天国で再会したBI砲・馬場と猪木 日本プロレス界の誇る2大偉人の“らしさ”とは

12月2日、3日といえば、日本マット界をリードしたBI砲ことジャイアント馬場、アントニオ猪木、両人にとって「らしい日」だ。

このアントニオ猪木の笑顔に元気をもらった人は多い【写真:柴田惣一】
このアントニオ猪木の笑顔に元気をもらった人は多い【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.122】

 12月2日、3日といえば、日本マット界をリードしたBI砲ことジャイアント馬場、アントニオ猪木、両人にとって「らしい日」だ。

 1974年12月2日、馬場は日本人初のNWA世界ヘビー級王座を獲得している。当時のNWAベルトは、世界最高峰だった。NWAは1940年代に米国で設立されたプロモーターの組織で、全米各地に存在したプロモーションを統括していた。

 ルー・テーズ、ジン・キニスキー、ドリー・ファンク・ジュニア、ハーリー・レイスなどの実力あるレスラーたちが王座に就き、WWF(現WWE)が台頭する1980年代前半まで、そのベルトは輝き、権威のある重いものだった。

 馬場はジャック・ブリスコを下し第49代王者となった。その後もレイスに勝利し79年10月に第55代、80年9月に第57代の王者としてNWAの歴史にその名をしっかりと刻み込んでいる。

 90年代以降、何人かの日本人レスラーがNWAベルトを腰に巻いたが、黄金時代のNWAを制したのは馬場一人と言っていい。選手としてはもちろん、プロモーターとしての馬場の顔の広さ、信頼度の高さを物語っている。

 猪木もNWAに加盟を許されたが、NWA王座挑戦は許されなかった。そこで異種格闘技戦に乗り出すなど、新たなバトルフィールドを開発することで、猪木・新日本プロレスは、馬場・全日本プロレスに対抗し人気を集めたのだから、反骨の男・猪木らしい。

 プロレス界の枠から飛び出していった猪木は政界に進出。1990年には参議院議員として、イラクで人質にされていた日本人の救出を目指した。

 日本政府の協力を得られず、トルコ航空をチャーターし人質の家族とともにイラク入り。私も同行した。12月2、3日にはバグダットで「平和の祭典」が開催される。

 解放に向けて話し合いが続けられたが、帰国便の出発日までにはかなわず、猪木一行はバグダット国際空港に向かった。

 荷物もチェックインし、待合室で待機しているとき、イラク当局から情報がもたらされた。もう少し待てば、朗報が届くかも知れない……。

 猪木はバグダット市内に引き返すという。かといって確証はない。チャーター便に乗らなければ、帰国も難しくなるかも知れない。

 当時は携帯電話もなく、国際電話も自由にはかけられない。私とカメラマンは猪木と運命をともにする覚悟を決め、猪木、人質の家族と行動をともにすることにした。予定通りに、帰国便に乗り込んでいくメディア仲間を見送るときの切なさを、今でも鮮明に覚えている。押し寄せて来る不安は「猪木さんと一緒なんだから大丈夫」と、思いこむことで消えていった。

 すでに飛行機に運びこまれたスーツケースは戻って来るのか、などと心配しながらホテルに戻った。日本との時差を考慮しながら、10分でブチ切られる国際電話で会社に報告。事後承諾を得て、イラク滞在を伸ばした。

 当初の帰国予定日を過ぎても音沙汰無しとあって、家族が会社に「何かあったんでしょうか」と電話したそうだ。後々になって聞かされた。

 ほどなくして、何やかんやをすべて吹っ飛ばす歓喜の瞬間が訪れる。黒塗りの高級車に分乗した人質の皆さんが次々とやってきた。待ち構えた家族たちとハグ。猪木は一人ひとりとがっちり握手。私も歓喜の輪に加わっていた。

 帰国には日本政府がJALの特別機を用意してくれた。私も同乗。経由地で荷物を預ける姿を「解放された人」として、新聞の1面に載ってしまった。

 帰国後、学生時代の友人から久しぶりに電話があった。「お前、人質だったんだ」……誤解を解きながら、近況を報告しあったのも楽しい思い出だ。

 しばらくして爆撃されるバグダットの様子が伝えられた。湾岸戦争の勃発。見覚えのある建物から煙があがっている。案内人を務めてくれた人たちは無事だろうか。イラク市民は気さくで優しい人ばかりだった。心が締め付けられた。

 この時期になると思い出す。馬場がNWAのベルトを悠然と巻く姿と、イラクでの猪木の歓喜の表情を。2人とも輝いていた。

 馬場は1999年1月31日、今年10月1日に猪木も亡くなった。2人は天国で再会したことだろう。「寛ちゃん、きたか。お前は、好きにやったから思い残したことはないだろう」「馬場さん、元気でしたかー?」……どんな思い出話をしているのだろうか。楽し気な様子が浮かんできた。(文中敬称略)

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