台風で不通、動態復元に3億円 それでも大井川鐡道が解体寸前のSLを復活させる理由
静岡県の大井川鐡道では、今年9月から11月に蒸気機関車(SL)C56 135号機を本線上で運転可能な「動態保存」を目指して、クラウドファンディングを行った。老朽化が止められず保存運転から引退するSLも各地であり、さらに大井川鐡道は9月に台風15号から受けた被害で運休が続いている。苦境の中、あえてSL復活を目指す理由とは。
「SL保存運転のトップランナー」を自負 苦境でも保存機を増やしSLの文化を維持へ
静岡県の大井川鐡道では、今年9月から11月に蒸気機関車(SL)C56 135号機を本線上で運転可能な「動態保存」を目指して、クラウドファンディングを行った。老朽化が止められず保存運転から引退するSLも各地であり、さらに大井川鐡道は9月に台風15号から受けた被害で運休が続いている。苦境の中、あえてSL復活を目指す理由とは。(取材・文=大宮高史)
9月23日に台風15号の大雨により、大井川鐡道は本線(金谷~千頭)と井川線(千頭~井川)の全線が一時不通になったが、順次運転を再開。全線で運転を見合わせていた本線は12月16日に金谷~家山間で約3か月ぶりに運転を再開し、SL列車「かわね路号」も運転を再開する予定だ。
C56 135号機の動態復帰を目指すクラウドファンディング(CF)は9月20日から11月30日まで実施し、目標額1億円に対し約8300万円を集めた。
同社ではC56 44号機という同型のSLも運行していたが、44号機は2019年から不具合のため運休中。すでにC10・C11の2機種の機関車を保有しながら、また新たにC56の復活を目指す意図を大井川鐡道はこう話す。
「運転中のSLも老朽化が進んでおり、当社が目標とする年間300日のSL運行のため、運用可能なSLを4両から5両に増やす一環として、新たに135号機を導入しました。創業100周年の2025年までに本線運転可能とすることを目指します」
1938年製造のC56 135号機は1975年に鹿児島・吉松機関区で一度廃車になり、兵庫・加東市の播磨中央公園で保存されていたが、露天で雨ざらしになり劣化も進行。撤去が決まっていたところに大井川鐡道から譲渡の申し入れがあった。同社の調査で、本線運転可能な状態であることがわかり、このたび復旧費用の一部をCFでつのることになった。
とはいえ、動態復元の費用は総額約3億円にのぼり、CFでまかなえるのはその3分の1弱にとどまり、残りの費用は自己調達でまかなう方針。動態復帰後も車齢80年超えのSLの運行維持は容易ではない。JR九州の「SL人吉」用58654号機は老朽化と部品調達の困難のために2024年3月での引退が発表済である、JR東日本の「SL銀河」用C58 239号機も、23年春のSL銀河の運転終了をもって定期のイベント運転がなくなる。大井川鐡道においても、19年頃から保有SLに不具合が多く発生するようになり、電気機関車が代走に入ることも。1度は同線で動態復帰したものの状態がよくなく、再度引退となった車両もある。
C56は石炭と水を搭載する「炭水車」と機関車本体で構成される「テンダー機関車」で、同社で運行中の機種よりも大型で保守コストと手間がかかる。この点も「車体が大きい分保守の手間もかかりますが、本線の全線運転再開を目指すとともに、SLもC56を含めて3年後には安定して運行をできることが目標です」と同社は話す。
大井川鐡道のSL保存運転は国鉄のSL全廃翌年の1976年に始まり半世紀近くにわたり、「SL保存運転のトップランナー」を自負する。この歴史を途絶えさせないために、苦境の中でも保存機を増やし、SLの文化を維持しようとしている。