市長も公務で使用する、動く「ひな人形」 ド派手な車体の裏にあった学生の奮闘
赤と紫の派手な外装が目を引く1台。側面には豪華な金色の花の模様もあしらわれ、サイドミラーにはぼんぼりをイメージした美しい模様が描かれている。整備士の養成を目的とした専門学校「関東工業自動車大学校」の学生が作った作品だ。この展示車両は、いったいどのような経緯で作られたのか。そこに込められた思いとは。制作を指導した教員にその経緯と学生への思いについて聞いた。
関東工業自動車大学校に展示された1台
赤と紫の派手な外装が目を引く1台。側面には豪華な金色の花の模様もあしらわれ、サイドミラーにはぼんぼりをイメージした美しい模様が描かれている。整備士の養成を目的とした専門学校「関東工業自動車大学校」の学生が作った作品だ。この展示車両は、いったいどのような経緯で作られたのか。そこに込められた思いとは。制作を指導した教員にその経緯と学生への思いについて聞いた。
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どこからでも目を引くデザインだ。「何年かに一回は制作をしていたのですが、継続的に始めたのは、5年前東京オートサロンで他の学校が出しているのを見てからです。見学に来ていた高校生や在校生から『うちは出ないの?』と言われたのでやってみるか、と。どうせやるなら他と同じことをやっても面白くないと思い、制作しました」ときっかけについて明かした。
テーマは「ひな人形」。学校のある埼玉・鴻巣市の特産であったことから市と相談して制作に取り掛かったという。トランクを開けると実際にひな人形が飾れるようになっており、車内のシートは女びなと男びなが着用している着物の生地と同じものを用いるこだわりぶり。市や観光協会が協賛となり、車の柄も鴻巣市で作られているひな人形と同じデザインにしている。現在では市長が公務の際に使用することもあり、ふと見ると借りられているなんてこともあるそうだ。
きらびやかな外装は見る者を驚かせる。きれいに施された塗装はラッピングではないのだとか。「手作業でマスキングを行って塗装したことがこの車の売りなんです。エアブラシを使用して学生が3層、4層に重ね塗りをしています。普通重ねて塗ると色の層ごとに段差が出てしまうのですが、段差をなくすためにクリア(つやを出すための透明の塗料)を4回塗っています」。たしかに触り心地はツルツルでまるで“一色”のよう。内装もすべて丁寧に仕上げられている。4回も塗るのは珍しいとのことで、「ツヤが出ていて素晴らしいですよね」と車体をなでながらうなずいていた。
こだわりを持って制作にあたり、完成させるまでに妥協はない。この車は本来2021年に展示する予定が、新型コロナウイルスの影響で見送られ1年後になってしまった。制作を担当したのは学生6人。車体の花柄や模様は1つ1つ手作業でマスキングしているため、車の片側の塗装準備に2週間。塗装自体は1日で終了するが、はがすのに1週間。外装を塗装するだけで1か月がかかり、完成までには約半年がかかったという。
同校は「一級自動車整備科」「二級自動車整備科」「車体整備科」「国際サービスエンジニア科」の4つの科があり、約600人の学生が勉学と技術向上にはげんでいる。教員は「エアブラシを使う技術などすべて学生にフィードバックし、実際にやってもらい、ダメだったらもう一度最初からやり直してもらいました。本校では塗装を専門とする科がないので、車体整備科の有志だけで行ったんです。制作は課外活動の扱いだったので普段の授業と同時並行で、おのおの自分の空いた時間を使用して作成していったので時間がかかりました」と苦労を語った。
近年では若者の車離れが叫ばれているが、それを肌で実感している。この日も数人の教員は見学に来ていた高校生たちに入学を呼び掛けるので大忙しだった。「昔ほどコアな車好きという子は減っています。さみしいですね。私自身もマニアの部類でたまに会話が通じる子がいるので、そういう時は非常にうれしいんですけどね」としみじみ。「われわれはここまでこだわった実習などを提供できるという自負があります。また、今までと違った分野からのアプローチも必要だと感じています」と、より多くの学生に来てもらうために率直な思いを明かした。
ちなみに来年の制作予定を聞くと「秘密です。予定はあるんですけどね」と笑顔を見せた。「制作が終わった後の達成感は授業では絶対に味わえません。教える側も大変な面はありますが、学生がやりたいという限り、続けたいと思います」。次はどんな車で驚かせてくれるのか、これからの作品にも期待したい。