安納サオリ、2020年は「引退考えた」 ヤマンバ中学生、金髪JK…過去を赤裸々告白「廃人のような4年間」
プロレス界で飛ぶ鳥を落とす勢いなのが女子レスラーの“絶対不屈彼女”安納サオリだ。3年間フリーとして他団体で実績を積み、待望のスターダム参戦を果たした。今後ますます注目度を高めそうな安納だが、高校卒業後は女優を目指して困窮。4年間の“暗黒時代”を経験した過去を持つ。さらにコロナ禍の2020年には、「プロレスの世界から消えたいと思いました」と語るほど追い込まれ、目標を失った。スターダムのシングルリーグ戦「5★STAR GP 2023」(23日、東京・大田区総合体育館で開幕)の「ブルースターズ」初戦でジュリアと激突する安納に、これまでの半生を聞いた。
電気や水道も止められ…4年間の「暗黒時代」
プロレス界で飛ぶ鳥を落とす勢いなのが女子レスラーの“絶対不屈彼女”安納サオリだ。3年間フリーとして他団体で実績を積み、待望のスターダム参戦を果たした。今後ますます注目度を高めそうな安納だが、高校卒業後は女優を目指して困窮。4年間の“暗黒時代”を経験した過去を持つ。さらにコロナ禍の2020年には、「プロレスの世界から消えたいと思いました」と語るほど追い込まれ、目標を失った。スターダムのシングルリーグ戦「5★STAR GP 2023」(23日、東京・大田区総合体育館で開幕)の「ブルースターズ」初戦でジュリアと激突する安納に、これまでの半生を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
安納は滋賀・大津市に、3きょうだいの長女として生まれた。
「『一人っ子みたいだね』ってよく言われていましたね。母いわく、自由に生きているというか、幼稚園の参観日も女の子と人形遊びでキャッキャッじゃなくて、私1人で男の子ところに行って遊ぶような活発な子でした。習い事はめっちゃしましたね。水泳、バレエ、ダンス、塾、ピアノ、習字……あとドラムとかミュージカルもやってました。こういうとお嬢様に見られるかもしれないですけど、とにかくやりたいことを否定せずにやらせてくれる両親でした」
毎日の習い事で友達と遊ぶ時間も作れないほど。中学3年時には約半年間、米サンフランシスコにダンス留学した。
「学校を休んでダンスレッスンに行ったり、悪いやつでしたね。勉強がマジでできなくて、『勉強って必要ねえじゃん』みたいな考えでした。人と一緒というのが嫌だったんですよ。ギャルだったので見た目も派手で、中学のときはルーズソックスはいたり、ちょうどヤマンバがはやっていたので、シールで目の周りを真っ黒にしたり、着ぐるみとか着ていました」
思春期の影響もあり、高校ではさらにエスカレート。髪を金髪に染め上げ、学校内を闊歩(かっぽ)した。
「とにかく人とかぶることが本当に嫌でした。男ウケとか全く気にせず、自分の好きな見た目、好みのことをしようみたいな感じだったんですよ。今あのときの写真を見返すと、すげえなと思います(笑)。とにかく目立ちたかった。でも、友達もめっちゃいたし、先生ともすごく仲良くて、学校もあんまり行かなかったんですけど、『サオリ来いよ~』とかそういう感じでした」
高校卒業は女優を目指した。進路相談で担任に「お芝居したい」「人の前に立ちたい」との意向を伝えて上京。周囲は両親を除き、大反対だった。それでも安納は「絶対帰ってくるだろう」と後ろ指をさされながらも、都内の俳優養成スクールに入学。2年間、演技を学んだ。
しかし、卒業後は思っていたようにはいかなかった。
「(芸能事務所など)どこにも所属せず、毎月家賃を払えばギリギリの生活。本当に自分の中では暗黒でした」
光熱費が払えず、家賃滞納も経験。安納は「廃人のような4年間」と表現した。
スカウトに「誰にでも言ってるんやろう。うさんくさいオッサンやな」
「電気が止まっても、水が止まることはないって言うじゃないすか。でも、止まったことがあります。バイトしてもお金がなくて、親に迷惑をめっちゃかけました。頼りたくなかったですけど、『やっぱりお金がありません……』みたいなメールを送ったりして、そのことに胸を痛めましたね。早く恩返ししたい、親孝行したい気持ちで、オーディションとか受けたけど、特別かわいいでも美人でもない、スタイルもいいわけではない普通の子だからそりゃ無理だろうと。『絶対売れるだろう』という自信だけでやってきてたんですけど、いい出会いとか、いい結果とかが全くなく、やさぐれる一方でした」
出口の見えない暗闇の中、手を差し伸べたのは、アクトレスガールズの坂口敬二代表だった。女子プロ界では“坂口チルドレン”なる言葉も存在するほど、スカウトに定評のある人物だ。「おまえはスターになるから絶対プロレスやれ」。安納のどこを見いだしてくれたのかの説明はなかった。「誰にでも言ってるんやろう。うさんくさいオッサンやな」と半信半疑だったが、安納は女子プロの世界に飛び込んだ。
プロレスは見たこともなかった。しかも、「前転するだけで吐き気がする」ぐらいの運動オンチ。2015年のデビュー戦は散々で、「向いてないわ。ウソついて実家に帰ろう」と、早くも引退が頭によぎった。
そのとき、声をかけてくれたのが当時スターダムのGMだった風香だった。
「5番勝負じゃないけど、チャレンジマッチでスターダムのスター選手全員と戦わせていただいたりとか、デビューしたての頃にすごくいい経験をさせていただいた」
チャレンジマッチの相手は宝城カイリ(現KAIRI)、紫雷イオ(現イヨ・スカイ)、松本浩代、美闘陽子、岩谷麻優の5人。「そこで体で教えていただけたことがたくさんあったので、たぶんそこからなんだろうな、プロレス頑張ろう、プロレスラーとして生きていこうと思ったのは」
19年末にアクトレスガールズを退団。フリーとなった安納はさらなる刺激と成長を求め、海外マットに目を向けた。しかし、その夢はコロナで暗転する。
「よし、こっから私はまだ見ぬ景色や世界を見ようと思ったときにコロナだったんですよ。自分だけじゃないって言い聞かせた部分もあったんですけど、やっぱりできると思ったことができなくなっていったことが、自分の中では少なからず大きくて、心の中では沈みました」
20年3月から数か月間は、リングに立つことすらできない。決まっていた渡航は白紙になった。気持ちはどれだけ焦っても、相手のあることだから、待つしかない。一方、国内ではスターダムがブシロード体制になり、同期や後輩の輝きを増した姿が嫌でも目に入ってきた。
「悔しさしかなかったです。見たくもないし、目にも耳にも入れたくない。みんな大変な状況でも、輝いている人たちがたくさんいる。自分が何もできてないこともさらに悔しかったし、しんどかったですね」
足踏みしているうちに起きた女子プロ界の地殻変動。安納は苦悩した。
「プロレス人生で一番最悪な1年でした。収入も減りましたし、自分の自信も減りましたし、2020年はマジで引退しようと思いましたね。プロレスの世界から消えたいと思いました」と、どん底をさまよった。
7・23ジュリア戦は「私自身もぐちゃぐちゃになれる」
現役は続行を決断。翌21年に腰の骨を3本折る大けがを乗り越え、今年4月再びスターダムのリングに立った。
「緊張しましたね。私のことなんか誰も知らないんじゃないかなと思ったりしたけど、思っている以上の反応があったので。3年間フリーでやってきてよかったな、進んできてよかったなって思いました」
コロナ禍でもがいた経験も、「いい肥やしになった」と、受け止められるようになった。“上がらない選択”も間違っていなかったと確信することができた。
あとは、気持ちを相手にぶつけるだけ。7・23大田区では、格好の相手と対峙する。スターダムの看板選手の1人、ジュリアだ。
「彼女との試合はすごく楽しくて、ぐちゃぐちゃになれるんですよ。ぐちゃぐちゃにしてやりたいっていう気持ちもすごい出ますし、私自身もぐちゃぐちゃになれますし、そういうふうにやり合える相手ですね」
シングルの戦績は安納の2戦2勝。とはいえ、過去は関係ない。5月のアーティスト・オブ・スターダム選手権試合では波状攻撃からジュリアに丸め込まれてフォール負けを喫した。
「そのときはみんなもいたんですけど、今度は2人きり。とことん、ぐちゃぐちゃにしてやりたいです。その上で私は勝ちたい。いや、勝つな」と言い切った。
女子レスラーである一方で、32歳の等身大の女性としてリングに上がることを心がけている。力強さだけじゃない、1人の女性としての凛とした魅力を漂わせる。
「体も痛いし、あざも傷もたくさんできるんですよ。でも、美容もこだわりたいし、やっぱりきれいな姿やかわいい髪型、顔を見せたい。でも、勝ちたい。その姿をもっと見てもらいたいですね」
女子プロレスはスターダムがけん引することで、新たなファンを呼び込んでいる。プロレスを観戦するきっかけは人それぞれだが、安納は「もっとプロレスを知ってもらいたいな。そのきっかけが安納サオリでありたい」と願っている。
注目度が増し、かつてないほど多忙を極める。北から南まで日本全国を飛び回り、取材のスケジュールを調整するのも大変だ。
それでも、安納は「すごく楽しい。仕事で忙しいのは好きなので」と意に介さない。「やっぱり私の夢って変わらず、人に見られること。数千人、数万人に見てもらうことが夢なんです」と笑顔で今後の活躍を誓った。