全日本プロレス新時代の主役は? 群雄割拠の王道マットで新日に迫る切り札に名乗りをあげたのは
2022年、創立50周年を迎えた新日本プロレスと全日本プロレス。昭和の時代には拮抗していたが、平成を経て令和の現在、残念ながら全日本は新日本に大きく差をつけられた感を否めない。
毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.126】
2022年、創立50周年を迎えた新日本プロレスと全日本プロレス。昭和の時代には拮抗していたが、平成を経て令和の現在、残念ながら全日本は新日本に大きく差をつけられた感を否めない。
全日本には、いかにもプロレスラーという大型の選手が多く、パワフルで豪快な肉弾戦はド迫力だが、何かが足りない。「素材は良いのに味付けが……もったいない」と言う声がアチコチから聞こえてくる。
ここ最近、退団者が相次いだ。新日本のブシロード、ノアのサイバーエージェントのような巨大資本のバックボーンもない。先行きの不透明感をぬぐえないのも事実である。
とはいえ、ピンチはチャンス。「若き論客」青柳優馬は「全日本の未来、とはやし立てられた人間は、僕しか残っていない。未来を託された僕が全日本を引っ張っていきます」と自信満々に胸を張る。22年春のチャンピオンカーニバルでは最年少優勝を果たした。そのまま一気に駆け上ることはできなかったが、その存在感は大きい。
プロレスは、一人ではできない。対戦相手もいるし、タッグではパートナーもいる。「組んで良し、戦って良し」という相手が理想的なライバルと言える。
青柳にとって、その人物は野村直矢。19年末に全日本を退団後、怪我で長期欠場していたが22年春、北原光騎が主宰する「キャプチャー」で本格復帰を果たした。キャプチャーのベルトを保持し、古巣・全日本へも参戦している。
直矢はやられてもやられても何度でも立ち上がる。決してひるむことなく胸を突き出し、常に前へと出る潔いファイトで定評があり、若手時代から「プロレスセンスが良い」と評価が高かった。
直矢と青柳は以前も「ノムヤギ」としてタッグを組み、アジアタッグ王者にも輝いている。全日本の期待の星として期待は膨らんでいた。
直矢の退団によって、消えたかに見えた2人の物語が、運命の糸にたぐり寄せられ再始動。キャプチャーのREAL BLOOD12・26神奈川・川崎大会で復活したノムヤギは、スーパークラフターU、不動力也というベテランの実力者組と対戦。ブランクを感じさせない好連携で、見事、直矢がスーパーUをカタキトルで仕留め、勝利を勝ち取った。
この一戦を含め、この大会を裁いたガンダーラ鈴木レフェリーは「いろんな団体でレフェリーを務めているが、REAL BLOODのリングは本当に熱い」と興奮を押さえ切れなかった。
ノムヤギは年明け全日本の1・2東京・後楽園ホール大会で、レイとジュンの斉藤兄弟と世界タッグ王座次期挑戦者決定戦に臨む。斎藤兄弟は凱旋帰国後、ブードゥーマーダーズ入りし悪の道を突き進んでいる。大型の悪党パワーファイター相手にどのような試合を見せるのか注目だ。
22年の直矢は、アップダウンが激しかった。本格復帰し、キャプチャーのベルトも戴冠したが、王道トーナメントの最中にコロナ感染し、無念のリタイヤ。全日本50周年記念大会の9・18東京・日本武道館大会では、ジェイク・リーを秒殺し、翌9・19後楽園ホール大会で、3冠王者・宮原健斗に挑戦したが、あと一歩及ばず惜敗。期待された最強タッグリーグ戦にはエントリーされず、ファンの間に落胆の声が広がった。
ノムヤギが電撃復活「全日本に上がる以上は3冠も狙っていく」
ところが暮れにノムヤギが電撃復活し、世界タッグ王座も見えて来た。22年最終戦のREAL BLOOD12・26川崎大会を「マキシマムからのカタキトル」という必殺コースで締めくくった。ここ最近のもどかしさ、悔しさ、不運を一掃するかのようだった。「カタキトル」の文字通り、いろいろなものに敵を取ったのだろう。
「世界タッグはもちろん、全日本に上がる以上は3冠も狙っていく。やってやります!」と意気込み、今後のさらなる飛躍を誓った。また、その素質に注目している団体も複数ある。
青柳も「世界タッグ王者の2人が3冠をかけて対戦、なんて良いじゃないですか。是非、ノムヤギで実現させたい」と呼応。大みそかには年越しプロレスにも出陣する青柳は、いろいろなものを吸収し、全日本マットに還元したい考えだ。
また、23年は鈴木みのるが全日本マットに参戦する。久々の王道マットで「風になる」のか、それとも青柳がみのるの前に立ちふさがるのか、目が離せない。
全日本恒例のお正月興行後楽園ホール2連戦では1・2決戦では世界タッグ、1・3決戦では3冠戦と、連日タイトルマッチが開催される。
両日共に挑戦者としてエントリーされたのは、大日本プロレスの野村卓矢。1・2決戦の世界タッグ戦では、最強タッグリーグで優勝した宮原健斗と組んで挑戦。翌1・3決戦では、宮原の3冠ベルトに挑む。
卓矢は周りがどうあろうと気にせず「自分軸」を力強く貫き、試合運び等でも冷血ぶりが定着しつつある。全日本勢との体格差を、気の強さで補っている。どのように立ち向かうのか。「団体を背負って来い」と宮原に言われたからには、負ける訳にはいかない。ものごとに動じない「鋼のメンタル」で大日本の意地を爆発させてほしい。
全日本ひと筋のベテラン渕正信が「50周年はひと区切り。51年目からは全日新時代」とコメントしたように、新しいうねりが起こりそうな予感がする。
23年の全日本は、青柳が宣言通りに引っ張るだろう。ノムヤギのパートナー・野村直矢がキーマンとなり、鈴木みのるが激辛スパイス。
もちろん宮原も「最高男」として、まだまだエースの地位は譲れないところ。
そしてブードゥーマーダーズとして大暴れ中の諏訪魔も黙ってはいないはず。大巨人・石川修司もいる。石川と、徐々に全日マットになじんで来たサイラスのスーパーヘビー級コンビも脅威だ。
さらに、プロレス大賞新人賞受賞のスーパールーキー・安齊勇馬の成長も楽しみだ。
駒は揃っている。歴史も看板もある。まだまだ伸びシロはある。51年目の「全日新時代」。かつての様に新日本とのライバル時代の再来に向け、着実な一歩を踏み出しそうだ。