竹中直人、吹き替えに強い責任感「俳優のイメージが変わってしまう」 憧れていた声優業の奥深さ
俳優の竹中直人が、マーベル・スタジオの最新ドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』(ディズニープラスで配信中)で、主人公のニック・フューリーの日本語吹き替え版を担当している。今回、声優への思いや本作の見どころを語った。
ドラマ『シークレット・インベージョン』で日本語吹き替え版を担当
俳優の竹中直人が、マーベル・スタジオの最新ドラマシリーズ『シークレット・インベージョン』(ディズニープラスで配信中)で、主人公のニック・フューリーの日本語吹き替え版を担当している。今回、声優への思いや本作の見どころを語った。(取材・文=猪俣創平)
これまで俳優業だけでなく、映画監督やバラエティー番組などさまざまな舞台で活躍してきたが、声優は「昔から憧れてた仕事」だったという。
「それぞれのキャラクターに声を合わせるというのはとても面白い作業です。衝撃を受けたアニメーションはたくさんありますが、『巨人の星』の星飛雄馬役を演じた古谷徹さんの声が好きでした。古谷さんは僕の高校時代の先輩だったので、高校生時代に思い切って古谷さんに声をかけたこともあるんです。『星飛雄馬の声をお願いします!』って。生で聞いたときは感動しました」
インタビュー中にも高低を使い分けた変幻自在の声色を披露してみせた。そして、普段の落ち着いた声に戻すと、「山寺宏一さんに負けないと思うんですけど」と笑った。
かつては、日本語吹き替えを俳優が担当することも多かった。『日曜洋画劇場』などを挙げながら、「特に印象に残っているのが『逃亡者』という連続ドラマ。そのときのリチャード・キンブル(役:デビッド・ジャンセン)の声をやってたのが睦五朗さんでした。睦さんは俳優です。昔はあまり声優、俳優を分けていませんでしたね」と、心に残っていた声を明かした。
そのため、今も声優のオファーが来ることが「本当にうれしいです」という竹中。自身にとって思い出深い仕事は、イギリスのアニメーション『ポストマン・パット』だったと、笑みも交えながら語った。
「『ポンキッキーズ』(フジテレビ系)で毎週やっていたイギリスのクレイ・アニメです。1人7役ぐらいやったんですよ。本当に楽しかったです。声を当てる作業は、理屈なく憧れでした。だから定期的に声優の仕事ができているのがとてもうれしいです」
そんな竹中が日本語版吹き替え版を担当するドラマ『シークレット・インベージョン』は、“アベンジャーズの創設者”ニック・フューリー(サミュエル・L.ジャクソン)が、あらゆる人物に“擬態”できる能力を持つスクラル人の“シークレット・インベージョン(見えざる地球侵略計画)”の阻止に挑むサスペンス・スリラー。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)で、フューリーの日本語吹き替え版を映画『アベンジャーズ』(2012年)から10年以上務めている。今作でもフューリー役を“続投”することとなったが、アニメ『ホワット・イフ…?』(21年配信)では声優の立木文彦が務めていた。
そのため、今回のオファーには喜びもひとしお。「多分もう僕じゃないんだろうな、と思ってたんです。だから、お話をいただいたときには『え、僕でいいの?』という感じでした。オーディションに受かったような感覚でした」と相好を崩した。
MCUで「エリザベス・オルセンと絡みたい!」と夢も明かす
これまでのフューリーのキャラクター像は、隙がなく、難敵にも立ち向かう屈強な存在。トレードマークのアイパッチを左目に付け、黒のコートという威圧感のあるいで立ちだった。しかし、今作ではニット帽にアイパッチもはずした見た目で、脚をひきずるなど、弱さも見せつつある。フューリーの変化に、竹中も当初は受け入れるのに苦労したようで、「ショックでした」と第一印象を吐露した。
「黒のコートにアイパッチのニックがイメージだったから、毛糸の帽子をかぶってて、普段着! 『大丈夫かな、僕の声で』ってすごく心配になりました。今回はこれまでのイメージとかなり違っていたので、最初に録音したときは、『キャプテン・マーベル』(19年)のときの若いニックを演じる時に近い衝撃でした。どの辺の声の音色で行くのかものすごく迷いました。心配だったんです」
迷いながら挑んだアフレコ。「その時に感じた声を出してみました。ディレクターの方と『それでいきましょう』となり声のトーンが決まり、あとはもう揺るがずに進んでいきました」と振り返った。
一方で、フューリーを演じるサミュエル・L.ジャクソンが醸し出す雰囲気もまたアフレコで苦慮するポイントであり、声優という仕事の奥深さだと実感する。
「サミュエルが確立した“ニック・フューリー”というスタイルが確実にあります。サミュエルの声と僕の声は全く違いますからね。だからといってサミュエルの高めの声に合わせてしまうと、違和感が生じてしまいます。吹き替えをする俳優によって、演じる俳優のイメージさえも大きく変わってしまいます。吹き替えの面白いところって色々あると思いますが、俳優のイメージと声のイメージが全く合わなかったら大変なことです。そのあたりのバランスが非常に難しいです」
サミュエル・L.ジャクソンとは19年にロサンゼルスで行われた映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のプレミアで再会を果たしている。
「まさか自分のこと覚えててくださっているとは思わなかった。サミュエルも『Oh~!』って喜んでくれて、抱きしめてくれた。その時の、ドシンとしたサミュエルのあの雰囲気も肌に残っています。だから、声を担当することにとても責任を感じます。観客ひとりひとりにサミュエルの吹き替えはこの声! というイメージがあると思いますしね。でも自分の声をサミュエルに合わせなければいけない。これが正解! なんて事も分からないまま……」
難しさとやりがい、どちらも感じながら試行錯誤した今作。「6話で終わっちゃうのがすごくせつないです」と寂しさもあるが、MCU作品に共通した魅力も教えてくれた。
「MCUの世界って、登場人物の全てが魅力的に描かれる。あれだけヒーローが登場しても1人1人がちゃんと主人公です。誰もが引き立っていて、素晴らしいと思います。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)を見たときにそれを強く感じましたね。ヒーロー全員総出演にも関わらず。誰も影が薄くならない。素晴らしいです」
これまでのヒーロー映画とは異なり、今作は誰を信じていいのか分からないサスペンス・スリラー。「とてつもない緊張感です。いい感じで疲れます。素晴らしい演出ですよ」と賛辞を送った。
「信じるものを失ったニックはとてつもない緊張感の中で、突き進んでいきます! 周囲から老いぼれと言われても、『さすが! ニック・フューリー!』というシーンが待ってます! 益々想像を超える展開! 息を呑むシーンの数々! 手に汗握りながら、画面に釘付けになってください!」
まだまだ続くMCUの「フェーズ5」に向けて期待も高まる。最後に、竹中にとってMCUで共演してみたい俳優やキャラクターを聞くと、「エリザベス・オルセン(ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ役)と絡みたいですね! 声優としてでも構いません! エリザベスと喋ってるっていう感覚を是非とも味わいたいです」と、今後への“共演”にも思いをはせた。
□竹中直人(たけなか・なおと)1956年3月20日、神奈川県出身。俳優、声優、映画監督。96年にNHK大河ドラマ『秀吉』で主演を務めて話題に。映画『シコふんじゃった。』(92年)、『Shall we ダンス?』(96年)では、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。主演も務めた初監督作『無能の人』(91年)がヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞、第34回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞したほか、監督作・出演作で受賞多数。映画『バットマン フォーエヴァー』(95年)、アニメ映画『シュレック』(2004年)で日本語吹き替え版を務める。映画『アベンジャーズ』(12年)からニック・フューリーの日本語吹き替え版を担当。