なすなかにし語るロケの極意「相方を笑わせたい」 おじさん芸人が再ブレークできたワケ
2022年のロケ回数は驚異の300本弱。「ロケの達人」、新しい「おじさん枠」として活躍するお笑いコンビ・なすなかにし。08年に大阪から東京進出した2人の姿に「再ブレーク」の声も多く上がっている。いとこでもありコンビでもある那須晃行と中西茂樹に「ロケの達人」たるゆえんや「おじさん芸人」について語ってもらった。
2022年のロケ回数は驚異の300本弱。「ロケの達人」、新しい「おじさん枠」として活躍するお笑いコンビ・なすなかにし。08年に大阪から東京進出した2人の姿に「再ブレーク」の声も多く上がっている。いとこでもありコンビでもある那須晃行と中西茂樹に「ロケの達人」たるゆえんや「おじさん芸人」について語ってもらった。(取材・文=島田将斗)
『ラヴィット!』出演で一気に知名度広がる
「2人で楽しけりゃいいやん」――。ロケで全国制覇、“伊能忠敬”なみに日本を歩いたロケ芸人のモットーはとてもシンプルだった。
最近ではTBS系『ラヴィット!』で多くのロケをこなしている。「おじさん芸人」を代表して若者からトレンドを学ぶコーナーでは、「かわいい」などと新たな一面も世間に見せている。テレビで見ない日はないレベルの忙しさを本人たちはどう思っているのか。
「まず再ブレークって言われても、過去のブレークがいつだったんだって(苦笑)。でも、そういう言われ方はうれしいですよね。僕なんて45歳ですから、この年になって、今まで以上にお仕事が増えるっていうのは、本当にもう光栄です」(中西)
「昔ならロケが1日1個みたいなことはあったんですけど、最近では1日に何個も、お仕事をいただけている感じなんです。それは本当に今までなかった」(那須)
引っ張りだこであることをうかがわせる「ロケ車toロケ車」も経験。自分たちのことでありながら、那須は「ロケ車に乗って移動して現場まで送っていただいて、そのロケ車を降りて別のロケ車に、乗っていくみたいな」と目を丸くさせた。
東京でのロケ仕事が増えた転機は日本テレビ系『ウチのガヤがすみません!』だというが、『ラヴィット!』出演で一気に世間の知名度が広まったと振り返る。
「街中でめっちゃ声をかけられるようになりましたね。ライブ出演でもお客さんがラヴィットマークするみたいな。あと頻繁にリンクコーデを着るようになったかなぁ」(中西)
いとこである2人が見せるロケは丁寧で温かい。40歳を超えた2人の仲の良さも笑いを誘っている。なすなかにしにとってロケはいたってシンプル。自分たちが「楽しむ」ことだった。
「2人で楽しけりゃいいやんって感じでロケをしています。それが段々と定着してきましたね。互いに笑い合うじゃないですけど、『相方を笑わせたい』みたいなのが強いのかも。その2人のやり取りを見て笑ってしまうという空気作りを意識してますね」(那須)
中西は「ケガをしないこと」を意識していると苦笑い。ロケに同行するスタッフにも楽しんでもらいたいと優しさがにじみ出る。
オープニングの登場の仕方などが記されている自作の“ロケマニュアル”には、スタッフが食事に迷ったとき用に全国のご当地ラーメンを書き出している。最近はGoPro(カメラ)を購入したといい、その理由について「スタッフさんが車窓を撮り忘れたときに自分が撮っておけば、もしかしたら使えるかも分からないから」と恥ずかしそうに笑った。
知らない誰かと、その場で絡むのがロケ映像の醍醐味だ。「ロケの達人」たちにはそれぞれポリシーがあった。
「誰かとお話をさせてもらうので、相手を尊敬するようにしてます。街ブラして人に声をかけるときもそうです。それがちょっとした態度に出るはずなんですよね。僕の父親が小学校の校長先生をやっていたんですけど、ずっと昔から言われてたことなんです。『人とお話するときは、その人を尊敬して話しなさい。じゃないとケンカになるんや』って」(那須)
「僕は興味ですね。人に対して、物に対して、その土地に対してとか。1人で過去にロケに行ったことがあるんですけど、今まで晃行と一緒に行ってたので、街の人に質問するのは那須くんがやってくれてた。いざ1人で街ブラしても全く話が出てこない。振り返ったときにこれ興味持ってないからやなって。だから興味が大事です」(中西)
おじさん芸人は「ピリピリしないんです」
『M-1グランプリ2021』王者の錦鯉やずん、最近では『THE SECOND~漫才トーナメント~』で準優勝したマシンガンズなど「おじさん芸人」が台頭している令和の芸能界。なすなかにしも「おじさん芸人枠」として活躍。昔とは違うキャラクターは「心地いい」という。
「昔は、自分たちトガっていたときがあったので、あまりいじられることがなかったんです。いまはもう若い方々にいじられるのがすごく楽しくて! その意識が変わったかも。自分が等身大になったんですかね。今までだったら見栄を張って『若いわ俺は』みたいな感じでしたけど、もう全てを受け入れたら『よく考えたらおじさんや』って」(那須)
膝に水が溜まることを常に危惧している中西は「無理しなくなりましたね。ケガしますので、無理はしない。腰が痛いんで、これ以上やるとケガするんで。もう体が動きませんしね……」と自分の体に語りかけた。
「無理はしない」。決して手を抜くわけではないが、その考えが2人にとって肩の力を抜くきっかけに。「おじさん芸人」たちの特徴はワンチームだと穏やかな表情になる。
「おじさん芸人と言われてる方々は、そういう感じ(ライバル)で互いを見なくなった感じがします。他の方も『頑張ってるやん』『お互い頑張っていこうで』『そっちも大変だしね』って、ピリピリしないんですよ。他の方とお会いしてもおじさん同士の会話になってます」(那須)
「チャンカワイさんの日焼けが心配」と中西。「おじさん芸人」は仲間、他事務所の芸人を気遣う。ロケが多い2人はおすすめの靴を共有。まさに職人のネットワークだ。
「朝の5時40分に連絡が来て、『ロケにおすすめの靴はこちらです』って。僕が最初にチャンさんにおすすめしたんですけど、チャンさんはすぐにその靴を買いに行ったみたいなんです。そしたら店員さんにそれより上のランクの靴を勧めてもらったみたいで僕にも伝えてくれました。クッション性が必要なんです」
そんなおじさんの2人が今までで1番過酷だったロケを振り返る。
「『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)は大変でしたね。脱出島もそうですけど、過酷でした。あれだけの虫に囲まれることは人生でなかった。何がきつかったか考えるとパッと思い浮かんだ。若い頃はそういうむちゃなことやらされたりしたんですけど。無理しないって掲げてるのに無理してますね(笑)」(中西)
「僕は消防車の放水を浴びながら、バニーガールのコスチュームに着替えるっていうロケで本当に死にかけました。息もできないですし、いざ着替えたあと、大スベリしてましたし。バレーボールマシーンから出るボールが飛び交うなか、熱いみそ汁が飲めるか、これも過酷でした」(那須)
賞レースの審査員問題など、一部ではピりついた状況にある現在のお笑い界。そんななか、ぶれずに温かいお笑いで笑顔を届ける「ロケの達人」がいる。「いろんなことに腹を立てるんじゃなくて、子ども心を忘れない大人に」(那須)の言葉に“なすなかにし”らしさが詰まっていた。