マッキンタイア、ニッキー、KLR…WWEに吹く「スコットランド旋風」をウォッチ!

スーパースター養成施設パフォーマンスセンターでの無観客による2日間(4・4&5)開催。新型コロナウイルスの世界的影響により、今年のWWE「レッスルマニア36」(WM36)は前代未聞の祭典となった。メインを締めくくったのは、難攻不落のブロック・レスナーからWWE王座を引っぺがしたドリュー・マッキンタイアである。

ドリュー・マッキンタイア (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.
ドリュー・マッキンタイア (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.

マッキンタイア、ニッキー、KLR…イギリス・マット界にとって重要な地域「グラスゴー周辺」

 スーパースター養成施設パフォーマンスセンターでの無観客による2日間(4・4&5)開催。新型コロナウイルスの世界的影響により、今年のWWE「レッスルマニア36」(WM36)は前代未聞の祭典となった。メインを締めくくったのは、難攻不落のブロック・レスナーからWWE王座を引っぺがしたドリュー・マッキンタイアである。

 マッキンタイアは「WM36」前の4月3日に紹介したように、イギリス・スコットランド出身のスーパースターだ。地元インディー団体でデビューし、一度は退団したWWEに復帰、今回の大チャンスをモノにした。イギリス人がWWE王座を獲得するのは、彼が初めてという快挙。ヨーロッパ出身者では、アイルランドのシェイマス以来、約4年ぶりの出来事だった。

 待望の新王者誕生で新章の幕を開けたWWE。そういえば「WM36」初日のオープニングマッチでは日本人スーパースター、カブキ・ウォリアーズのアスカ&カイリ・セイン組から前王者アレクサ・ブリス&ニッキー・クロス組がWWE女子王座を奪回した。アレクサがブリブリなアメリカンガールである一方で、ニッキーは訛りが超強烈なスコットランド人。気づいたWWEユニバースは少ないかもしれないが、今年の「WM」はスコットランドで始まり、スコットランドで幕を閉じたのだ(イギリスのWWEユニバースは歓喜に包まれたと思われる)。また、各タイトルを見渡してみるとスコットランド人が多いことに気づく。これはちょっとしたスコットランド旋風なのか(ちなみにヨーロッパ勢ではアイルランドのベッキー・リンチがロウ女子王者、ジョーダン・ダブリンがNXTクルーザー級王者。イングランドのピート・ダンがNXTタッグ王者となっている)。

アレクサ・ブリス&ニッキー・クロス (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.
アレクサ・ブリス&ニッキー・クロス (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.

いまやグラスゴー周辺はイギリス・マット界の重要地点

 WWE王者がマッキンタイアで女子王者がニッキー。NXT UKタッグ王者が“ガルス”マーク・コフィー&ウルフギャング組、NXT UK女子王者がケイ・リー・レイだ。UKはイギリス・ブランドだから当然と思われても仕方がないが、タッグ、女子ともイングランドではなくスコットランド生まれということがポイント。イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから成る連合王国である。国民はそれぞれの出身国にプライドを持っており、スコットランド出身者にイギリス人かと聞けば必ずと言っていいほど「私はスコットランド人です」と返される。

 しかも、現王者たちはスコットランド第2の都市グラスゴー、あるいは近郊出身者でかためられている。UKタッグ王者は2人ともグラスゴー生まれで、ニッキーとケイ・リーも同郷だ。マッキンタイアはグラスゴーから南へ車で45分ほどのエアーがホームタウン。エアーはニッキーやケイ・リーのライバルでもあるパイパー・ニーヴン(バイパー)も輩出している小さな田舎街。エアーの人たちが仕事や学校に出かけるのはもっぱらグラスゴーなのである。しかも決して彼らだけではない。いまやグラスゴー周辺は優秀なレスラー生産地と言えるほど、イギリス・マット界にとって重要な地域となっている。

 ではなぜ、スコットランドの首都エディンバラではく、グラスゴーなのだろう? エディンバラより人口が多いから。それもあるかもしれない。経済においても、むしろグラスゴーが中心だ。文化的側面でもグラスゴーはスコットランドで一番。実際、多くのアーティストがこの街から世界に飛び出している。訪れてみるとどんよりした雰囲気がぬぐえない街ではあるけれど、だからこそ大都会、世界に飛び出したいとの欲求に駆られるのか、プロレス界にも同様のことが言えるらしい。

ケイ・リー・レイ  (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.
ケイ・リー・レイ  (C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.

なぜスコットランドから優秀なレスラーが続々現われるのか?

 グラスゴーを拠点とするプロレス団体も存在し、PBW(プレミア・ブリティッシュ・レスリング)やICW(インセイン・チャンピオンシップ・レスリング)が代表格。ともに06年に旗揚げし、現王者たちはこれらの団体を中心に腕を磨きチャンスをうかがってきた。地元にとどまっていては一生チャンスに恵まれないとわかっていても、だ。だからこそ知りたかった。どうしてスコットランドから優秀なレスラーが続々現われるのか。何年か前、あるレスラーに聞いたことがある。すると、その選手はこう答えてくれた。

「やっぱり都会への反骨心があるんじゃないかな。グラスゴーはスコットランド最大の都市ではない。その上、どうしてもイングランドより下に見られがちだ。だからこそ、なにクソと奮起するんだよね。世界的に有名ではないかもしれないが、指導する人たちも優れている。“発掘”されれば、オレたちはスコットランド人の誇りを持ってリングで闘うよ」

 彼の言う発掘される機会が増えたことも功を奏した。イギリスのプロレスはイングランドのランカシャー地方から発展したが、いまではスコットランドのグラスゴーが中心と言えるかもしれない。NXT UKの誕生は、スコットランド・プロレスの進化と無縁ではないのだ。WWEを通じ、現地レスラーのクオリティーにようやく世界が気づいたということなのだろう。頂点に立ったマッキンタイアには、バグパイプのテーマ曲がよく似合う。
(日付はすべて現地時間。王座は2020年4月10日現在のもの)

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