スーツで世界各地を過酷登山、スキージャンプで全身アザだらけ…鉄人社長は海外でも取材殺到
ピシッとしたオーダースーツに赤いネクタイ、足元は革靴で手にはビジネスカバン……。オフィス街を駆けるビジネスマンさながらの格好で、日本百名山や名だたる海外の高峰など、過酷な山への登頂を果たす経営者がいる。人はなぜスーツで山に登るのか。オーダースーツSADAの“鉄人社長”佐田展隆氏に、一風変わった挑戦の経緯とそのマーケティング効果を聞いた。
スーツに革靴、ビジネスカバンを片手に、百名山や海外の高峰など過酷な山に登頂
ピシッとしたオーダースーツに赤いネクタイ、足元は革靴で手にはビジネスカバン……。オフィス街を駆けるビジネスマンさながらの格好で、日本百名山や名だたる海外の高峰など、過酷な山への登頂を果たす経営者がいる。人はなぜスーツで山に登るのか。オーダースーツSADAの“鉄人社長”佐田展隆氏に、一風変わった挑戦の経緯とそのマーケティング効果を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「SADAのオーダースーツで、マレーシアのボルネオ最高峰、キナバル山に登頂! 標高4095mの富士山より高い山! 山頂でご来光も拝めました! 雨に降られながら標高差2,300mを登り切りましたが、スーツはビジネスミーティングに出られるレベルを維持! SADAのオーダースーツは、キナバル山登っても大丈夫です!」
今年3月、佐田社長は自社のオーダースーツ姿で東南アジア最高峰のキナバル山に登頂を果たした。すれ違った現地の人がその様子をSNSに投稿すると、動画は約80万回再生を記録し、マレーシアやシンガポールなどの海外メディアからも取材が殺到。アメリカのyahooニュースでもトピック上位に並び、「これが本当のハードワーク」「made in JAPAN」「誰かが彼に間違った会議室を伝えました」と大きな反響を呼んだ。
オーダースーツの耐久性と機能性を伝え、お高いイメージを壊すために2013年から始めたという“スーツ登山”。これまでに奥穂高岳や槍ヶ岳、剱岳といった北アルプスの名峰を始め、富士山山頂からの山スキー、オリンピアンさながらのスキージャンプ、革靴を履いての東京マラソン完走、さらにはスーツを着たままのダイビングなど、自社製品のアピールのためにあらゆるアウトドアアクティビティーにチャレンジしている。
「それまでの製造卸から小売業に参入するにあたって、この値段でフルオーダーだといっても信じてもらえない。知名度や信頼を獲得するために、『社長が自社製品を使って変なことをすればバズる』という当時のマーケティングのトレンドに目をつけ、スーツで富士山に登ったり、百名山に登ってギネスに登録しようという試みを始めたんです。大学時代にスキーのノルディック複合やクロスカントリー、ジャンプ競技をやっていて、アウトドアに少しは覚えがあったので」
一般的には、機能性の高いインナーに加え雨や風から身を守るレインウエア、足首までを覆う登山靴や、背中から腰にフィットして荷重を分散させるザックなど、専門のアウトドア装備で臨むことが推奨されている高所登山。機能的に問題はないのだろうか。
「暑さはつらいですが、ウールは吸水速乾性能が高いので、夏はまだ何とかなります。本当につらいのは冬の方。登っている途中は良くても、スーツで立ち止まると途端に汗冷えしてしまうので、ガイドが休憩中でも私だけ1人でウロウロしてます。一応、毎回仲間に緊急時用の登山靴と着替えは持ってもらっています。自分で持ってもいいのですが、ビジネスバッグは最低限の水と雨具と行動食を入れたらいっぱいになってしまうので(笑)」
これまで登山で危険な目に遭ったことはないが、最も過酷だったのは、スーツを着てのスキージャンプと革靴で臨んだ東京マラソンだ。
「ジャンプは一度は本当に断りました。大学時代にちょっとやってたとはいっても、何十年もブランクがあった。結局着地に失敗して全身アザだらけ、なのにスーツは無事という有様でした。東京マラソンは本当に地獄で、足の裏だけでなく、甲の皮もベロベロにむけちゃって、最後の方は歩くのもつらい状態。それでも何だかんだで5時間切ってゴールしましたね。社員の悪ノリで、今度はトライアスロンをやらされると思います」
肝心のマーケティング効果については「正直なところ、よく分からないですね」とのことだが、ハイカーの間ではちょっとした有名人。登山道で声をかけられたり、記念撮影を求められることも多いという。メディアの関心も高く、19年には経済ドキュメンタリー番組『カンブリア宮殿』にも出演。会社の知名度向上には一役買っているようだ。
今夏にはヨーロッパ最高峰のモンブラン、来夏にはアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロへの挑戦を目指すという佐田社長。風変わりな“スーツ登山家”が、また世界を驚かせてくれそうだ。