細谷佳正、声優目指したきっかけは山寺宏一 共演に感慨「23年かかりました」

DC映画『ザ・フラッシュ』(公開中)で日本語吹き替えを務めた声優・細谷佳正と山寺宏一が、公開を前に取材に応じた。アフレコ現場の収録を振り返るとともに、今作の見どころを語った。

映画『ザ・フラッシュ』で日本語版吹き替えを務めた細谷佳正(左)と山寺宏一【写真:ENCOUNT編集部】
映画『ザ・フラッシュ』で日本語版吹き替えを務めた細谷佳正(左)と山寺宏一【写真:ENCOUNT編集部】

DC映画『ザ・フラッシュ』で日本語吹き替えを務める

 DC映画『ザ・フラッシュ』(公開中)で日本語吹き替えを務めた声優・細谷佳正と山寺宏一が、公開を前に取材に応じた。アフレコ現場の収録を振り返るとともに、今作の見どころを語った。(取材・文=猪俣創平)

 本作は、俳優のエズラ・ミラー演じる地上最速のヒーロー、フラッシュ/バリー・アレンの活躍を描いたDCシリーズのヒーロー映画。両親を救うため、タイムループして過去を改変してしまったフラッシュが、マイケル・キートン演じる伝説のバットマンや、スーパーマンの“いとこ”スーパーガールと出会い、自らの行動によって起こった世界の危機に、もう一人の自分やヒーローたちと共に立ち向かうストーリーだ。

 今作でフラッシュの日本語吹き替えを務めた細谷。2017年公開の映画『ジャスティス・リーグ』からの続投となったが、今作では現在の世界と改変された世界の2人のフラッシュが登場する。吹き替えでは、“一人二役”を演じたミラーの演技にリスペクトをもって挑んだ。

「ヒーロー映画だと演技も大味なパフォーマンスなのかな? という印象があるんですけど、試写で今回の映像を観た時に、エズラ・ミラーさんがやっている演技が、単館映画のアート作品のでやるような非常に細かいお芝居をやっていて、彼がそれをやりたいんだなってことが分かりました。だから、自分も彼がやろうとした演技にフォーカスしながらやろうと思いましたね」

 今回、細谷も声で二役を演じ分けた。「結構大変でした」と振り返る現場は、収録初日でのことだった。

「本国の監督や制作陣が、海外で吹き替えが行われることに対してナーバスになっているという話を聞いたんですね。今回エズラ・ミラーさんのパフォーマンスが本当に素晴らしくて。バリー・アレンの2人が違う人に見えるパフォーマンスをしていて、日本語に吹き替えることでそのクオリティーが保てるのか……ということを気にしていたんだと思うんです。

 主人公のバリーをA、マルチバースのバリーをBだとすると、本当はAを最後まで録ってからBを録りたかったんですけど、本国サイドからAとBが絡んでいるシーンを一回送ってもらって、それを精査したいと聞いたんです。アフレコでは、Aを録ってからBを録って、また対象シーンのAをやって、またBを録って……というのを繰り返して。録り終わってから、その日のうちに収録したものを送るという流れだったみたいなんです。収録が終わったのが深夜の12時くらいでしたけど……結局1日では終わらなかった(笑)」

 細谷の収録エピソードを聞いた山寺は、「だって、ほぼ一人ですからね? 一人でずっと主役2つをやるわけだから」と苦労を推し量った。山寺は今回、キートン演じるバットマンことブルース・ウェインの日本語吹き替えを務めた。かつてキートンが主演を務め、一作目は1989年に公開された映画『バットマン』シリーズでも吹き替えを担当。今作で再び声をあてることになったのだが、フラッシュとも浅からぬ縁があった。

 90年~91年にかけて放送されたテレビドラマ『超音速ヒーロー ザ・フラッシュ』で、今作と同じ主人公・フラッシュの声をあてていたのだ。「みんな知らないみたいなんですけど、ジョン・ウェズリー・シップがやってたフラッシュの吹き替えを僕がやっていたんですよ。江原正士さんが冒頭のナレーションをやっていて、主役のバリー・アレンの吹き替えを僕がやっていたんですよ」。

 山寺がフラッシュの日本語吹き替えの“先輩”だったことを聞いた細谷は、「めちゃくちゃうれしい!」と喜んだ。それは、自身が声優を目指すきっかけとなった人こそ、山寺だったからでもある。

「23年かかりました。声優を志したのが、山寺さんが声優をやっていたアニメ『機動戦艦ナデシコ』での北辰というキャラクターがワープするシーンを見て、自分もこれをやりたいと思ったんです。感慨深いです、本当に」

 これを聞いた山寺は、しみじみと「ありがたいですね~、自分がいかに歳をとったかって分かります(笑)。そんなことを言ってくれるってうれしいですね」と感慨にふけった。また、今作の細谷の吹き替えについても、「別世界の同じ人間をやるっていうのは非常に難しくて、今回の細谷くんの場合は繊細な演技が求められたと思います。さすがです、細谷くん!」と改めて賛辞を送った。

細谷佳正が語る見どころは「寛容さ」

 山寺は本作で「自分がどういう演技をすればいいのか」という点を意識してアフレコに臨んだ。

「今回はね、引退しているバットマンですし、かつて吹き替えたバットマンとはシチュエーションも全然違う。とにかく我々は何と言っても“吹き替え”をするわけですから、マイケル・キートンがどんなお芝居をして、今回のブルース・ウェイン、バットマンが作品においてどんな立ち位置なのかっていうのを一生懸命に読み取って、どういう演技をすればいいのかって探ることでした」

 現場では、本編の映像全体を見ながら吹き替えたわけではない。見ることができたのは主に口元の動きだ。どのように演技を読み取ったのだろうか。

「マイケル・キートンもね、昔からちょっと捉えどころがなくて、そんなに分かりやすい芝居じゃないんです。もともとはスタンダップコメディアンなんですが、フワっとした演技をするのかと思ったら、もちろんバットマンだから抑えた演技です。本当に『その人に見える』っていう、すごくナチュラルなところが彼のいいところだと思うので、そういう部分をきめ細かく吹き替えできたらなっていう思いでやりました」

 今作の見どころを聞くと、細谷は「寛容さ」を挙げて、作品から受け取ったメッセージをこう説明した。

「予告だけ見ても見どころはいっぱいあって、すごく派手な“側(がわ)”をしているんですけど、“寛容さ”みたいなものをこの映画は伝えている印象を受けました。バリーは、決してイジってはいけない過去に行って、“母親が好きだから”という愛情が理由で、過去を変えようとしてしまう。でも、それをやったら世界が崩壊するかもしれない。ある視点から見れば美しいかもしれないけど、ある視点から見れば大罪なわけですよ。

 でも、それを許そうとする動きがあるわけで……。『やり直しが効くんだ』と言っているような気がしました。万人が受け入れやすいエンターテインメントという“側”を使って、それを伝えたいのかなって僕は思いました」

 一方の山寺は、バットマンやスーパーガールといったヒーローたちの“共闘”が印象に残っているそうで、「今回、フラッシュが別の世界の過去に行ってしまうわけです。交流のないブルース・ウェインやスーパーガールと、どういうふうに共闘して、ピンチをどう乗り越えていくのか」と、注目ポイントをアピール。

 続けて、「一番の見どころは、過去のバリーと今のバリーが、自分同士でどう分かり合うのか。コメディー要素もしっかり入っているし、いろんな要素が合わさっているのがこの作品の最大の魅力だと思います」と語った。

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