「森七菜の中に小さな樹木希林がいる」 鳥肌が立った映画界の巨匠からもらった言葉
俳優の森七菜(21)が映画『君は放課後インソムニア』(公開中、池田千尋監督)で、奥平大兼(19)とダブル主演した。森も大好きな人気コミックの原作で、コミックのヒロイン、曲伊咲(いさき)そのままに役を演じきった。自身も手応えを感じているが、その直前には別の作品で監督からダメ出しを食らった経験も……。
大好きだった『君ソム』出演「私の夢もかなった」
俳優の森七菜(21)が映画『君は放課後インソムニア』(公開中、池田千尋監督)で、奥平大兼(19)とダブル主演した。森も大好きな人気コミックの原作で、コミックのヒロイン、曲伊咲(いさき)そのままに役を演じきった。自身も手応えを感じているが、その直前には別の作品で監督からダメ出しを食らった経験も……。(取材・文=平辻哲也)
本作は『週刊ビックコミックスピリッツ』で連載中のオジロマコト氏作の同名コミック(最新13巻)が原作。石川県七尾市を舞台に、不眠症に悩む高校生、伊咲(森)と中見丸太(がんた=奥平)の青春ストーリー。オジロ氏が「映画化するなら、伊咲役は森七菜さんで」と熱望し、森自身も高校時代からの大ファンだった。
「高1のときから読んでいました。これは最初から、自分がやらなかったら、後悔するという強い気持ちでいました。先生が夢がかなったとおっしゃってくれましたが、私が誰かの夢をかなえる一部になるとも思ってなかったし、それで同時に私の夢もかなったので、本当にかけがえのない作品になりました」
伊咲については「私も眠りが浅いので、不眠に悩む伊咲の気持ちは分かります。眉毛が太いところとか見た目も少し似ているし、『明るく振る舞うところが似ているね』ってよく言われていましたので、漫画のコマを意識したり、仕草をまねてみたり、少し遊びの部分は伊咲を吸収した私が出しゃばってもいいのかなと思って、監督に提案しながら作っていきました。監督とは『とりあえずやってみよう』が合言葉になっていました」と振り返る。
ロケでは舞台となった七尾市が全面協力。ダブル主演の奥平とは念願の初共演だった。
「素直に丸太にピッタリだと思っていましたが、最初に思っていたイメージとはちょっと違ったんです。自分の世界観を作り上げて、自分の世界で生きている人かなと思ったら、もっといろんな視界が見えている。お芝居の中で助けてくれましたし、その中で信頼関係が生まれましたし、私が何を言っても返してくれるんですよ」
映画では、友達以上恋人未満の2人が居場所作りのために、天文学部を作るために奮闘するが、森も高校時代、部活動を立ち上げようとしたこともある。
「映画部を作りたいと思って、先生に1人で掛け合いに行ったこともあったんです。でも、よく学校も(仕事で)休んでいたし、部員があんまり集まらなくて、断念しました。分の中では高校生活に巻き戻って、夢をかなえたような気分にもなっていました」
憧れの満島ひかりからの「なんか魂が古いんだね」の言葉
実は、本作の前に撮影した映画での経験が大きかった。役所広司主演の映画『銀河鉄道の父』では病気で亡くなる宮沢賢治の妹トシを演じた。成島出監督からはクランクイン初日に厳しくダメ出しを受けた。
「自分なりに頑張ったので、監督に伺ったら、『ダメだね』と言われ、何がダメだったんだろうと考えました。それで、ご飯も喉を通らなくなって、ずっとプロテインで生活しながら台本を覚えて、ずっと宮沢賢治のことを頭で考えていたんです。最終的には、監督が偉い人に紹介するときに『これから国民的女優になる人です』と紹介してくださった。一緒に切磋(せっさ)琢磨して、ここまで来られたんだとうれしかった。この経験があったら、この作品で走り抜けることができた」
俳優業とは「キャッチボール」の球のようだという。
「褒められたら、次にダメだと言われ、今度は褒められる。その繰り返しなんです。悔しさとうれしさを行き来している感じがしますね。褒めてもらえることは素直に信じれないんですが、けなされると、傷ついちゃう。でも、だから、芸事が楽しいと思ってもらえるんだろうなと思います。全部、人間の思考回路のおかげだから、仕方ない。今は『ま、いいか』と思うようになりました」
7年目に入った俳優生活で励みになったのは、憧れの俳優や監督からの言葉だという。
「満島ひかりさんと一緒に朗読劇をやらせてもらったときに、『なんか魂が古いんだね』って言ってくれたんですよ。意味が分かんなかったけど、うれしかった。(Netflix『舞妓さんちのまかないさん』の)是枝(裕和)さんが『森七菜の中に小さな樹木希林がいるんだ』と言ってくれたときは、鳥肌が立ちました。そういう方々の言葉って、すごく大事で、私はその言葉のために生きているのかもと思うときもあります」
原作コミックは現在も連載中で、映画版も、2人の行く末が気になるラストになっている。
「続編を期待したいですね。また、みんなとお芝居したい。“君ソム”はもっと続いていく物語だから、それをみんなに知ってほしい。私が明確にずっと思っているのは、信頼される女優さんになりたい、ということ。この人なら、自分の好きなキャラクター、好きな原作をやっても大丈夫、絶対面白いだろと思ってもらえる人になれたら、最高です」ととびっきりの笑顔を見せた。
□森七菜(もり・なな)2001年8月31日、大分県出身。映画『心が叫びたがってるんだ』(17/熊澤尚人監督)で映画初出演。19年に公開された新海誠監督『天気の子』、岩井俊二監督『ラストレター』(20)と立て続けに大作に抜擢され注目を浴びる。その他の出演作に、NHK連続テレビ小説『エール』(20)、『この恋あたためますか』(20/TBS)、『ライアー×ライアー』(21/耶雲哉治監督)など。是枝裕和監督が演出・脚本を担当したNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』(22)では出口夏希とダブル主演を務める。近作は、映画『銀河鉄道の父』(23)。