「映画は人生の教科書」 斜め上のラインアップが話題のBS松竹東急 元俳優志望のテレビマンが選ぶ三谷作品

昨年3月に開局した放送局「BS松竹東急」(東京都中央区)が攻めている。歌舞伎俳優の尾上松也や、同・松本幸四郎がMCを務めるバラエティー番組のほか、さらに俳優の滝藤賢一が主演の、江戸時代に現代の最新家電が届くという奇抜な設定のSF時代劇「家電侍」などオリジナル作品を次々輩出。斜め上を行くラインアップが視聴者の心をつかみファンを拡大している。23年1月現在、60人強の社員が在籍しているという同社。ユニークな発想はどこから来るのだろうか。2月2日から2週連続で三谷幸喜が手がけた6作品を放送する企画「三谷幸喜ナイト」を担当する映画班の岡田雄介さん(39)に聞いた。

国内外の名作映画を放送する「よる8銀座シネマ」の編成を担当する岡田雄介さん【ENCOUNT編集部】
国内外の名作映画を放送する「よる8銀座シネマ」の編成を担当する岡田雄介さん【ENCOUNT編集部】

22日の「猫の日」、アカデミー賞に合わせた特集も企画

 昨年3月に開局した放送局「BS松竹東急」(東京都中央区)が攻めている。歌舞伎俳優の尾上松也や、同・松本幸四郎がMCを務めるバラエティー番組のほか、さらに俳優の滝藤賢一が主演の、江戸時代に現代の最新家電が届くという奇抜な設定のSF時代劇「家電侍」などオリジナル作品を次々輩出。斜め上を行くラインアップが視聴者の心をつかみファンを拡大している。23年1月現在、60人強の社員が在籍しているという同社。ユニークな発想はどこから来るのだろうか。2月2日から2週連続で三谷幸喜が手がけた6作品を放送する企画「三谷幸喜ナイト」を担当する映画班の岡田雄介さん(39)に聞いた。(取材・文=西村綾乃)

 松竹製作作品を中心に年間300本近い映画作品を放送することを強みとしている同社。岡田さんは国内外の名作映画を放送する「よる8銀座シネマ」(月~金曜午後8時)の編成を任されている。

 岡田さんと映画の出合いは小学生の頃。中学時代に初めて観た本格的な日本映画「うなぎ」に主演していた俳優の役所広司に憧れ映画俳優になりたいという思いが生まれたと語る。

「暮らしていた北海道から、進学を機に上京しました。でも、感度の高い学生たちに囲まれて過ごす中で、自分には人間としての魅力が足りないのではないかと委縮してしまって。旅好きの先輩から旅人のバイブルとされている沢木耕太郎さんの『深夜特急』と堀田あきおさんの『アジアのディープな歩き方』を貸してもらい、友人とインドに行くことを決めました」

 20年間生きて来た自分とは何か――。その総括をしたいという思いもあった。インドの最南端から、ムンバイの東に位置するアウランガーバード郊外にある世界遺産「エローラ石窟寺院群」など。心が赴くままに、1か月間をかけて巡った。

「インドでは良い人だと思って親しくしていた人が、実はギャングで日本人女性を軟禁していた……。など自分の目で見て『正しい』と思っていたことが、覆る瞬間がありました。日々の体験を日記に記して、気が付いたことは『自分はまだまだ薄っぺらい人間。振り返るものなんて何もない』ということ。『インプットしたい』と帰国後は日に4~5本の映画を観るなど、サブカルの世界にのめり込んでいきました」

 東京都内にある男子大学生が集まった寮では、夜な夜な映画について論じた。目標を決め就職活動をしている同窓生をぼんやりと見つめ、あっという間に過ぎ去った5年間。進路を決めあぐねていたとき、ゼミ教授の夫人が「映画が好きなら、裏方に目を向けて見たら」とヒントをくれた。書類選考ではじかれた企業もあったが、40社の扉をたたき、日本の映画や演劇の製作や興行、配給などを手掛ける大手映画会社「松竹」に入社することが決まった。入社後は、撮影所に行くなど8か月間の研修を受けて、映画を海外にセールスする部門に配属されたという。

「映画のプロデューサーに憧れながら現実と向き合う日々を送っていたときに、松竹から出向という形で、立ち上げがきまったBS松竹東急に初期メンバーとして事業に関わるようになりました」

 現在は、編成局編成部で映画編成やオリジナルドラマの編成などを担当。どのような番組が視聴者に求められているのか、社会の動きを見ながらタイムテーブル全体の戦略を練っているという。

「編成は強みでもある歌舞伎などの演劇、オリジナルドラマ、そして映画の3本柱で展開しています。配信などのプラットフォームや、映画専門チャンネル、またほかの放送局と差別化できるように、他社がやっていないグルーピングなどを意識しています。自分で好きな作品を何でも選択して、観ることができる世の中ですが、そんな時代にあって、予想外にすごいものと出合ってしまったという映画体験をテレビでも作れたらと思います」

 2月2日から始まる特集放送企画「三谷幸喜ナイト」では、最新作の『記憶にございません!』(2019年)、『竜馬の妻とその夫と愛人』(2002年)など三谷の映画や演劇作品を全6作放送。「ラヂオドラマ制作の舞台裏を描いた『ラヂオの時間』(1997年)はものづくりをする葛藤を普遍的に描いた群像劇。誰にでも共感できる部分がたくさんあるはず」と期待する。

 俳優の三國連太郎が生誕100年を迎えた節目には、三國が出演した「利休」「切腹」「螢川」などの名作を放送。大きな反響があった。2月は22日の「猫の日」に合わせて、猫が登場する作品を集めた「めくるめく猫の世界」(20~24日)。アカデミー賞に合わせた特集(28日~3月12日)も予定している。

「こちらの意図を感じて観てくださっている方も増えてきたなと実感しています。局内でもより良い作品を少しでも多くの人に届けたいと、部署を横断した連携が出来上がってきているので、一つ一つの取り組みは小さくても信じて続けて行きたいです。映画は人生の教科書。いろいろな作品に触れて、人生を豊かなものにしてほしいです」

次のページへ (2/2) 【写真】「三谷幸喜ナイト」で放送される作品の場面カット
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