花火会社、冬は何している? 実は1年で最も多忙な現場も… 創業85年の老舗に聞いた
花火と言えば、夏を代表する風物詩。打ち上げに携わる花火会社は7月から8月にかけて多忙を極める。一方で、オフシーズンの冬はどんな仕事をしているのだろうか。実は家庭用のおもちゃ花火の営業はこの時期がピークで、商談の現場はてんやわんや。また、打ち上げ花火の玉の製造も冬の乾燥が適しているとされ、工場はフル稼働している。創業85年の老舗・若松屋(愛知・岡崎市)に気になる疑問を聞いた。
連日の商談でてんやわんや 「年が明けると相当お尻に火がついてくる」
花火と言えば、夏を代表する風物詩。打ち上げに携わる花火会社は7月から8月にかけて多忙を極める。一方で、オフシーズンの冬はどんな仕事をしているのだろうか。実は家庭用のおもちゃ花火の営業はこの時期がピークで、商談の現場はてんやわんや。また、打ち上げ花火の玉の製造も冬の乾燥が適しているとされ、工場はフル稼働している。創業85年の老舗・若松屋(愛知・岡崎市)に気になる疑問を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
若松屋は打ち上げ花火、おもちゃ花火の両方を扱う日本で唯一の花火会社だ。おもちゃ花火のシェアは国内トップ。また、打ち上げ花火も愛知の自社工場と海外の協力工場で玉を製造し、全国の花火師にも販売している。
花火会社の1年について、「トータルで一番忙しいのは7月、8月です。圧倒的にそうですね。逆に10月や11月は比較的のんびりしています。ウチの社員も夏休みをだいたいここで取るようにしています」と話すのは東京支店営業部長の竹内直紀さん。夏は全国各地の花火大会に自社の花火師を派遣。交通規制が敷かれる前に現地入りして、花火の準備をする。打ち上げが終わって機材を片づけるまで仕事は続く。週末はその繰り返しとなる。おもちゃ花火も出荷の最盛期となり、物流倉庫の担当者は日々業務に追われる。
一方で、冬はというと、竹内さんは「部署によって忙しい時期がバラバラなのですが」と前置きしつつ、「年が明けると相当お尻に火がついてくる」。夏に向けての準備が早くも本格化していると明かした。
最も多忙なのは、おもちゃ花火の営業マンで、「おもちゃの営業の人たちは今が一番忙しいですよ。今年の売り場を作っているので」と説明した。シーズン中に花火を店舗に置いてもらうため、問屋や小売り店と商談をするのがこの時期。台東区浅草橋の東京支店で行われる展示会には、12月に100社、1月に50社が来社する。さらに別会場も借りて、商品のPRをしているという慌ただしさだ。
さらに独特なのが、各小売り店の花火売り場のイメージを作って、営業活動をするということ。
「1日がかりで本当にお店の売り場を作っているんですよ。要は売れ筋の商品がそれぞれのお店によって違うんですよね。価格帯だったりとか、デザインだったり、ちょっとした差なんですけど、何を中心にどういうふうな売り場にするかということをそれぞれの営業が工夫しながら提案をしています。」
竹内さんが例に出したのがスーパーとホームセンターの傾向の違いだ。
「1000円の花火と2000円の花火があるとしたら、スーパーさんだと安いほうが売れます。でも、ホームセンターさんだと2000円のほうが売れるわけですよ。そうなると、スーパーさんは1000円の花火を中心にお店の売り場を作るし、ホームセンターさんだったら2000円の商品の売り場を作ります。(おもちゃ花火用の)打ち上げ花火が売れない地域もありますし、打ち上げ花火が入っているセットが売れるお店もあります。大手のディスカウントストアさんなんかは、ちょっとやんちゃな感じのデザインのほうが売れたりするんですよ」
スーパーA、スーパーB、スーパーC…と客層や過去の実績も踏まえて、それぞれの売り場を東京支店内に作る。それだけでも大変な作業だ。各小売り店は若松屋が作った売り場を参考に実際の店舗でも売り場を作るため、見た目や商品ラインアップなど顧客の意見も聞き入れながら適切な配置をする必要がある。
小売り店に出向いて売り場のサンプルを作ることもあるほか、「ある量販店さんなんかは、ウチを含めたメーカー4社の製品を全部使っているんです。そうすると、4社を集めてその作業をすることもあります」。花火会社はライバル会社との協働も求められ、その中で特色を出すこともアピールしなければならない。
おもちゃ花火は早い店では4月末から店頭に並ぶため、商談はまさにピークを迎えている。同時に2024年の新商品の開発も始まっている。
玉の製造も冬が最盛期 コロナ禍の影響で計算しづらい花火大会の開催
一方で、打ち上げ花火の現場も玉の製造が急ピッチで進められている。「年間を通じてずっと作っているんですけど、冬が生産の最盛期ですね」と竹内さん。玉作りには乾燥した気候が適しているとされるためだ。
1つの玉は複数の工程を経て、完成に1~2か月ほどかかる。「花火は玉の中に黒い火薬の球を並べて作るんですよね。一つ一つを星(ホシ)と呼んでいるんですけど、星は天日干しで作ります。乾燥している時期が作りやすいので、今の時期が一番なんですよ」。星は花火の仕上がりを左右するため、職人も力が入る部分だ。
「金平糖みたいな作り方なんですけど、米粒みたいな芯がありまして、それに火薬をかけて転がして、いったん天日干しします。それにまた火薬をかけて転がして、徐々に大きくしていくんですよ。それが出来上がったのが星です。赤色用の火薬だけで作れば燃えた時に赤い色が出ますし、ときどき赤の花火が緑に変わるとかあるじゃないですか。それは最初に緑色用の火薬で作って、あとから赤色用の火薬をつけて作ると、まず赤が出て緑に変わります」
雪が降るなど、なかなか天日干しができない地域では乾燥室を用意して作る地域もあるという。
悩ましいのは、どれくらいの数を作ればいいかということ。花火大会は先のため、玉は受注してから作っているわけではなく、だいたいの数を予想して生産される。「そこがまた恐ろしい世界で(笑)全部どんぶりというか、経験というかカンというか。去年お祭りがこれくらいあったから、今年もこれくらいやるだろうと見込んで作っています」。ただ、近年はコロナ禍のため、花火大会がどれくらい行われるのかも読みづらいという。
「コロナ前に比べて、昨年はそれでも5~6割は戻ってきていました。今年はすごく読みづらくて、この2年でなくなったお祭りって結構あるんですよね。1回なくしたものをもう1回復活させるのは体力が必要だと思いますし、規模縮小したものをもとに戻すのも大変です」。それでも開催となったとき主催者の要望に応えられるよう、最大限の準備をしている。玉のバリエーションにも気を配り、「花火屋としては新しいラインアップや新しい色を開発しながら玉を仕込んでいるという感じです」と話した。
完成した玉は専用の倉庫に保管する。コロナの影響で花火大会の数が減少し、在庫が増えると、新たに玉を作ることはできなくなる。2020年からの2年間は、花火会社にとっても大きな試練だった。
「倉庫が空かないから作れないんですよね。手仕事の職人技なので腕が鈍ると言って、作ったものをつぶしながら玉を作っている人がいるとも聞きました。大半の花火会社は社員の人たちにみんな外に働きに出てもらって乗り切っていたところが多いと思います。コロナの2年間はうちも工場を閉鎖していました」
若松屋では10人の職人が工場に配属。苦しい時期を乗り越えただけに、今年も花火を上げたいという思いは強く、花火大会の開催を信じて作業に当たっている。