【週末は女子プロレス♯101】高校進学せず16歳でプロレスデビュー、21歳になった星来芽依の決意「こんなに大変な仕事はない。でも」
21年8月にMarvelous(マーベラス)を退団した星月芽依が、星来芽依(せいら・めい)に改名、1年8か月ぶりにリングに帰ってきた。復帰の舞台となったのは、女子プロレスにとって20年ぶりの開催となったスターダム4・23横浜アリーナ大会。ブランク中、1日たりともプロレスを忘れたことがなかったという星来。復帰は夢だったが、まさかあのような大会場で試合ができるとは夢にも思っていなかった。しかも、4月23日は21歳のバースデー。「再スタートのいいきっかけにしたい」との意気込みで臨んだリングでは、あこがれでもあるハイスピード王者AZMからタッグマッチながら直接勝利。最高の再スタートを切ったのである。
4・23横浜アリーナ大会で1年8か月ぶりにリング復帰、あこがれのAZMから直接勝利
21年8月にMarvelous(マーベラス)を退団した星月芽依が、星来芽依(せいら・めい)に改名、1年8か月ぶりにリングに帰ってきた。復帰の舞台となったのは、女子プロレスにとって20年ぶりの開催となったスターダム4・23横浜アリーナ大会。ブランク中、1日たりともプロレスを忘れたことがなかったという星来。復帰は夢だったが、まさかあのような大会場で試合ができるとは夢にも思っていなかった。しかも、4月23日は21歳のバースデー。「再スタートのいいきっかけにしたい」との意気込みで臨んだリングでは、あこがれでもあるハイスピード王者AZMからタッグマッチながら直接勝利。最高の再スタートを切ったのである。
そもそも星来がプロレスを知ったのは、両親に連れられて見たZERO1の大会だった。初めて知り、初めて目にしたプロレスに、一瞬にして心を奪われた。そのうえ、自分でもこれをやってみたいと考えた。とくに印象に残ったのが、日高郁人の試合だったという。
帰宅後には、さっそく布団を使ってドロップキックをマネてみた。「弟に向かって『食らえ!』とか言ってドロップキックやってました(笑)」。打点が高く威力抜群のドロップキックを放つ星来。彼女のプロレス原体験が、いまのスタイルに直接つながっているのである。
「ドロップキックは女子プロレスというか、プロレスラーの基本だと思ってます。ドロップキックできなかったらプロレスラーじゃないと思いますね。ドロップキックにはこだわりがあるし、一発で3カウント取れるような選手になりたいですね」
偶然の初観戦以来、プロレスについて熱心に調べるようになり、女子プロレスの存在も知った。さまざまな動画をあさり、たどり着いたのが元・全日本女子プロレスの渡辺智子。中学卒業後、すぐに渡辺が所属するマーベラスの門を叩いたのである。
「高校を卒業してからとも考えたんですけど、高校の3年間って大きいと思うんですよ。もしかしたら3年の間に渡辺選手が引退しちゃうかもしれない。引退しちゃったらどうしようと思って、すぐにプロレスラーになろうと決めたんです。勉強はやりたいと思ったときに通信でもいいからやればいいと思いました。両親ですか? もちろん反対されましたね。でも、それまでの私って学校の行事とか真剣に取り組んだことがなかったので、(入門後)頑張ってる姿から本気度が伝わったみたいで、いまでは応援してくれてます」
進学をせずに選んだプロレスラーへの道。あこがれの存在にも会えたものの、現実は厳しかった。マーベラスを選んだのは「(長与千種の育成などが)しっかりしている」というイメージも理由のひとつ。その通り、練習は厳しく何度も挫折しそうになった。
「しんどかったです。毎日やめようと思ってましたね。それでもプロレスラーになるのが夢だったので、嫌々でも練習をしっかりしていれば結果は後からついてくると信じて乗り切りました。同期の間ですごくバチバチしてましたけど(苦笑)」
そして迎えた16歳でのデビュー戦。18年11月18日、あこがれの渡辺智子の胸を借り初マットを踏んだ。「それまでは(ファンとして)楽しんで見てましたけど、選手は命がけでやってるじゃないですか。実際に試合をしてこんなに大変な仕事はないと思いましたね。命がけで痛いことして、でもやっぱり、やっててメチャメチャ楽しいんですよ!」
身長150センチと小柄ながら、天性のバネとセンスで早くから頭角を現した。20年9月にはセンダイガールズプロレスリングによる若手の大会「じゃじゃ馬トーナメント」で優勝。ハードな練習に裏打ちされた自信をそのまま持ち込み、優勝をかっさらった。その2か月後には仙女ジュニア王座を奪取してみせた。「同期全員を倒す」という目標のもと、若手のトップランナーとして走っていたのである。
しかしながら、自信と同時に本心では自分のやるべきプロレスについて迷っていた部分もあったという。それはデビュー前から抱いていたものだが、練習生時代に観戦したスターダムの大会で、ひとつのヒントを得た。AZMが標榜するハイスピードなスタイルこそがめざすべきプロレスなのではないかと感じたのだ。
「AZMさんの試合を見たときに、自分はこれがやりたいと思ったんです。スタミナ、スピードとも自信があったので、もっと鍛えてプロレス界一のスピード選手になろうと思いました」
20年9月28日の後楽園、星月は彩羽匠に率いられる形で門倉凛とともにスターダムのリングに乗り込んだ。6人タッグマッチでAZMと初遭遇し、ハイスピード王者から直接勝利。このときは、対戦以上にAZMと組んでハイスピードのなんたるかを直に学びたい気持ちの方が大きかった。周囲は当然、AZMとの一騎打ちを期待するも、彼女自身はタッグ結成を要求したのである。
が、敗れたAZMは王者のプライドからもベルトを懸けてのタイトルマッチを同年12・20大阪で実現させた。史上最高速とも思える丸め込み合戦を制したAZMがベルトを守り、翌年2・14後楽園でAZM&星月組が実現。スターライト・キッド&飯田沙耶組を破りタッグ継続も期待されたのだが、3・3日本武道館のランブル戦には参戦も、その後進展はなく、同年8月をもって星月がマーベラスを退団。どこのリングにも上がらず、そのままフェードアウトした形になっていたのである。彼女のような天才的レスラーがいなくなるのは大きな損失ながら、現実にはマット界から忘れられた存在になっていたと言っても過言ではないだろう。
記者会見ではガチガチ「私って極度の人見知りなんです」
ところが、スターダムが横浜アリーナ大会の対戦カードを発表した会見で、星月芽依あらため星来芽依がスーツ姿で登場。とはいえ、そこにいたのはかつてのような元気いっぱいの彼女ではなく、ガチガチに緊張した姿だったから正直驚いた。
「ハイ、すごく緊張してました(苦笑)。私って極度の人見知りなんです。マーベラスでやっと慣れたかなと思ったら、またひどくなって戻ってきてしまって。しばらくは人としゃべれなかったですね。会見中、新リングネームを掲げたんですけど、手が震えてるのがわかってしまうのでテーブルに固定して発表しました。ホントは持って(新リングネームを)言いたかったんですけど。でも、復帰が決まってホントにうれしかったです。欠場期間中は一日もプロレスを忘れることがなく、気がつけばランニングしたりしてましたから。正直不安はありましたけど、復帰に向けてのトレーニングはしていたので、違う自分が見せられるんじゃないかという期待がありましたね」
そして迎えた横浜アリーナでの復帰戦。ここでも彼女はハイスピード王者のAZMから直接フォール勝ちを奪い取った。そして5・4福岡ではAZMのベルトに挑戦。タイトル奪取には至らなかったものの、どちらもビッグマッチへの出場だ。さらにはその後のゴールデンウィークシリーズにも継続参戦。AZMとは組んだり闘ったり、そしてこちらもシリーズ参戦の鈴季すずともタッグを組んだ。どうやらスターダムが、帰ってきた星来芽依の主戦場になりそうである。
そんな星来は、「ハイスピードをマジで変えたいです」とアピールする。現王者AZMは昨年2・23長岡でキッドを破り2度目の戴冠。以来12度防衛の長期政権を築いている。その王者でさえ、体重や年齢キャリアなど明確な規定のない「ハイスピードの定義は一生の課題」と位置付けている。星来もまた同じことを課題としており、「ハイスピードってなんなのか、自分なりの答えを見つけたい」とのこと。そのためにも、スターダムのリングに上がり続ける必要がありそうだ。
「私はマーベラスでプロレスの基礎をたくさん学んで、プロレスについてたくさん学ばせてもらいました。ただ、自分に足りないものはスターダムにあるとも思ったんです。なので、そこを強化したらもっともっと上に行けるんじゃないかと思っています。スターダムのハイスピード(戦線)で試合をして、スターダムの外のそういう(ハイスピードスタイルの)選手とも試合をしたいです」
星来の参入により、スターダムのハイスピード戦線がさらに活気づくのは確実だ。振り返ってみれば、星来が星月時代にスターダムに初参戦した頃、他団体にこれほどすごいハイスピードレスラーがいるのかと驚愕したほどだ。近い将来、星来にはそんな選手を発掘する役割がまわってくるのかもしれない。そのためにも、まずは“打倒AZM”ということか。
「AZMさんは自分が欠場している間もずっとベルトを守ってた。欠場してた自分がそんな簡単に取れるベルトじゃないとはわかってました。でも、挑戦してよかったです。いまの自分がどこまでいけるのかわかりましたから。スタミナやパワー、頭の回転、そういうのをこれからもっと鍛えていって、また近々挑戦したと思います。そこから頂点を取っていきたいですね!」
プロレスに復帰し、明るさも戻った星来芽依。ハイスピード戦線に光を与えるような活躍に期待したい。