腕に刺せず、数回試して「ちょっとダメだ。私、自信ない」と、さじを投げてしまったこともあった。自覚症状がないところで、静かに大病へのカウントダウンが進行していた。
医師が厳命「体重は70キロに」 食事は「塩抜きハンバーグ」に「塩抜き炒め」
医師や栄養士からは、塩分を控えること、早食いをやめること、そして体に負担をかけないことを指導された。
食事制限などにより、体重は退院後1週間で5キロやせた。医師からは、体重を70キロまで落とすよう勧められており、残りは約30キロとなっている。
現在の食事については、「病院で出てきた食事量を継続しています。食塩が入っているものはないですね。ハンバーグは塩抜きですし、炒め物も塩抜きです」と説明。「グルメの人がこんなになったら地獄ですよ」と笑ったが、命には代えられない。
冬に多いイメージの心筋梗塞、実は夏場も注意が必要と訴える専門家は多い。日本心臓財団は8月10日を「健康ハートの日」と定めている。
「次こうなったとき、またあのAEDの痛みを考えたら……。本当、電気いすみたいな感じなんですよ。どくろの絵がピカピカってなるじゃないですか。まさにあれですよ」
文字通り、死の淵から生還した和田さんは、「50年間の積み重ねがよくなかった。人間ドックも受けたほうがよかったですね。車で言う車検のようなものですから。自分は大丈夫と過信していたのが大間違い。基本的な生活習慣を見直します」と再発防止を誓い、療養に努めている。