「あんな猪木さんの姿見たことない」 蝶野正洋が明かす“燃える闘魂”秘話、背中を追うワケ

黒のカリスマ・蝶野正洋が、師・アントニオ猪木さんの遺伝子を継いで国際貢献活動に本腰を入れる。昨年4月、知人の紹介で日本寄付財団の「認定アンバサダー」に就任。貧困などの理由により、教育の面で十分な環境のない世界の子どもたちを救う活動をサポートしている。「教育をもう1回見直すきっかけになれば」という蝶野に活動の意図を聞いた。

蝶野正洋【写真:ENCOUNT編集部】
蝶野正洋【写真:ENCOUNT編集部】

不安げなイメージは全くなかった猪木さん、“印象”を変える出来事

 黒のカリスマ・蝶野正洋が、師・アントニオ猪木さんの遺伝子を継いで国際貢献活動に本腰を入れる。昨年4月、知人の紹介で日本寄付財団の「認定アンバサダー」に就任。貧困などの理由により、教育の面で十分な環境のない世界の子どもたちを救う活動をサポートしている。「教育をもう1回見直すきっかけになれば」という蝶野に活動の意図を聞いた。

 蝶野が参加しているのは、日本寄付財団の「maaaru」という国際的な社会貢献活動だ。世界にはさまざまな理由で学校に通えない子どもが3億人いると言われる。その子どもたちに対し、裕福層から寄付を募って教育環境の改善をサポートする役割を務める。

 これまでも蝶野は複数の社会貢献活動に力を入れてきた。「自分ができる社会活動としては、救急救命と地域防災。消防にひもづいたお手伝いをやっている」。救急救命は闘魂三銃士の盟友・橋本真也さん、三沢光晴さんの死がきっかけで始め、AED講習などを主催。地域防災は東日本大震災の被災者支援経験を生かし、自然災害に備えた準備の大切さや安全な避難の仕方を呼びかけている。

 ただ、今回は国際舞台を中心にした取り組み。また、教育という分野も蝶野にとっては初めてだ。

「発展途上国の支援にはかなり経済力のある人たちの協力が必要。財団が富裕層の人たちをメインに声かけている。だったら俺もできるのかなと」と意気込んでいる。

 世界に目を向ける理由はもう一つある。昨年10月の猪木さんの死だ。

「今振り返ると、猪木さんもたくさんのことをやられていた。北朝鮮の平和の祭典とか、パラオでサンゴを保護する活動もだいぶ前からやられていた。中国では初のプロレス興行をやるにあたって、俺らは北京で役人を相手にプロレスとはどういうものかを無観客のところで試合をやらされたからね」

 当時、まだ若かった蝶野は世界をまたにかけて活動する猪木さんの姿に「なんだこれ」「何やっているんだろう」と、理解が及ばなかったという。

 考えを改めるきっかけになったのは東日本大震災だった。

「猪木さんは俺らの前では背中を見せるから行動することに不安なイメージって全くなかったんですね。でも、イラクや北朝鮮でもそうだと思うけど、最初に交渉しに行くときは不安だったと思う。下地も何もないところに、自分で行くわけじゃないですか。東日本大震災のとき、まさにその場面を見せてもらって、最初に被災地の会場に入るときとか、その前にドライブインで高速降りなきゃいけなくなったときとか、ものすごく不安げな猪木さんを見たんですよ。そういう猪木さんはあまり見たことなかった。周りがもう少し設定したところに突っ込むのかなと思ったら、そういうあれもない。バスや支援物資のトラック引き連れて、何も分からないところにとにかく突っ込んでいく。こういうところの勇気に、感銘がものすごくあった」

 猪木さんが数々の闘魂外交で果たしてきた成果は大きかった。蝶野は改めて、その価値を見つめ直した。大切なのは支援したいという思いと行動。「自分でできることは続けたい」と意を決した。

 貧困の地に出向き、教育に必要な物資を運んだり、学校を建設したりといった直接の支援を行うわけではない。「貧困の差が激しくて、世界中に富裕層の人たちはすごいいるわけじゃないですか。その人たちにボランティア、思いやりを呼びかける主旨の話」と、役割を自認している。

 日本寄付財団は40代前後の若き実業家たちが中心となり、裕福層のネットワークに寄付を呼びかけている。世代では上にあたる蝶野の力も必要としている。

 救急救命と地域防災に携わった経験も生かすつもりだ。「救命であれば、ひと昔前は事故があれば119番というのが俺らの世代。今は119番とAEDがスタンダードになっている。地域防災は自助ですよね。『自分の身は自分で守ってください』というのが地域防災。同じ番地でも築50年の家と隣にある新築の家では違う。高齢夫婦と20代夫婦でも避難の仕方が違う。まずはそういう状況を伝えること」。教育の分野でも常にアップデートされた正しい情報を届けることが大切と説いた。

「まず、教育を受けられない子どもたちがたくさんいる。これを伝えることだと思う。格差も当然あるんだけど、その以前に施設がない子どもたちもいる。学校に先生がいることに感謝しなきゃいけなかったり、もう1回見直すきっかけになればいいと思いますよね。外の環境を知れば、学校の先生が面白くないとか教育方針がおかしいんだとか、親がおかしいんだとか言う前に、そういうことすらない人たちもいるんだよと(気づく)。教育を受けている日本の子どもたちにも伝えてあげたほうがいいかなと思います」

 かつて悪党軍団を引き連れ、リングで無法ファイトを繰り広げた黒い総帥の姿はどこへやら。「途上国じゃなくても、環境が整わない子どもたちは日本にもいる。自分も勉強していかなきゃいけない」と真顔で訴える姿には、熱がこもっていた。

□蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)1963年9月17日、東京都出身。84年、新日本プロレスに入門。黒のカリスマとしてnWoブームをけん引。99年、ファッションブランド「ARISTRIST(アリストトリスト)」を設立。2010年に退団。現在はYouTube「蝶野チャンネル」が人気を集めるほか、NWHスポーツ救命協会代表理事、日本消防協会「消防応援団」、日本AED財団「AED大使」、日本寄付財団アンバサダーを務める。

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