ジャニーズ社外取締役になる白井一幸氏「社名変更よりも大事なことがある」
7月1日付でジャニーズ事務所の社外取締役に就任するプロ野球界初の企業研修講師・白井一幸氏(61)が、ENCOUNTのインタビューに応じた。同氏は3月、侍ジャパンのヘッドコーチとしてWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での優勝に貢献。その後、ジャニー喜多川社長(享年87)を巡る性加害疑惑で揺れる同事務所から就任依頼をされていた。周囲は問題に巻き込まれることを心配し、就任内定の発表後は批判の声も届いた。それでも、火中の栗を拾う思いと、自身が「なすべきこと」を聞いたインタビュー前編に続き、以下は後編。侍ジャパンのチーム作りが、ジャニーズ改革につなげられることなどを明かした。
インタビュー後編「侍ジャパンのチーム作りが改革に生かせる」
7月1日付でジャニーズ事務所の社外取締役に就任するプロ野球界初の企業研修講師・白井一幸氏(61)が、ENCOUNTのインタビューに応じた。同氏は3月、侍ジャパンのヘッドコーチとしてWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での優勝に貢献。その後、ジャニー喜多川社長(享年87)を巡る性加害疑惑で揺れる同事務所から就任依頼をされていた。周囲は問題に巻き込まれることを心配し、就任内定の発表後は批判の声も届いた。それでも、火中の栗を拾う思いと、自身が「なすべきこと」を聞いたインタビュー前編に続き、以下は後編。侍ジャパンのチーム作りが、ジャニーズ改革につなげられることなどを明かした。(取材・文=柳田通斉)
――ジャニーズ事務所が変わろうとしています。所属タレント最年長の東山紀之さんは、情報番組で「そもそもジャニーズという名前を存続させるべきなのかを含め」と発言されました。社外取締役になる白井さんは、どう考えますか。
「社名変更は改革に向けた1つの手段だとは思います。ジャニーさんをめぐる性加害の疑惑があることを自体が、大問題なわけですから。一方で、ジャニーズの名に現役のタレント、OBが誇りを持ち、ファンからも愛されてきたのも事実であり、しっかりとした議論が必要です。ただ、それよりも大事なことは今後、事務所自体が誇れて、希望を持てる存在になっていくことです」
――白井さんは、ジャニーズ事務所へのコーチング(目標に向けての支援、『前編』に詳細を記述)が役割とのことですが、タレント、スタッフが意識すべきことことは。
「ジャニーズ事務所には、『問題の責任を取るべきだ』という声が多く届いていると聞いています。当然、被害を訴える方々と向き合い、適切な対応をすべきだと思います。ただ、タレントが罪を犯したわけではなく、ファンに勇気、元気、感動を与えてきたのも事実です。だからこそ、今後もファンの方々が安心して応援できるジャニーズ事務所にしていくこと、タレント、スタッフが誇りを持って活動できる組織にすることが、何よりも大切なことです。だからこそ、私は『力になりたい。ここでチャレンジしたい』と思いました」
――白井さんご自身は、コーチングのスキルをどのようにして習得されたのでしょうか。
「現役引退後、指導者になるにあたり、ヤンキースにコーチ留学しました。その際、球団運営の勉強もしていました。そして、国内外で多くの経営者にお会いし、学んだマネジメント法、メンタル指導、コーチングを野球に取り入れました。そして、セカンドキャリアで2018年から本格的に企業研修講師の道を歩む前にも、研修をしている会社に出向き、多くのことを学びました。今では年間200日は企業とコーチングで向き合っています」
侍ジャパン始動日に選手、スタッフに聞いた「このチームがやるべきことは」
――その忙しさの中で、WBCに向かう侍ジャパンのヘッドコーチをされたのですね。
「そうですね。2月、3月はヘッドコーチの仕事に集中し、宮崎でのチーム始動日には選手、スタッフにコーチングをしながら、話をしました」
――どんなお話でしょうか。
「我々の目標は世界一。ただ、勝負は時の運で、達成できたり、できなかったりする。では、このチームがやるべきことは何かを問いました。出てきた答えは『野球界の頂点として、手本になっていくこと』でした。手本になるとは、『感動』を与えていくこと。そのために大事なことは、『全力を尽くす』。打つ、抑えるだけでなく、チームのために何ができるのかを考え、実践していくこと。必死さ、懸命にやっていることで感動が生まれるからです」
――確かにチーム全員の必死さが伝わり、侍ジャパンは多くの感動を呼びました。
「一生懸命にやっていれば、相手の選手にもプレッシャーがかかります。実際、ヌートバーのプレーがミスを誘っていました。そして、チームが勢いづきました。世界一だけを見るのではなく、皆がやるべきことをやって、失敗を恐れなかった。目を吊り上げ、悲壮感を持ってやるのではなく、喜び、誇りを持ってプレーする姿を見せられた。そして、声援をいただいたことが選手たちの力になりました」
――宮崎合宿に遅れて合流した大谷翔平投手、ヌートバー外野手にも、「手本には」という話をされましたか。
「翔平には日本ハムのコーチ時代に、そんな話を散々していましたし、彼はそういうことを率先してできるタイプです。ヌートバーについては、選んだ(栗山)監督から『彼は気持ち的にもすごい』と聞いていました。本当にその通りの選手で、あらためて伝える必要はありませんでした」
私利私欲を捨て目標へ気持ちを1つに 無関心、責任追及をし合うのはNG
――個々の能力が高い侍ジャパンでのチーム作りは、ジャニーズ事務所改革にもつなげられると思いますか。
「思います。私利私欲を捨て、タレント、スタッフが必死になっていけば可能です。侍ジャパンに限らず、『チームのために何ができるのか』『ファンを感動させたい』という選手、スタッフがそろったチームが成功してきました。ジャニーズ事務所に置き換えても、1回の仕事、ステージに全力を尽くすし、スタッフを含めて全員が懸命になっている姿を見せることが、新たな賛同につながると思います」
――組織では、時に衝突が起き、人間関係が壊れることがあります。成長していくための鍵は。
「批判とは事実を基にその人を責めていくことですが、責められた側は、それを受け入れられず、責めている人と戦っていく。戦いの内容は、過去の出来事にもさかのぼってしまう。こうした責任追及をし合っていると、人間関係は壊れ、組織はバラバラになります。ただ、今回の問題はそれよりも悪い『無関心型』が原因だったのかもしれません。問題が見えるような環境になかったのか、言いたくても言えなかったのか……。それは、私が就任して中に入ってから判断します」
――あらためて、ジャニーズ事務所が生まれる変わるための最大のポイントは。
「まずは被害を訴えられている方と向き合うこと。その上で、『安心して応援してもらえる事務所にする』という目標に、全員が気持ちを1つにすることです。無関心、責任追及をし合うのでは、前に進まない。事実は伝え、受け入れて、どうやっていくのか、建設的に解決策を考えて、一緒に進んでいくことです。タレントの皆さんも、個々にこれまで以上にリーダーシップを発揮してほしい。そうすれば、『自分もやりたい』『もっと、やるぞ』という心地いい空気になります。これこそがチームビルディングです」
――この役割を長く続けられる気持ちは。
「社外取締役なので、『あなたは力がないですよ』と判断されれば、それまでです。それに、組織改革は少しずつではなく、劇的にやる必要があります。期間は分かりませんが、力を求められる限り、全力でやっていきます」
□白井一幸(しらい・かずゆき)1961年6月7日、香川・志度町生まれ。83年のドラフト1位で駒沢大から日本ハムに入団。俊足巧打の二塁手としてチームに貢献。95年オフにオリックスへ移籍し、96年に現役引退。日本ハム、DeNAなどでコーチを務め、2018年から本格的にプロ野球界初の企業研修講師として活動。各企業をはじめ、商工会議所、大学、スポーツ界で人材育成、チームビルディングをテーマに研修を重ねている。20 年に北海道銀行女子カーリングチームのフォルティウスで、21年にプロバスケットボールB1・レバンガ北海道のメンタルコーチを担当。22、23年はWBC侍ジャパンのヘッドコーチを務めた。今年8 月、北海道医療大客員教授に就任予定。