【週末は女子プロレス♯114】強さを求めるSareeeイズムが浸透 KAIRI、ジャガー横田、田中きずな…自主興行大成功の理由

WWEを退団し2年4か月ぶりに活動拠点を日本に戻したSareeeが、5・16新宿FACEに続く自主興行「Sareee-ISM ChapterII」を8月4日、同所にて開催。前回を上回る561人の観衆を動員し、連続の超満員札止めを記録した。試合数こそ全4試合とコンパクトながら、どの選手もサリーイズム、すなわち「強さを求める闘い」にこだわった熱い試合を披露した。

取材に応じたSareee(左)【写真:新井宏】
取材に応じたSareee(左)【写真:新井宏】

後輩・田中きずなへの思い「きっかけを作ってあげたいな」

 WWEを退団し2年4か月ぶりに活動拠点を日本に戻したSareeeが、5・16新宿FACEに続く自主興行「Sareee-ISM ChapterII」を8月4日、同所にて開催。前回を上回る561人の観衆を動員し、連続の超満員札止めを記録した。試合数こそ全4試合とコンパクトながら、どの選手もサリーイズム、すなわち「強さを求める闘い」にこだわった熱い試合を披露した。

 所属が異なる選手たちが集まるリングで、これだけ統一感のある大会は珍しい。それだけに、プロモーターSareeeがあらかじめ選手たちに大会コンセプトを説明したりしたのか気になった。出場選手を選び、マッチメークを担当したSareeeに聞いてみると……。

「いや、それぞれ個性があるし、その人のよさがあるから、自分からこういう試合をしてくださいとか言うことはないです。それをやってしまうと自分のエゴになってしまうので。それでもみんながサリーイズムというか、私が見せたいと思ってる試合を自然と感じ取ってくれて、そういうものを出してくれたんだなというのはすごく感じましたね」

 第1試合は星いぶき(アイスリボン)vsChiChi(Evolution)という若手同士のシングルマッチ。ChiChiはSareeeがEvolutionに参戦し、直接シングルで対戦した新人選手だ。「こんな新人がいるんだと知ってもらいたい。すごく気が強いのでこれからが楽しみ」との思いで星との一騎打ちを組んだという。

 第2試合はジャガー横田(ディアナ)&田中きずな(wave)組vs伊藤薫&狐伯(wave)組。きずなは田中稔、府川唯未の長女。両親がレスラーという環境に育ち、今年4月にデビューした。ここへきて他団体参戦が本格的にスタートし、これが彼女にとって25試合目。この段階で大御所ジャガーと組み、デビュー前に練習を見てもらった伊藤、同じ団体で尊敬する先輩の狐伯と対戦するのは大抜擢とも言えるだろう。このカードには、きずなに対するSareeeの思いが多大に込められているのだ。

「きずなちゃんはデビューする前から私の試合を一人で見に来てくれたりもしていたんですよ。その彼女が練習生になるとアメリカで聞いたとき、ホントにプロレスしてくれるんだと思って、すごくうれしかったんですよね」

 ジャガーとのタッグは、デビュー当初のSareeeを思い出させる。Sareeeはジャガー、伊藤、井上京子、さらにアジャコングら大ベテランにもまれ、ボロボロにされ強くなった。試合のたびに悔し涙を流していたものだが、それがいまでは、WWEまで経験した彼女にとって大きな財産になっている。

「私は新人時代、元全女の方たちにプロレスの厳しさをとことんたたき込まれたんですよ。当時はまったく歯がたたなかったりしたけど、そういう先輩方がいたから今の自分があると思うし、私の武器になっているんですよね。きずなちゃんも、いまは何もできないかもしれないけど強くなりたいと思って頑張ってる。当時の自分に重なるんですよね。なので、ここではジャガーさんと組んでもらうことによって、きっかけを作ってあげたいなと思いました」

 Sareeeから譲り受けたというニーパットを装着して試合に臨んだきずな。だが、実際にはやはり捕まる場面が多かった。とはいえ、そこは十分に想定内。数年後、この試合が思い出されるときがきっとくる。

「お母さんの大先輩でもあるジャガーさんと、デビューしてまだ数か月の私が組ませていただけるなんて思ってもいなかったので、とても光栄でした。いつかまた組ませていただける日が来たら、またSareeeさんから呼んでもらえる機会があれば、そのときはいまとは全然違う強い自分でいられるように、もっともっと頑張ります」と、きずな。いずれはSareeeと組んだり闘ったりするチャンスも生まれるだろう。この試合でモチベーションが高まったことは確実。きずなにとってひとつの分岐点となったかもしれない。

女子プロレスは若い世代に注目だ【写真:(C)Sareee―ISM(ペペ田中)】
女子プロレスは若い世代に注目だ【写真:(C)Sareee―ISM(ペペ田中)】

タッグ戦は「KAIRIさんの間の取り方や見せ方にWWEを思い出しながら」

 第3試合は桃野美桜(Marvelous)vs高瀬みゆき。「この2人はメチャメチャ気が強い。2人のプロレスが私は大好きだし、プロレスが大好きという気持ちがあふれ出てますよね」。Sareeeの期待通り、桃野と高瀬はリング上で気迫のこもった熱い攻防を展開。これぞ今の日本の女子プロレスという内容になったのではなかろうか。ChiChi、きずなといった新人や、桃野、高瀬ら若い世代がこれからの日本の女子プロレスを引っ張っていく。「もっと強くなりたい」との思いを込めた闘いが、大会に厚みをもたらせたことは間違いない。

 そして迎えたメインイベントは、Sareee&KAIRI組vs中島安里紗(SEAdLINNNG)&彩羽匠(Marvelous)組。SareeeとKAIRIは元WWEだが、コロナ禍の影響もあり、すれ違いに終わってしまった。2017年7月にWWE初登場を果たしたKAIRIは数多くの実績を残し、20年7月を最後に帰国。Sareeeはこれに先立つ同年2月にWWE入団が発表されるも渡米が大幅に延期され、21年4月が全米デビュー。コロナ禍がなければなんらかの形でかかわった可能性が大きいのだが、結局、日本を含めこれまで闘ったことも組んだこともなく、今回がリング上における初遭遇。次期こそ異なるものの、ともにWWEに単身乗り込み、海外で経験を積み、自身で帰国の道を選びフリー的立場で日本マットに戻ってきた。WWEではコーチが同じだったという偶然もある。似たような背景が共鳴し、2人を結び付けたのだろう。Kareeeと名付けられたこのチーム、まさにドリームタッグの誕生である。

 対する中島と彩羽は、前回Sareeeが対戦した橋本千紘(センダイガールズ)同様、現在の日本の女子プロ界が誇るトップ中のトップである。Sareeeは中島とタッグ王座戦を中心に何度も対戦。Sareee渡米前のラストマッチが、Sareee&世志琥組vs高橋奈七永&中島組のタッグタイトルだった。帰国後、SEAdLINNNGのシングル王座を巡る争いが勃発。8・25後楽園でのタイトル戦が決まっており、この試合は当日に向けての前哨戦にもなっていた。彩羽とは19年12月3日、ディアナにおけるSareeeプロデュース試合以来の対戦。当時のSareeeはWWWD世界シングル王者で、彩羽はwaveのレジーナ王者。2人でWWWD世界タッグ王座にも挑戦しており、組んでよし闘ってよしのライバル関係にある。

 KAIRIからすれば、彩羽とは実に8年ぶりの遭遇だ。ともにスターダムでデビューし、彩羽は長与千種へのあこがれからMarvelousに移籍した。両者の対戦は宝城カイリ(当時)のワールド・オブ・スターダム王座に新団体旗揚げ前の彩羽が挑んだ15年7・4横浜以来。中島とは初遭遇で、これもまた刺激的な顔合わせである。

 Sareeeにとって、夢のタッグ戦は帰国後10試合目という節目にもなっていた。橋本戦ではあらためて日本の女子プロの強さを体感、タイミングをはじめとする日米のプロレスの違いにブランクを感じざるを得なかったのだが、この試合ではこれぞ日本の女子プロレスというスピーディーかつ激しい攻防を展開。WWEを経験した2人と、日本の女子プロを体現する2人というマッチメークの妙も重なり、試合は白熱。この闘いで、Sareeeは完璧に日本のプロレスに戻ってきたと実感できた。

「ブランクはもう埋まりましたね。この試合で完璧にハマったという感じがしました。試合中、KAIRIさんの間の取り方や見せ方にWWEを思い出しながらもハードヒットのジャパニーズスタイルで、コラボレーションみたいなスタイルになったんじゃないかなって思います。初めて組んだのにすでにあうんの呼吸というか、バッチリかみ合って、だからこそ勝てたんじゃないかなって思いますね」

 そして試合は、Sareeeが中島にフォール勝ち。勝負を決めた変型裏投げは19年6・8新潟、橋本とのダブルタイトル戦で初公開したもので、まだ返されたことがないというとっておきのフィニッシュだ。2戦目にして待望の自主興行初勝利を挙げ、中島との前哨戦は1勝1敗、8・25後楽園でのSEAdLINNNG王座奪取に向けて弾みをつける結果にもなった。

 中島とのタイトル戦はもちろん、彩羽とのシングルやKAIRI(8月7日の会見で9月末での無期限休業を発表)との対戦も希望したSareee。彼女を中心に、女子プロ界がさらに活性化されるようなカードが組まれることに期待したい。それこそSareeeが中島からSEAdLINNNGビヨンド・ザ・シー・シングル王座を奪取したら、女子プロ界の地殻変動が起こる可能性もあるだろう。もちろん中島も、SEAdLINNNGを牽引する意地がある。短期間ながらかつての同僚だったSareeeにベルトを明け渡す気は毛頭ない。WWEでは挑戦寸前でかなわず、Sareeeにとって帰国後初のチャンピオンシップマッチ。ベルトを久々に巻くことができるか注目される。SEAdLINNNG8・25後楽園は、今年の下半期を占う重要な闘いになりそうだ。

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