百貨店で髪のつかみ合い…王者・中島&Sareee、前代未聞な調印式の裏にあった猪木イズム
「SEAdLINNNG(シードリング)~8周年記念大会!~」(8月25日、後楽園ホール)で実施される、王者・中島安里紗にSareeeが挑戦するタイトル戦。7日には両者が出席の下、調印式が行われたが、これを終えた中島を直撃。本番まで待ったなしと迫った、Sareee戦への思いを聞いた。
中島は断言「『悪魔』『野蛮人』にはどうも思わない」
「SEAdLINNNG(シードリング)~8周年記念大会!~」(8月25日、後楽園ホール)で実施される、王者・中島安里紗にSareeeが挑戦するタイトル戦。7日には両者が出席の下、調印式が行われたが、これを終えた中島を直撃。本番まで待ったなしと迫った、Sareee戦への思いを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「ようやく試合をやるだけだなっていう感じですね」
調印式を終えたばかりの王者・中島は、思ったよりも落ち着いた面持ちでそう答えた。
東京・新宿にある京王百貨店で(15日まで)開催中の「燃える闘魂 アントニオ猪木展」で行われた調印式。まずは中島に、日本有数の百貨店での調印式を終えた感想を聞いてみる。
「すごいですね。初めての経験、道行く人も、初めて見て、なんだろうみたいな感じが面白かったです。でも、ああいう場所でできたなっていうのはすごくありがたいことだし、貴重だとも思いますけど、(調印式で)言った通り、何やってんだろって思う部分も、あります」
そう言って中島は、Sareeeが2日のプレオープンイベントにも参加した「猪木展」での調印式には、全面的に賛同しかねる雰囲気を漂わせる。この発言から、中島がSareeeとの心理戦を有利に運びたいと考えていることが読み取れる。要は、すでに両者の闘いははじまっているのだ。
しかも、日本有数の百貨店での調印式だというのに、中島とSareeeはまさかの髪の毛のつかみ合い。さすがは場所が場所だけに「猪木の常識は世間の非常識」(アントニオ猪木)を地で行く前代未聞の調印式となった。これは冗談でもなんでもなく、あのまま行ったら警察沙汰にもなりかねない。
これに関して中島は「たしかに。ホントですね。楽しかったです」と余裕の表情で淡々と答えた。
「私もSareeeも、本来そんなしゃべるタイプでもないっていうか、リングで見せようよっていうタイプなので。この闘いもそんなに言葉は重要じゃないのかなって。だからリング上を見てほしいですね」(中島)
そんな中島に聞いてみたいことがあった。それはSareeeが中島を「悪魔」呼ばわりしていることだ(実際には「クソ悪魔」と呼ばれているのだが)。さらに言えば、「Sareee-ISM~Chapter II~」(8月4日、新宿FACE)でタッグを組んだ彩羽匠(マーベラス)には「野蛮人」と呼ばれていた。
「どうも思わないです。悪魔じゃないので。人間なので。それと私はなぜかみんなに『野蛮人』って呼ばれているんですよ。ホント失礼だなと思って。私、趣味が読書、映画鑑賞、宝塚観劇なんですよ。メチャクチャ上品じゃないですか。だから納得いかないとは思ってますけど……」
中島「ニーズに応えていく感じが気持ち悪い」
しかしアイドルレスラー全盛の女子プロレス界にあって、Sareeeと並んで中島ほど激しい試合をする女子プロレスラーはいない。それが「悪魔」や「野蛮人」呼ばわりされることを、本人的にはどう思っているのだろう。
「私が一番の正解だと思います、本来はね。それがねじれちゃってるから、今の女子プロレス界は。だから本来、私が正解っていうのを伝えたいですね」
「冷酷の刃」「バイオレンス・クイーン」「クソ悪魔」「野蛮人」……。中島に付いた呼称は、それなりに存在するが、個人的にはこれに、「絶滅危惧種」「世界一恐ろしい女子プロレスラー」「壮絶試合製造機」「女IGF」あたりを加えたいと思う。
事実、先だって中島は「リング上にハッピーなんてない。やり合い、殺し合いなので」と話していた。この言葉通り、中島の闘いには独特の“すごみ”を内包した「殺気」が充満している。とくにSareeeとの絡みはそれが顕著に見て取れる。当然、Sareeeも「殺気」で返す。つまり両者が「殺し」の継承者であることが、あからさまに伝わってくる。
さて、今回の「Sareee-ISM~Chapter II~」で中島は、“海賊王女”KAIRIと初の遭遇を果たした。見ていて思ったのは、KAIRIの持つ独特の“間”である。とくに最初に彩羽と相対した際には、両者の肌が触れ合うまでの緊張感に愛すべきものがあった。
「(KAIRIとは)そんなに当たってないけど、たしかに自分のスタイルがあるなっていうのは見ていて感じましたね」(中島)
ちなみにKAIRIは試合後のX(ツイッター)にて「楽しかった。とにかく楽しかった」と発しているが、中島はこれに対し、「楽しかったっていうほどやってないですけどね」ともらした。
しかも中島は、SareeeとKAIRIによる元WWEスーパースターズに対し、「ドリームタッグとか自分で言っちゃって。気持ち悪ッと思って」と毒舌を吐く。
「なんていうんですかね。嫌ですね。気持ち悪いなって思っちゃう。お客さんのニーズに応えていく感じが気持ち悪いって思っちゃう。それでいいんでしょうけど」(中島)
中島の言動から考えると、ニーズに応えていく手法は、ともすれば「観る側」にこびているように感じるのだろう。
何者にもこびず、引かず、かえりみず、徹頭徹尾、非情に生き抜く。大げさに言えば、リング上で中島が放つ「殺気」はそこから生まれているのだと思う。
南月代表「世界の女子プロレスの歴史に刻まれる」
だからこそ、「Sareee-ISM~Chapter II~」でタッグを組んでいた彩羽から「こんな同じレスラーとしてドン引きさせるのはあの2人(中島とSareee)くらいだと思います」との言葉が出てくるに違いない。
「私はお客さんを引かせたいと思うし、私には子どもたちが楽しめるようなプロレスはできない。逆に子どもたちが泣き叫ぶ試合を常々したいと思っています」(中島)
中島は自身のプロレス理念をそう言葉にした。実を言うと、この言葉に呼応するような発言を、調印式の冒頭、シードリングの南月たいよう代表が話していた。
「最近の女子プロレスはエンターテインメントの部分に振り子が振られている部分が大きいかなっていう。そんななか中島とSareeeは“見せる”前に“闘い”に信念をもって闘っている。その“闘い”の部分に重きを置いている2人が記念すべき大会で闘うということは、やはり日本の女子プロレス、世界の女子プロレスの歴史に刻まれる一戦になると思います」
南月代表は、今は存在しない全日本女子プロレスの最後の新人だった人物。いわば全女イズム最後の継承者でもある。その南月代表が8周年記念大会という節目の大会に、なぜ中島VS Sareeeという一戦を組んだのか。その謎解きの答えが、この一戦には込められている。
実際、調印式では中島が「(試合時間の)30分ギリギリまで、29分しっかり楽しんで最後はエルボーで仕留めたい」と発言すれば、Sareeeは「その前に私はこいつの右腕をへし折りたい。アントニオ猪木さんがタイガー・ジェット・シンの腕を折ったように、私もこいつの腕を折ってやりたい。しばらく欠場させてやるくらいの勢いで行きたい」と腕折りを宣言していた。
このやりとりを見聞きしながら、「猪木展」の会場にはなかなかの不穏な空気が流れていたが、中島は「タッグ対決と違って、8月25日は(Sareeeと)1対1なので、私に負ける要素はない。会見でも言ったように、Sareeeはどれだけぶん殴っても壊れないし、私のいいおもちゃだって思いますね。滅多にいないですから、そんな相手は」と、さらなる不穏な言動を繰り返す。
いやはや、そんなやりとりを書き記していたら、ふとある考えが脳裏をよぎった。もしやこの対決は、昨年、あちらの世界に旅立ったアントニオ猪木が糸を引いているのではないか。そう思えたのだ。日頃から「プロレスは闘いである」と口にしていたアントニオ猪木は、もしかしたら中島とSareeeを活用して、日本のプロレス界に気づかせたいものがあるのかもしれない。
そう考えると、中島vsSareeeには、どんな仰天結果が待ち構えているのか。すでに本番まで2週間を切った。
果たして鬼が出るか蛇が出るか――。