京都の和紙製品メーカーが仕掛けるSNS戦略、“中の人”はフランス在住 「日本との懸け橋に」
トイレットペーパーを器用に折って、よじって、出来上がったのは、きれいなバラ。芸術センスあふれるペーパークラフト作りのSNS発信が話題を呼んでいる。仕掛け人は、京都の老舗の和紙製品メーカー。しかも、“中の人”は、フランス在住だという。ちょっと気になるツイッター公式アカウントの正体を探った。
チーム一丸の毎日オンライン会議が奏功 “ミクシィ友達”がきっかけ
トイレットペーパーを器用に折って、よじって、出来上がったのは、きれいなバラ。芸術センスあふれるペーパークラフト作りのSNS発信が話題を呼んでいる。仕掛け人は、京都の老舗の和紙製品メーカー。しかも、“中の人”は、フランス在住だという。ちょっと気になるツイッター公式アカウントの正体を探った。(取材・文=吉原知也)
今月5日に投稿された、トイレットペーパーで作るバラの映像は、じわじわ反響を呼び、2600件以上のいいねを集め、17万回以上の閲覧数を記録している。完成度の高さに、ネット上では、「凄いとしか言えない!」「素晴らしいですね、きれい」「That’s Amazing」といった声が寄せられている。
投稿したのは、大正14年(1925年)創業の「谷口松雄堂」の公式アカウント(@taniguchi_s_y_d)だ。SNSでの広報・宣伝活動に力を入れており、紙の魅力が伝わるように「和紙製品メーカーが届ける折り紙」を主要テーマに掲げ、アサガオやポピーなど、花をモチーフにした折り紙を作る映像を発信している。
2020年夏から活動している中の人は、「お竹」と呼ばれている。ヨーロッパに30年以上滞在している日本人女性だ。フランスの自宅で、動画撮影・編集を1人で行い、週2本程度のコンテンツ発信を展開している。お竹さんは「身近にあるものを取り上げたいとなった時に、家に必ずあるトイレットペーパーを思い付きました。花をメインの題材にしているので、『よし、バラを作ってみよう』となりました」と、発想の背景について明かす。
バラを作る時のコツについて、「トイレットペーパーなので、優しく扱うこと。もう1つが、花びらを折ってよじっていく際に、ぎゅっと指に力を入れること。その力加減が大事です。ツイッターでは、楽しく見れるように早送りの映像にしていますが、YouTubeチャンネルでは、ゆっくり動画で分かりやすく伝えるように工夫しています」と教えてくれた。
フランスに住んでいるお竹さんと老舗企業とのつながりはどこにあるのか? それは意外なものだった。同社の谷口主嘉社長とお竹さんが、もともとSNSのミクシィで交流しており、“ミクシィ友達”だったからだ。お竹さんはかねて「友禅紙を海外に紹介したい」という熱い思いを持っていた。ドイツ・フランクフルトで開催されている世界規模の紙の展示会で、同社の出展を手伝っていた。こうした縁があった。
海外暮らしで再認識する日本のよさ「海外の人に日本のいいところをもっとたくさん知ってほしい」
谷口社長は「コロナ禍によって、ドイツの見本市がなくなってしまったんです。そこで、ぜひSNS発信をやっていただければと思い、私から声をかけました。ここまで楽しんで一生懸命にやってもらえて、こちらもうれしいです」と、お竹さんの活躍ぶりに目を細める。お竹さんは「たまたま息子がYouTuberになりたいと言ってYouTubeをやっていまして、私が素人ながら編集をやっていて、少し経験があったんです。今は本当に、この谷口松雄堂のSNS発信が日々のモチベーションになっています」。SNSのつながりが、新たな道を切り開いた。
SNS戦略は、全員野球でチームワークを大事に取り組んでいる。同社のSNSマーケティングアドバイザーを務める上本祥人さんは「紙メーカーだけに無限に材料がある、そして他の人にできないことをやる。そこから『折り紙を作るのが一番』という考えに行きつきました。いろいろ試していく中で、花の反響が大きかったので、花を多く取り扱っています。メディア掲載はありがたいことですし、テレビ局さんに取材をしていただくことが現状の最終目標です」と語る。
一番大事にしていることがある。日々のやりとりだ。フランスと京都をつなぐオンライン会議。7時間の時差を考慮し、フランス時間の朝9時30分、日本時間の夕方4時30分に主に設定。文字通り、「毎日」行っている。谷口社長は「オンラインではありますが、毎日顔を合わせて話すことが大切だと思っています。それに、SNSは社長命令だったり、トップダウンで物事を決めても、なかなかうまくいかないんです。お竹さんの感性、上本さんのアドバイス、弊社企画担当者が日本の現状を伝えての提案。みんなの意見を合わせることで、よりいいものが生まれるんですよ」。みんなで力を合わせて、一丸となって追求しているのだ。
お竹さんは、育児や家事をこなしながら、SNSのコンテンツ作成に勤しんでいる。「ちょっと気を抜くと、『ここを掃除しなきゃ』と考えてしまって、家にいると誘惑が多いんです(笑)。自分を甘やかさないこと、コントロールすることが大事です。それに、SNSの反響を見聞きするたびに、野望が出てくるんです。『もっと見てもらいたい』『もっと笑ってもらえたら』って。もっと和紙の魅力を届けたいです」。力強い思いであふれている。
海外に住んでいるからこそ見える、再認識する日本のよさ。お竹さんは、SNS発信の意気込みに加えて、個人の目標として、「海外に住んでいると、日本との懸け橋になりたいと思うようになります。母国を離れて日本愛が強くなると言いますか、海外の人に日本のいいところをもっとたくさん知ってほしい、広めたい、と。私自身、その思いを強めています。SNS発信に大きなやりがいを感じていますし、私にとっての生きがいになっています」と笑顔で語った。フランスから、これからどんな魅力たっぷりの作品が発信されるのか。日々の楽しみが増えそうだ。