ゴッホ「ひまわり」などがクローンで復活 本物より緩い規制「触れるものはぜひ触れてみてほしい」

門外不出の貴重な文化財をクローン化することで、触れたり自由に撮影をすることができる企画展『こうりんークローン文化財 上洛ー』が東本願寺(真宗大谷派本山、京都市下京区)内の「渉成園 ろう風亭」で開かれている。京都での展示は初めて。指揮をとる東京藝術大学の名誉教授で特任教授の宮廻(みやさこ)正明氏に、その魅力と将来の展望について聞いた。

ガラスと透明樹脂で制作されたハイパー文化財「法隆寺《釈迦三尊像》『未来』」。透ける素材にプリントした法隆寺金堂壁画の復元図に囲まれている
ガラスと透明樹脂で制作されたハイパー文化財「法隆寺《釈迦三尊像》『未来』」。透ける素材にプリントした法隆寺金堂壁画の復元図に囲まれている

ガラス製の「法隆寺《釈迦三尊像》」で未来を提示

 門外不出の貴重な文化財をクローン化することで、触れたり自由に撮影をすることができる企画展『こうりんークローン文化財 上洛ー』が東本願寺(真宗大谷派本山、京都市下京区)内の「渉成園 ろう風亭」で開かれている。京都での展示は初めて。指揮をとる東京藝術大学の名誉教授で特任教授の宮廻(みやさこ)正明氏に、その魅力と将来の展望について聞いた。(取材・文=西村綾乃)

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 1653年に石川丈山によって書院式の回遊庭園として作庭された1万坪を越える庭園・渉成園の中にある日本家屋ろう風亭で開かれている展示には、伝統的な模写・模造技術と最先端のデジタルテクノロジーを組み合わせ複製された31点の「クローン文化財」が集結。2010年に制作した同文化財の前身となる「高句麗古墳群江西大墓の壁画」(北朝鮮)から、1945年の神戸大空襲で焼失したゴッホの「ひまわり」、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」などが並んでいる。

 注目はガラス製の「法隆寺《釈迦三尊像》」。三体合わせた高さは約1.6メートル、横幅は2メートル、重さ100キログラムの像の制作を進める中で宮廻教授は、奈良県にある同像の「現在」の状態を、3Dスキャナーを使い、現状と同じ質感にこだわり原寸大で再現。次に「過去」に目を向け、飛鳥時代に制作された黄金色に輝く姿を復元した。

 2つのクローンを目にした宮廻教授は「未来の提示のために」と、飛鳥時代には存在しなかったガラスで作ることを提案。「下からライティングをすれば、像の中にらせん状の光りが見えるのでは」と仮説を立て「未来」の像を完成させた。頭部と両手部分をガラスで制作した「未来」の像は、宮廻教授がイメージした通り、頭部の内側から光線を照射すると、頭上に光のらせんが現れた。会場には1949年に火災で焼失した法隆寺金堂の壁画を、透き通る素材にプリントした作品に囲まれた「未来」の姿、そして「現在」の同像を再現した作品が展示されている。

 宮廻教授は「『未来』の像の中に生まれたらせんは、星雲や曼荼羅を思わせ、いにしえの人々が仏像で光と宇宙を表現したかったのではないかという仮説を作品として形にすることができました。芸術と化学を混在させ、芸術家の創造の力で時を超えて点と点をつなぎ、現実を超越した未来の文化財の姿を表現しています」と熱い思いを吐露。宮廻教授は「宗教の原点も、人間のDNAもらせんで出来ています。生命の原点にらせんがあることに気付いてもらえれば」と話している。

贋作づくりの批判もあった過去 「芸術を五感で楽しんで」

 来場した人を驚かせている「クローン文化財」は現在、東京藝術大学や、同大学院を卒業した作家ら7名が従事。日本画や油画、彫刻、映像などのスペシャリストが、その才能を活かし可能性を広げている。

 中国など他国からも注目を集めているが、計画を進めていた15年ほど前は、「贋作づくりをするのか」「商売にするのか」など批判もあったという。

 宮廻教授は国宝などの文化財を守るためには、「大切にしまっておくことが最良の保存方法」と語るが、非公開のままではその素晴らしい価値が共有されず、本来の存在意義が損なわれてしまうと危惧。これを解決するために生み出したのがデジタルとアナログを混在させた同文化財だった。

 展示方法にも強いこだわりがある。制作や設営に携わったスタッフの林宏樹さんは「ゴッホの『芦屋のひまわり』は、壁面ではなくイーゼルに乗せ、傍らにはゴッホのパレットを再現したものを置き、日本家屋の中にゴッホのアトリエを出現させました」。マネの油彩画「笛を吹く少年」は、平面で複製した作品と、オリジナルの絵画を計測してデータ化、三次元で再現した等身大の少年像を並べた。

 宮廻教授は「いかにオリジナルに近づけるかと考えた『クローン文化財』は、焼損するなど現在は存在しないものを立体化した『スーパークローン文化財』。そして今回、ガラスで制作した『法隆寺《釈迦三尊像》』のような『ハイパー文化財』へと進化しています。将来は立体化した『笛を吹く少年』をロボット化することで、人間と合奏できるようにしたい」と思いは膨らむ。

 オリジナルが持つ雰囲気も体感できるように。クローン文化財として再現された浮世絵は、結った髪の部分に瓶詰油のにおいを出せるようにしたり、ぼこぼことした版画の質感を感じてほしいと、触れることを許可している作品もある。

 宮廻教授は「オリジナルの場合は、破壊や盗難などの恐れもあり、色々な制限がありますがクローン文化財はそこまで規制が厳しくありません。触れるものはぜひ触れてみてほしい。以前、弱視の方が来場された際に、『美術鑑賞は縁がないと思っていましたが、顔を近づけたり、触れる展示に感動しました』と感想をいただいたことがありました。芸術を五感で楽しんでほしい」と呼びかけた。

 今後について宮廻教授は「我々の活動の目的は物を作ることですが、もっと大切なことは、世界中の文化財をその地域の人々の手により保存し継承していける人材の育成にあります。文化財により観光が栄え、その地域が潤い豊かになり、平和な世界を構築する手助けになるような活動に繋げていきたいと思っています。文化は人が作り出すことができる唯一の資源だと考えています」と話している。

 29日まで開催。時間は午前9時から午後4時までで、最終入場は午後3時半。入場料は無料だが、渉成園受け付けで庭園維持寄付金500円が必要。

次のページへ (2/2) 【写真】東本願寺にゴッホのアトリエ! 宇宙を感じるガラス製の「法隆寺《釈迦三尊像》」
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