WWE始め世界中のプロレス団体を体験した「闘う文筆家」TAJIRIがたどりついたプロレス観とは?

“闘う文筆家”TAJIRIが世界中のあらゆるプロレスを体験し、一周してたどり着いた心境とは? そして選んだ団体とは? プロレスマスターの胸中を追った。

九州プロレスの王座を獲得したTAJIRI【写真:柴田惣一】
九州プロレスの王座を獲得したTAJIRI【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.128】

“闘う文筆家”TAJIRIが世界中のあらゆるプロレスを体験し、一周してたどり着いた心境とは? そして選んだ団体とは? プロレスマスターの胸中を追った。

 昨年をもって全日本プロレスを退団したTAJIRI。30年近いプロレスラー人生では、新日本プロレスに参戦した他、大日本プロレス、SMASH、WNCなど日本の多くの団体に所属。米WWE、米ECW、メキシコ、欧州など世界中のリングを体験してきたマスターは「さまざまなスタイルのファイトだけでなく、団体の在り方……すべてを経験した。一周回ったかな」と悟ったような表情を浮かべた。

 いわばプロレスを味わいつくしたTAJIRIの現在の興味の対象は、プロレスラーやスタッフなどプロレスに関わる人間だという。「彼らの生き様にこそ最も興味がある。人間を書いていきたい」と腕をぶしている。

「プロレス深夜特急」「戦争とプロレス」と、自身が体験してきたプロレスを通した生き方をドキュメントとして出版してきた。実録シリーズ3部作の完結版として「プロレスと地方創生」(仮)を手がけたいという。

「闘う文筆家」としての心のうずきが、ある人物との出会いで、押さえようがなくなった。昨年、東京に進出してきた九州プロレスの筑前りょう太代表である。

 昨年の新宿大会を観戦し、言葉を交わすと共通点が多かった。九州プロレス侵略の名目で参戦するたびに「力になりたい」という思いが募っていったという。

 古き良き時代のプロレスを受け継いでいきたいという筑前代表の気持ち、ハート、魂、志が、TAJIRIのプロレス心と共鳴したのだ。「一周して原点に戻ったら、そこにこの団体があった。学生時代に僕が憧れたプロレスをやろうとしている」と、さまざまな人間模様を繰り広げた末に九州プロレス入団を決めた。

 筑前代表を「無私の人。自分の欲はなく、まさに『九州ば元気にするバイ!』と頑張っている。ある人の言葉を借りれば、九州のキリストみたいな人。僕はキリストを支えた使徒のひとりになるのでしょうか」と笑った。

東京から福岡に移住

 今月半ばにも東京から福岡に移住する。腰を据えて培ってきたプロレスセンスを九州プロレスに注ぎ込む。

 世界中に巡らしたネットワークを駆使して原石を招へい。手始めにマルタ共和国から“地中海の貴公子”オーエン・ブランコが来日する。「ギアニー・ヴァレッタの弟子で、大化け間違いなし」という。

 マルタ共和国に加え、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、マレーシア、シンガポール…各国の原石の来日だけでなく九州プロレスの選手を遠征に送り出すプランもすでに着々と進められている。

 九州から日本そして世界へ。TAJIRIのたどった足取りを九州プロレスの選手たちに提供する。TAJIRI自身は、選手へのサポートとして並行して「闘う文筆家」として筆を走らせる。

 ドキュメントシリーズのネタはあふれ出てくる。「まずは最初の3部作の締め。3部作をシリーズ化していきたい」と目を輝かせる。

 実はフィクションにも取り組んでいる。3月17日に小説「少年とリング屋」(イースト・プレス)が発売される。「筆が止まらない」とニッコリ。

 世界各国を飛び回った長い旅路の末に、故郷の九州に帰るTAJIRI。「プロレスは道だと思う。人生を究めるためのツールのひとつ」という「闘う文筆家」の今後が、ますます楽しみになってきた。

次のページへ (2/2) 【写真】「地中海の貴公子」オーエン・ブランコ
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