難関9.9% 1級建築士試験に一発合格 「日高屋」でも勉強した田中道子のド根性
昨年末に1級建築士試験に合格した俳優の田中道子(33)は、寸暇を惜しむ努力で難関を突破していた。このほど取材に応じ、試験前には中華料理チェーン店「日高屋」でも勉強し、“一発合格”を手にしたことなどを明かした。今後は俳優を続けながら、設計の実務を重ねて免許登録後、学校などの建築に携わる目標を抱いている。
きっかけは、コロナ禍と受験要件の変更
昨年末に1級建築士試験に合格した俳優の田中道子(33)は、寸暇を惜しむ努力で難関を突破していた。このほど取材に応じ、試験前には中華料理チェーン店「日高屋」でも勉強し、“一発合格”を手にしたことなどを明かした。今後は俳優を続けながら、設計の実務を重ねて免許登録後、学校などの建築に携わる目標を抱いている。(取材・文=ENCOUNT編集部ディレクター・柳田通斉)
昨年12月26日の合格発表から約2週間がたち、田中は晴れやかな表情で取材部屋に入った。
「お祝いの連絡をたくさんいただきました。ファンの方々からも、インスタのDMに続々とメッセージが届きました。合格したことで想像以上の評価をいただき、うれしい限りです」
事実、ネット上には、「これは半端ない」「ただただ尊敬」など感嘆の声が相次いだ。だが、田中は称賛を受けるためではなく、「長年の夢」を実現させるために合格率9.9%の国家試験に挑んでいた。
「大学で建築を学んでから、いつかは1級の資格を取ることを考えていました。それは一緒に学んだ人たちも同じだと思います」
田中は大学卒業後、専門学校の総合資格学院に通い、住宅の設計ができる2級建築士の試験に合格。地元静岡県内の建築会社に入ることを考えていた。しかし、就職活動の最中、オスカープロモーションの古賀誠一社長(現会長)にスカウトされて上京。契約後、俳優を目指しての修行が始まったが、ビル、ドームなどすべての建築設計が可能になる1級建築士への思いは抱いたままだった。
「契約して間もない頃、事務所に『2年、お休みさせてください』とお願いしました。当時の規定では2年以上の実務経験がないと、1級の試験を受けられなかったからです。ただ、駆け出しの立場で、そんなことは認められませんでした」
その後は気持ちを切り替え、レッスンを受ける日々。上京4年後、2016年10月期のテレビ朝日系「ドクターX~外科医・大門未知子~」で俳優デビューを飾り、キャリアを重ねてきた。だが、3年前の20年春に始まったコロナ禍と1級試験の規定が変わったことで、封印していた思いが抑えきれなくなったという。
「コロナ禍が始まり、約2か月は全ての仕事が止まりました。そして、この年から1級試験の受験要件から実務が外れました。つまり、試験合格後に実務を積めば免許登録ができることになったのです。仕事が休みの間に他の資格取得を目指して勉強を始めていましたが、『やっぱり、1級建築士が欲しい』と思い、あらためて翌年、仕事をしながらの受験意志を事務所に伝えました」
8年ぶりに総合資格学院へ「甘えは許されない環境で」
事務所の理解は得られた。田中自身も、「絶対に本業はおろそかにしない」と決意し、21年7月から約8年ぶりに総合資格学院へ通うようになった。
「私と同じように仕事をしながら、合格を目指す方々が多い中に飛び込みました。甘えは許されない環境で、宿題もたくさん出る。それを知った上で入学でした」
1級建築士資格試験の合格には、1次の学科、2次の設計製図の試験を突破する必要がある。1次試験は例年7月に実施。5科目で125問(4択のマークシート)が設定されている。合格率は20%程度。この試験の準備に田中は約1年を費やした。
「5科目の中で、私は建築施工を苦手にしていました。分からないことは、自分で調べて図に起こしながら理解していきました。あとは、アプリを使って問題を解き続けました。仕事が休みの日には、10〜12時間は勉強していました」
学科試験の合格発表は9月6日だったが、自己採点で合格を確信。8月からは2次試験に向けた講座が始まるが、その1か月後には、初主演舞台「赤羽焼肉劇場」(9月7~11日)が控えていた。この時点で、田中には「2次受験は来年にした方がいいのかも」との思いがあった。理由は「1次合格者は、5年以内で3度は学科免除で2次を受けられる」の規定があるからだ。しかし、母親から「鉄は熱いうちに打て」と強く言われ、田中は10月9日の2次試験受験を決意した。
「そこからは目まぐるしい日々でした。朝から講座を受け、終わったら製図板を持って稽古場へ。芝居を作り上げる中、少しの空き時間にも勉強という感じでした。共演者、スタッフの方々にも理解をしていただきましたが、やはり、『舞台に集中したい』と思う中、返ってきた宿題(製図)の添削には、先生から『練習不足』の文字。それを見た時は、辛すぎて涙が出てきました」
そして、公演千秋楽の翌日には、日本テレビ系連続ドラマ「霊媒探偵・城塚翡翠」の撮影がスタート。TBS系「プレバト」の課題で、水彩画を描くことにもなった。
朝4時半に起床、撮影、食事の合間に勉強…水彩画も
「朝は4時半に起床し、5時に自宅を出発。移動中に勉強しながら現場に入り、メイクをして8~17時まで撮影の合間に勉強。終わって家でご飯を作る時間がもったいないので、必ず日高屋さんに行っていました。そして、待っている間も、スマホに撮っておいた手本の製図を見ては、気付いたところをメモしていました。それが一番いい勉強法なので」
帰宅後は、すぐに水彩画に取り組んだという。
「5日間で計40時間をかけましたが、手が痛くなるまで描きました。その後は、製図の下書きをして、それを図面にしながら、頭に入れたせりふを復唱していました。舞台の時もこの同時作業をしました。睡眠はできるだけ取るようにしていましたが、2、3時間になることもありました」
プライベートを楽しむ時間は皆無に等しく、約1年3か月に及ぶ受験勉強の期間中、「お酒を飲んだのは友達と一緒の2回のみ」。好きな漫画、ゲームも封印していた。挑んだ2次試験は6時間半に及ぶ長丁場でベストは尽くしたものの、「合格」の確信は持てなかった。
「必要なマークを1つでも書き忘れていると、不合格になるからです。例えば、隣の建物から5メートル以内にある建物は、火事の時に火が移りやすいので、防火ガラスにする必要があります。なので、図面にも防火ガラスを示すマーク(防の1字を〇で囲む)を記していないと、それだけで法令違反になるので、試験もアウトになります」
不安と期待の中、田中は実家にいる母親と通話をしながら合格発表を待った。だが、指定の午前9時30分になるとアクセスが集中。約30分後にようやく開けたページで自分の番号を目にし、母子でうれし泣きしたという。
「涙が止まりませんでした。仮に落ちても、仕事に影響はない。それでも、やり切れた熱源は、『自分で決めたら』でした。仕事と勉強優先の日々だったので、縁が切れる人もいましたが、応援してくださった仕事先の方々、事務所、大学時代の同期、友人、家族に深く感謝しています」
唯一無二の存在、有名企業が「社外取締役」オファー検討
だが、1級建築士の免許を登録するためには、ここから2年以上の実務経験が必要になる。決して企業や団体に勤務する必要はなく、1級建築士の手掛ける仕事の補助でも、年数にカウントされるという。
「例えば、1級の資格を持つ大学時代の恩師が実務をする際、補助に入らせてもらうなどです。『2年以上』は累計ですし、試験合格から免許登録までの期限もありません。ただ、安心はしていられませんし、『受かったからには、(設計で)恥ずかしいことはできない』『もっと、勉強しなければ』という思いにもなっています」
今後は俳優活動、タレント業を続けながら、免許登録を目指すが、田中は既に一級建築士としての「夢」を抱いていた。
「将来は、学校の設計に携わりたいです。学校や子どもが使う施設は、創造性を生み出す場所。決まりきった形より、面白い形の方がいい。現実にそういった設計の施設が増えていますし、(研究で)海外の建築物も見に行きたいと思っています」
現役俳優であり、1級建築士試験に合格。唯一無二の存在になった田中への注目度は高い。ENCOUNT編集部の取材では、有名企業が「社外取締役」のオファーを検討中だ。時間を有意義に使い、努力を重ねた33歳。目の前には、明るい未来が広がっている。
□田中道子(たなか・みちこ)1989年(平元)8月24日、浜松市生まれ。静岡文化芸術大卒業。在学中、09年ミス浜松グランプリ、11年ミス・ユニバース・ジャパン3位、13年ミス・ワールド日本代表。16年10月期のテレビ朝日系「ドクターX~外科医・大門未知子~」を皮切りに多数の連続ドラマに起用。昨年は、テレビ朝日系「六本木クラス」、日本テレビ系「霊媒探偵・城塚翡翠」に出演。172センチ、血液型O。顔の小ささと高身長で「9頭身美女」と称されてきた。