押井守監督、アニメ賞の概念を再考「僕を恨まないでください」 選考基準で激論

第1回新潟国際アニメーション映画祭が3月17日~22日、新潟市民プラザなどで開催された。短編が主軸のアニメーション映画祭の中で、世界に先駆けて長編商業アニメーションに特化したコンペティション部門を設定。審査委員長の押井守監督らの発案で「傾奇(かぶく)賞」など受賞作品に合わせた賞も設けられ、新たな映画祭の可能性を示した。

押井守監督
押井守監督

第1回新潟国際アニメーション映画祭で

 第1回新潟国際アニメーション映画祭が3月17日~22日、新潟市民プラザなどで開催された。短編が主軸のアニメーション映画祭の中で、世界に先駆けて長編商業アニメーションに特化したコンペティション部門を設定。審査委員長の押井守監督らの発案で「傾奇(かぶく)賞」など受賞作品に合わせた賞も設けられ、新たな映画祭の可能性を示した。(取材・文=中山治美)

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 授賞式冒頭、真木太郎ジェネラルプロデューサーが「監督賞、脚本賞、音楽賞、美術賞と発表するところでしたが、賞の名前が変わりました」と説明すると、会場がざわついた。

 発表されたのは「傾奇賞」と「境界賞」という聞き慣れぬ名称。前者は「従来の価値観に捉われず、斬新で新しいものに挑戦し、創造していく作品」に対して、後者は「制作手法やジャンルなどの様々な境界に捉われず、アニメーションの世界に進化を与える作品」に対して贈られるとした。

 賞名を決めたのは押井監督ら3人の審査員たち。選考会を始めるにあたり、「多様なスタイルがあるのがアニメーションの本質。それを同じテーブルに並べて優劣をつけるというのは成立しない。集まった作品に見合った賞を考えるべき」(押井監督)と選考基準について1時間にわたって議論をし、賞そのものの概念を再考したという。

 確かに長編アニメは多種多様。今回のコンペ作10本もNetflix配信シリーズの劇場版『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』(牧原亮太郎監督)から、フランス領マルティニーク出身アラン・ビダール監督がほぼ1人で制作した『オパール』まである。技術の進歩や配信など媒体が増えたことで、ディズニーなどの大スタジオでなくとも長編アニメの制作が可能となり、自主制作の作家性の強い作品も増えた。それらを同じそじょうに載せて評価するのは難しく、世界最大級を誇るアヌシー国際アニメーション映画祭でも、長編コンペを2つに分けているほどだ。

 そこで今回、押井監督らが審査の指針としたのは「作品の趣旨にフィットしたスタイルか否か」で、グランプリには、村上春樹氏の短編小説を原作にした『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデス監督)が選ばれた。東日本大震災から始まるビザールな世界を実写映像をトレースするロトスコープなどの技法を用い、表現した作品だ。そして、押井監督は「クオリティーの優劣を決める賞ではないと申し上げたい。参加してくれた監督、関係者の皆様、どうか僕を恨まないでください」と真摯(しんし)に関係者へ語りかけた。

 本映画祭は、新潟が赤塚不二夫氏、高橋留美子らを輩出し、アニメ・マンガ学部を設けた開志専門大など、人材育成機関や制作会社も多数ある聖地であることを広く知らしめるために開催されたもの。何より、東映動画(現・東映アニメーション)を立ち上げ、日本初の長編カラーアニメーション『白蛇伝』(58年)などを制作した大川博氏と挿絵画家でアニメーション監督の蕗谷虹児氏の出身地でもある。そこで映画祭では、多大なる貢献を残した技術スタッフや制作スタジオを讃える大川=蕗谷賞を設けた。第1回の受賞者として、『THE FIRST SLAM DUNK』(公開中)が世界的にヒットしている東映アニメーションとダンデライオンアニメーションスタジオなどが選ばれた。

 今回、審査員長としてだけでなく、映画祭の顔としての広報活動や人材育成プログラムでの講師役と映画祭の船出に尽力した押井監督は、6日間を振り返って言った。

「今回は作品中心でしたが、同人誌やコスプレなど、それらを含めた総体がアニメーション文化。作品が骨格だとしたら、華の部分をどう追求するか。それが集客能力に影響が出るのかなと思います。それと日本の作品をもう少し増やしたい。それには映画会社やスタジオの協力が必須。出品することのメリットを映画祭がどのように作り出すかが、今後の課題だと思う」

 映画祭によると、今年の賞の方式を踏襲するか否かは次回の審査員たち次第だという。しかし、“新潟らしさ”の色は、押井監督らが付けた。この財産をどのように生かしていくのか。映画祭の運営にかかっている。

受賞結果は以下。
【コンペティション部門】
・グランプリ
ピエール・フォルデ監督 『めくらやなぎと眠る女』(フランス・カナダ・オランダ・ルクセンブルク)

・傾奇賞
ヴィノム監督 『カムサ – 忘却の井戸』(アルジェリア)

・奨励賞
牧原亮太郎監督監督 劇場版『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』(日本)

・境界賞
ロスト監督 『四つの悪夢』(オランダ・フランス)

【大川=蕗谷賞】
・総作画監督・亀田祥倫、中野悟史(『犬王』)
・美術監督・木村真二 (『漁港の肉子ちゃん』)
・CGアニメーション 東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオ(『THE FIRST SLAM DUNK』
・撮影監督・寺尾優一 (『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編)
・アニメーション制作スタジオ・MAPPA (『劇場版 呪術廻戦0』)

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