「舞い上がれ!」で社長御曹司役の佐野弘樹、映画でメインキャスト 「よっしゃ」と思った

NHK連続テレビ小説『舞い上がれ!』で有名スーパーの社長の息子・水島祐樹役で注目を浴びた佐野弘樹(29)が映画のメインキャストで出演した。北海道・根室を舞台にした人間ドラマ『TOCKA[タスカー]』(鎌田義孝監督、2月18日、ユーロスペースほか順次公開)で、先の見えない生活に疲れていた廃品回収業の青年を演じた。

俳優の道に進んだきっかけを明かした佐野弘樹【写真:ENCOUNT編集部】
俳優の道に進んだきっかけを明かした佐野弘樹【写真:ENCOUNT編集部】

『TOCKA[タスカー]』で廃品回収業の青年を演じる

 NHK連続テレビ小説『舞い上がれ!』で有名スーパーの社長の息子・水島祐樹役で注目を浴びた佐野弘樹(29)が映画のメインキャストで出演した。北海道・根室を舞台にした人間ドラマ『TOCKA[タスカー]』(鎌田義孝監督、2月18日、ユーロスペースほか順次公開)で、先の見えない生活に疲れていた廃品回収業の青年を演じた。(取材・文=平辻哲也)

 朝ドラで注目された佐野は山梨県出身。10代はサッカーに明け暮れて、大学時代に演劇に目覚めて、俳優を志した。明るいキャラクター、お調子者の役が得意で、福島・相馬の小さな映画館を舞台にした高畑充希主演の映画『浜の朝日のうそつきどもと』(タナダユキ監督)ではベトナム青年を演じたのが印象深い。「佐野弘樹」とググると、高校、大学サッカーで司令塔として活躍した選手が出てくるが、「それは僕ではありません」と話す。

 大抵の人が勘違いするのにも理由がある。同姓同名、しかも生年月日まで同じなのだ。「僕はその方を一方的に知っていますが、その方はどうでしょうか。機会があったら、お会いしたいですね。サッカーは小3から高3まで10年間ぐらいやっていました。ポジションは最初、右サイドハーフ、中学からは左サイドバックか右サイドバック。高校時代もやっていましたけど、県大会はいいところまではいくけど、全国大会には出場していないんです」。

 実はサッカーは小3のときにプロの道を諦めた。

「すごいうまいやつがいたんですが、それでも、代表に行けないんだって思ったら、無理だと思って、サッカーに打ち込むことができなくなってしまったんです。あとは友達もいるから、とりあえずサッカー部に入った感じで、自分が好きなことを見つけられたら、全力で打ち込みたいと思っていました」

 その全力で打ち込みたいと思ったのが今の俳優業だ。きっかけは2015年6月、大学4年の時だった。

「就職に強いゼミに入っていたんですけど、先生の方針と合わなくて、やめさせられてしまったんです。このままじゃ就職できないなと思っていたら、バイト先で演劇を紹介してもらったんです。でも、演技には興味なかったし、ミーハーだったんで、金を稼げて、モテるでしょうみたいな感覚でしたね。2年間、小劇場でやっていたんですが、僕が憧れていたテレビや映画の世界にはいけないんだと分かって、今の事務所に入ったんです」。

 所属するブレスは、麻生久美子、河井青葉、黒川芽以、前野朋哉、深水元基らが所属し、映画やドラマに強い俳優系の事務所だ。『タスカー』の出演も、朝ドラ同様、オーディションで射止めた。国境の町、根室を舞台に死を決意した男が、自分を殺してくれる人を探す彷徨の旅を描く人間ドラマ。人に殺されたいと願う中古電器店を営む男(金子清文)、シンガーの夢を諦め、生きる意味を失った女(菜葉菜)と、先の見えない生活に疲れていた廃品回収業の青年(佐野)が出会い、物語は進んでいく。

「僕は、こういうトーンの映画が好きだったのですが、参加したことはなかったので、オーディションで決まったときは“よっしゃ”と思いました。妹のため、お母さんのために、真摯に生きようとしている青年ですが、実際にやっていることはよくないこと(劇中では、詐欺まがいなことをする)ですが、誠実に生きようと模索している青年だと思いました。自分も都会ではないところで育ったので、閉塞感みたいなものは、分かるなと思いました」。

出演映画『TOCKA[タスカー]』について語った佐野弘樹【写真:ENCOUNT編集部】
出演映画『TOCKA[タスカー]』について語った佐野弘樹【写真:ENCOUNT編集部】

 監督から「金子さん、菜葉菜さんとは親しくならないで」と言われた一方、妹役とは密にコミュニケーションを取ることを心がけたという。「僕は一人っ子なのですが、そういうものって、演技にも出てしまうじゃないですか」。

 劇中では、車で海に飛び込む主人公(金子)と女(菜葉菜)を助けるシーンもある。全員スタントマンなしで本人が演じているが、一発勝負の緊張感があった。

「東京では、ウエットスーツを着てのリハーサルもありました。レスキュー隊も待機して、クルマには仕掛けもあって、安全に気をつけてもらっていましたが、ちょっとビビリましたね。『海の中は温かいです』と言われましたが、海から上がってから死ぬほど寒くて(笑)。1回しか撮影できないから、助けることだけ念頭において飛び込みました」。

 映画はデジタルではなく、今どき珍しい16mmフィルムを使っており、釧路の町の重々しい雰囲気とマッチし、重厚な映像に仕上がっている。

「フィルムの無駄遣いをしちゃいけないので緊張感がありました。ただ、スタッフは僕らにはプレッシャーをかけないように配慮してくれていました。いつも以上にちゃんとバチッと決められたかもしれません。今の世界線にいるリアルな人物の役は初めてだったので、物語は重い感じですが、撮影はすごく楽しかったですね」と振り返る。

 佐野にとっては、今までの明るい役とは違った一面を見せられた勝負作となったが、朝ドラ、映画を経て、今後はどう見据えているのか。

「朝ドラは撮影当時、あまり意識していなかったのですが、放送が終わってからの反響がすごかったです。今思うと、一線でやっている同世代と2か月間も一緒に過ごせたのはすごい経験で、その繋がりでお仕事も広がっていくのかなと感じられました。せっかく皆さんに見てもらえるチャンスができたので、これは生かさないといけないと思っています。今年はキャリアの中で一番働きたいなと思っています」と意気込んだ。

□佐野弘樹(さの・ひろき)1993年12月8日、山梨県出身。10代からファッションモデルとして活動。その後、演劇活動を始め、舞台や映画・ドラマで活動の幅を広げる。主な出演作は、『佐々木、イン、マイマイン』(20/内山拓也監督)、『FUNNY BUNNY』(21/飯塚健監督)、『浜の朝日のうそつきどもと』(21/タナダユキ監督)、『この街と私』(22/永井和男監督)、『茶飲友達』(23/外山文治監督)など。2022年度後期NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』レギュラー出演。

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