子どもの美容整形が物議 小学生のビフォーアフター公開も…専門家「規制が必要な過渡期」
「たった3年の高校生活。1秒でも長くカワイイ私で過ごしたい」。高校生に向けた美容整形の電車内広告が、ネット上で物議を呼んでいる。「高校生に積極的に整形を勧めるのはどうなのか」「ルッキズム(外見至上主義)を助長する」といった批判の声も上がっているが、美容整形手術において、年齢に関するガイドラインはないのだろうか。業界団体に見解を聞いた。
高校生に向けた美容整形の電車内広告が「ルッキズムを助長する」と物議に
「たった3年の高校生活。1秒でも長くカワイイ私で過ごしたい」。高校生に向けた美容整形の電車内広告が、ネット上で物議を呼んでいる。「高校生に積極的に整形を勧めるのはどうなのか」「ルッキズム(外見至上主義)を助長する」といった批判の声も上がっているが、美容整形手術において、年齢に関するガイドラインはないのだろうか。業界団体に見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
先月中旬、SNS上で話題となったある大手美容クリニックの電車内広告では、「19才までのあなたへ Teen二重術 5年間再施術無料 両目39,000円(税込)」「前は運動、嫌いだった。汗で二重のり、取れちゃうから」「汗、水、すっぴん怖くない! たった3年の高校生活。1秒でも長くカワイイ私で過ごしたい」といった文言と共に、制服を着た3人の女子高校生が笑顔で駆け出すイメージ写真が収められている。広告内には※印がついた注釈として、ごく微細な字で「保険適用外の自由診療となります」「表示金額は標準的なものです。効果には個人差があります」「だるさ・熱感・頭痛などが生じることがあります」などの注意書きもある。
ネット上ではこの広告を巡り、「判断がつかない年齢の子に、整形をしなければかわいくない、短い高校生活を無駄にするといった誤ったメッセージを発信するのは、ルッキズムを助長することにつながるのでは」「本当に悩んでいる人は自分で調べるはず。電車内広告にする必然性がない」といった批判の声も。広告を提供するクリニックが、一部メディアの取材に「コンプレックスを植え付ける意図はない」「不愉快な思いをさせてしまったことについては真摯に受け止める」と回答する事態となっていた。
美容整形を必要としている人がいる以上、一概に不適切とも言い切れない今回の広告。業界内で年齢に関するガイドラインはないのだろうか。一般社団法人日本形成外科学会の美容医療に関する委員会委員長で、一般社団法人日本美容外科学会(JSAPS)広報委員長でもある原岡剛一医師は「学会としては、『何歳以下には施術しない』といったガイドラインは出せないのが正直なところ」と実情を明かす。
「形成外科では、先天異常であれば生後数か月で施術を行うこともあります。明らかに日常生活に支障を来すような異常がある場合、手術はその子が学校や保育などの社会に入る前にやってあげるべき。では、決して病気とは言えない一重がどうなのかというと、これは非常に難しい問題です。高校生や中学生でも、一重がコンプレックスでアイプチの使い過ぎで皮膚がかぶれてしまっている、それでもやらないと気が済まない、外に出られないという子もいる。理想は一重であることを気にせず生きていける世の中になることですが、我々大人がそれを実現できていない現状では、1つの解決策として施術は必要だと感じます」
重瞼術(じゅうけんじゅつ)、二重術と呼ばれる、一重まぶたを二重にする手術は日本を中心に発展。年間美容外科手術の4割以上を占めるもっともポピュラーな手術だ。主に皮膚にメスを入れる切開法と糸で皮膚を縫い合わせる埋没法の2種類があり、このうち埋没法は糸を抜けば施術前の状態に戻すことも可能で、手間や費用が手頃なプチ整形としても人気が高い。とはいえ、今回の広告にある両目3万9000円という金額は破格だと語るのは、公益社団法人日本美容医療協会(JAAM)副理事長の鈴木芳郎医師だ。
「自由診療なので相場があるわけではありませんが、私のクリニックでは埋没法で15~20万円。特殊なやり方を取っており、土地柄と客層もあって、一般よりはやや高い設定になっていますが、比較すると3万9000円がいかに安いかがお分かりいただけると思います。当然広告費もかかっているので、いかに多くの人の目に留まるか、数で稼ごうというスタンスであるということは言えるのかもしれません」
成人年齢引き下げにより、18歳、19歳は保護者の同意がなくとも施術可能に
このような広告をめぐっては、昨年4月に実施された成人年齢引き下げも影響している。従来であれば18歳、19歳は保護者の同意がなければ施術を受けられなかったが、成人年齢が18歳に引き下げとなったことで本人の意思で施術可能に。進学や上京などで親元を離れ、周囲の人間関係が変わるタイミングとも重なることで、心機一転して美容整形に手を出す女性も多いという。
「周りにはバレたくないということで、進学までダウンタイムがしっかり取れる春休みに新しい友達ができる前に、というケースは多いです。また、今は親の世代でも抵抗のない方が多く、娘が朝に何十分もかけてアイプチしているのを見かねて、プチ整形してもいいからその時間で勉強しなさいという親御さんもいる。SNSでインフルエンサーがビフォーアフターをあげる案件も増えていますし、そういう意味ではより身近に、美容整形のカジュアル化が進んでいると見ることもできます。整形を受けたい人が受けられる環境が整うことは望ましいですが、誰もかれもがやればいいというものではない。規制が必要な過渡期にあると言えるかもしれません」(鈴木医師)
前述の原岡医師は高校生への施術や広告全般を一律に禁止することには異を唱える立場だが、それでも目に余る例はあるという。
「最近では、インスタグラムに小学生のビフォーアフターを公開しているクリニックもあります。おそらく保護者の同意のもとでアップしているんでしょうが、果たしてその子の肖像権がどこまで保護者に帰属するのかというと、これは極めて微妙な問題。先天異常は別として、本人が判断できない年齢の子どもの顔を親のエゴで変えてしまっていいのか。うちの病院でも相談には乗りますが、手術は絶対にしません」
原岡医師も鈴木医師も等しく訴えるのは、たとえ若年層であっても美容整形自体は時に必要なもので、すべてを規制すべきではないということ。その上で、安易な広告に流されることなく、事前に確かな覚悟と知識を持って施術に臨む姿勢が必要だという。JSAPSやJAAMでも正しい知識や情報の発信に務めている。法改正やSNSの普及により美容整形のカジュアル化が進むなか、子どもたちにどう啓発を行っていくべきか。美容業界も大きな過渡期を迎えているようだ。