“ロケの達人”が明かす過酷現場の舞台裏 ハリウッド俳優がレンチン、国民的女優の多忙撮影
映画やテレビ番組、CM、ミュージックビデオ(MV)などの撮影現場は、俳優やタレントの素顔が垣間見れる場所だ。有限会社ブレインの鈴木実さんはロケバスや劇用車を用意したり、ローケンションコーディネーターとして撮影場所を探すなど、本番の撮影に同行している。業界歴28年の“ロケの達人”が、大物有名人の大物たるゆえん、ロケ中のハプニングを明かす。
業界歴28年“ロケの達人”が明かす秘話
映画やテレビ番組、CM、ミュージックビデオ(MV)などの撮影現場は、俳優やタレントの素顔が垣間見れる場所だ。有限会社ブレインの鈴木実さんはロケバスや劇用車を用意したり、ローケンションコーディネーターとして撮影場所を探すなど、本番の撮影に同行している。業界歴28年の“ロケの達人”が、大物有名人の大物たるゆえん、ロケ中のハプニングを明かす。(取材・文=水沼一夫)
鈴木さんはこれまでタレントや俳優、ミュージシャン、モデルなど数多くの著名人と接し、その素顔に触れてきた。
まずはハリウッドで活躍する俳優のAについて某テレビ局での出来事。通常、相手が大物俳優となれば特別なロケ弁などが用意されるが、そのときは食事が用意されずにランチタイムを迎えた。
「スタジオで撮影だったんですけど、食事は用意されていないから、自分たちで食事をとって2時間後にスタジオに戻ってきてくださいと言われたんです。どうするのかなと思って、部屋でマネジャーさんと3人でいたら、『スーパーで買う?』と言ったので、『じゃあ行きましょうか』と一緒にスーパーに行きました。お弁当を買って、そこでチンして食べましたね」。ハリウッド映画にも出演するAは日本屈指の名優。その食事がスーパーでレンチンとは驚くしかない。
続いては、誰もが知る国民的女優のBだ。CMの撮影で、鈴木さんはロケーション探しに骨を折ったという。
通常は制作サイドが決めた時間で余裕をもって動いてもらうもの。ところが、Bは超多忙な売れっ子だ。優先順位は何よりも、Bの予定だった。
「Bさんのスケジュールに合わせて探しましたね。5時間しかないというときもありました。5時間の中で移動もして撮影、メイクもする。売れていれば売れているだけ、そういう条件もついています」。移動時間が少なければ、少ないほど撮影できるため、例えばカフェや海、山などの撮影スポットを一定の範囲内に集約する必要があり、コーディネーターの仕事のハードルはグッと上がる。大物ゆえのエピソードだ。鈴木さんはミステリードラマで有名な俳優Cのことも思い出した。「特番のとき、都心から1時間以内でこういうところを探してくれと。移動手段は何でもいい。電車でもヘリでもいいって言っていました」と、その豪傑ぶりを語った。
お次は、お笑いの大御所Dだ。鈴木さんの会社では、ロケバスより豪華なモーターホーム(改造キャンピングカー)を所有している。ソファやテーブル、トイレ、シャワーつきで、待機場所として大物俳優や成功している著名人に人気が高い。「モデルさんがペットを連れて来ることはよくあります。トイプードルや小型犬を連れて来ますね」。ロケバスに比べると、日常に近い空間で過ごすことができる。
そのモーターホームで、DのVIPぶりを目の当たりにしたのが、テーブルの上に置かれた弁当や菓子の量だった。
「大物になればなるほど、自らがCMに出ているメーカーのものを置いたりするんですけど、DさんなんかだとDさんが好きなものでテーブルがいっぱいになっちゃう。その量に驚いたことがありますね」。Dが好きないなりずしを始め、ステーキ弁当、和菓子、ようかんなどが山積み。「大御所の中でもDさんがダントツでした。滞在時間は3時間くらいです。スタジオ生放送があったので、ほとんど手をつけないまま行っちゃいましたね」
山梨でロケバスをコンビニに止めていたら…まさかの事故
元アイドルタレントのEは熱いハートで後輩にも慕われている存在だ。
「カレンダーの撮影があり、Eさんが乗る設定で業者の方にお願いしてベンツのオープンカーを持って行きました。僕はローバーミニで現場入りしました。『Eさんが入られます』と声がかかって、ベンツとミニが置いてあった。明らかにベンツが撮影用って分かるんですけど、Eさんはいきなり僕のミニに乗って、『よろしくお願いします!』と言ったんです。おちゃめな一面を見せてくれましたね」
大物歌手のFは休憩時間も忘れて、車トークに夢中になったことも。
「CMの仕事で昔のシボレーを用意しました。1969年式のインパラで新しいエンジンをスワップ(載せ替え)していました。Eさんはハーレーとか車が好きみたいで、本来1カットが終わるとセットチェンジするので、タレントも1回はけてまた呼ぶんですけど、セットチェンジしている間もずっとEさんは車にいて、車のお話をしていましたね。あまりタレントとお話をすることもないんですけど、『この車の仕様は何ですか?』とか『今、ベンツ乗っているけど同じことできるんですか』と質問や相談を受けました」
続いては映画監督のG。「その人の映画でアメ車を4~5台用意したんですけど、『1台爆破して、1台は爆破しないから同じ車を2台用意して』と言われて大変でした。中古車で全く同じ仕様はすごく困難なオーダーなんですよ。どこかカスタムで変わっちゃっていたりする。そのときは1台は中古車店所有の車を借り、もう1台はオークションで購入しました。フェリーに乗せて大島まで持って行きましたね」
撮影では当時は冷や汗もののエピソードもある。
「撮影現場の担当者に寝坊されちゃったことがあります。CMで朝日を撮ることが仕事でした。刻一刻と撮影時間が迫っていました」。場所は銀座のビルの入り口。屋上で撮影するために集まっていた。ところが、ビルのカギを開ける担当者が来ない。太陽は待ったなしだ。
「僕がたまたまビルなので入口を見ていたら、掃除のおばちゃんがいて、ドアをたたいて、すみませんって呼び止めて、開けてくださいと言いました。許可の取得はしていたので不手際を説明して、屋上まで入れてもらいました。事なきを得ましたが、撮影できないと大変なこと。40~50人がスケジュール調整して何か月も前から準備していますから」
山梨では“命拾い”したこともある。ロケバスでハウススタジオに到着する目前だった。
「早めに着いたので手前のコンビニの駐車場に止めて買い物休憩をしていたんですよ。そしたら、雪が積もっていたんですけど、ロケバスに車に突っ込まれたことがありますね。すごい勢いで歩道を乗り越えて、後部に追突されたんです」。その時、車にはスタッフが乗っており、撮影は中断に。「全員病院に連れて行って、診察しました。大ケガをされた方はいなかったんですけど、むちうちになった方はいましたね」。四半世紀も前の出来事だが、忘れられない記憶になっている。