【この素晴らしき世界】脚本家“烏丸マル太”は番組Pだった タイトルに込めた意味「エンタメは素晴らしい」
俳優の若村麻由美が主演を務めるフジテレビ系ドラマ『この素晴らしき世界』(木曜午後10時)のプロデューサーを務める鈴木吉弘氏、水野綾子氏が取材に応じた。本作の脚本家は“烏丸マル太”というペンネームのみでこれまで正体は明かされていなかったが、今回の取材の場で鈴木氏であることが判明した。ペンネームを使用した理由や名前の由来、そして、ドラマに込めた思いを語った。
『この素晴らしき世界』は完全オリジナルドラマ
俳優の若村麻由美が主演を務めるフジテレビ系ドラマ『この素晴らしき世界』(木曜午後10時)のプロデューサーを務める鈴木吉弘氏、水野綾子氏が取材に応じた。本作の脚本家は“烏丸マル太”というペンネームのみでこれまで正体は明かされていなかったが、今回の取材の場で鈴木氏であることが判明した。ペンネームを使用した理由や名前の由来、そして、ドラマに込めた思いを語った。(取材・文=水谷賀奈子)
完全オリジナルドラマとなる本作は、平凡な主婦が、ある日突然失踪した大女優になりすまして“二重生活”を送ることになるコメディー作品。若村が主婦・浜岡妙子、大女優・若菜絹代の一人二役に挑んでいる。
フジテレビ木曜10時枠のドラマとして発表された同作。“脚本:烏丸マル太”という見たことのない名前に、SNS上では、正体を考察する人も現れるなど、話題になった。鈴木氏もここまで話題になるとは予想していなかったと明かした。
一方で、鈴木氏は「ペンネームで書きたかったわけではないんです」とボソリ。「新たに脚本家と話すとなると時間もかかるし、明確になっていた『こういうドラマにしたい』というイメージと離れてしまうと思ったので、本も書きました。でも、フジテレビの伝統で、プロデューサーが脚本を書くときはペンネームにするっていうのがあって……」と“内部的な事情”を告白した。さらに、「大学で8ミリ映画を作っていたときに、エンドロールに載せる名前として使っていたんです。当時のバイト先が京都の烏丸丸太町にあったので」と名前の由来も説明した。
すると水野氏は、「第1話の脚本は書いてくださっていて、読んだら面白かったので『このまま書いたほうがいいですよ』っていう流れになったんです」と付け加えた。
第1話から、ドラマ放送後には大きな反響があったようだ。
「ネットを見ていて『期待せずに見たら面白かった』という意見が多かったので、そういう方が定着したらいいなと思いますね。主婦のリアルさが刺さったのかなと思います」(鈴木氏)
「身の周りの人からの反響が大きかったです。キャスト陣の演技力が好評でした」(水野氏)
主人公を演じる若村に、コメディーのイメージを持つ人は決して多くはない。鈴木氏は「映画『老後の資金がありません』を見たときに、面白い人だなと思ったんです。若村さんが『アリーmy Love』の吹替をやられていたときの声が基本半笑いしているような声で、コメディーが似合うと思っていたんですよね。そこで、彼女が今までやっていなかったコメディーをやってほしいと思って、声をかけました。本人も『いつかやりたい』と思っていたみたいで。力量が発揮されていると思います」と起用の理由を語った。
その言葉通り、若村の配役は間違いなかったようだ。2人は手応えを感じている。
「主婦の役は特徴的なんですけど、本当の若菜とニセ若菜の見た目はほぼ一緒だから差別化はできないと思っていたんです。でも、しっかりと差が出ていて驚きました」(鈴木氏)
「見た目も微妙に違うので、注目してほしいです。女優の方がきつく見えるように前髪とかメイクとか歩き方も、若干違うんです。過去の若菜の写真もメイクの濃さを調整したんですけど、劇中の事務所に貼ってあるポスターはマックスで濃いです」(水野氏)
鈴木京香の体調不良による降板を受けての代役出演が決まった若村は、準備期間が短かったことへの不安を吐露しながらも「スタッフもあたたかく迎え入れてくださった」と囲み取材で語っていた。
実際の現場の雰囲気について鈴木氏は、「正直、撮りやすいシーンから並べるみたいなことはできていなくて、『受けてくださってありがとう』って言いながらも『すみません、初日なんですけど、9話撮ります』みたいな、優しくはなかったと思います。精神的にはサポートするけど、仕事のスケジュールとかで言うとめちゃくちゃです(笑)。若村さんも、フルで働いていらっしゃるのに不平も言わずに、ありがたいです」と感謝を口にした。
今作の企画自体は30年前にできあがっていた
手掛けた脚本はキャストやスタッフからも好評とのこと。鈴木氏も満足げな表情を浮かべた。
「恥ずかしいんですけど、『本が面白い』っておっしゃっていただきましたね。最近ちょっと戻ってきたけど、40~50代の役者さんがど真ん中にいけるものって少なくて。医者や刑事ものの社会派ドラマしかなくなって、可能性が狭くくなっているって、我々も役者さんたちも思っているなかで、今回のコメディーという企画に『いいじゃん、やろうぜ。そういうの見たかった』っていう感想でしたね」
意外にも鈴木氏の中で本作の企画そのものは30年前にはできあがっていたとのこと。当時は少し設定が違っていたと明かす。
「当時は、主人公の20代アイドルが失踪する話で進めていたんです。いつかやりたいと思っていたけど、タイミングがなくて……。それが今回は年齢層の高い、大人が見られるドラマにしたいという方向性になりました。そうなると、社会派や人間のグロテスクな部分が多くなってしまうのですが、コメディー要素のあるものにしたかったんです。それで、当時のものを起こして、一緒に考えていた人たちにも相談して実現しました」(鈴木氏)
今となってはSNSは切っても切り離せないツールとなっているが、本作の企画ができあがった30年前にはもちろん存在しないものだった。また、企画のベースは当時の映画から取り入れていた。
「30年前ってポケベルくらいの時代なので。今の芸能界を描くとなったら、ネットっていうのは当然要素として入れなきゃいけないんですよね。だから、細かい設定は大きく変わっています。SNSを利用して情報収集したっていうことはないけど『どういう風にSNSが機能していて、どういう立場の人がそれをどう受け止めているか。プロダクションや事務所の人・テレビ局はそれをどう見ているか。ゴシップネタも含めて、芸能界の情報はこういうのがこういう風に炎上するんだ。こういう用語が出てくるんだ』っていうことは検証しようとは思いましたね。
当時はハリウッド映画とかを見て『こういうのが面白い』って発見していくことが多かったです。『デーヴ』という大統領の身代わりをするアメリカのコメディー映画があるんですけど、ちょうど30年前くらいにそれを見ていました。『デーヴって面白いよね。ああいうのやりたいよね。バック・トゥ・ザ・フューチャー面白いよね、やりたいよね』みたいな。好きな映画をパクるって意味じゃないけど、『ああいうテイストのものをやりたいね』って言って作っていました」(鈴木氏)
2人は本作に並々ならぬ思いを込めている。テレビ、エンタメ業界に従事する2人だからこそ、『この素晴らしき世界』という作品へ情熱を注いでいる。
「僕もこのテレビ、エンターテインメント業界で30数年やってきたんですけど、この業界が大好きなんです。『この素晴らしき世界』っていうタイトルは、まずはこの業界のことを言っているんですけど、いろんな問題はあるけれど、本当に素晴らしいと思っていて、もっと素晴らしくしていかなければいけないと思うんです。その中で、変わらなければいけないこと、変えちゃいけないことがベースにあると思うんです。
でも、やっぱり僕が1番言いたいのは『エンターテインメント、コメディー、ドラマというものは素晴らしいのだ』っていうことがベースにあるんですよね。人間っていうものもいい部分と悪い部分があるじゃないですか。でも、人間はそういうものなんです。そういう人たちが作っているこの世界は素晴らしいものだし、素晴らしくなきゃいけないよねというのが、テーマとして伝わればいいなと思っています」(鈴木氏)
「(鈴木)吉弘さんが話したことは、私も本当にそうだなと思っていることなんです。今回はたまたま女優という設定なので、芸能界が描かれてますが、芸能界の闇を暴きたいっていうような話ではないんです。『どんなところでも通用するものにしたいよね』って話を最初からしていました。『なんでこうなんだろう』って、おかしいと思っていても言えないことを主婦が代弁する。そこに共感性を持って見ていただけたらなと思っています」(水野氏)