中絶、配偶者の同意は必要か? 望まぬ妊娠 当事者の悲痛な声「医師から侮辱的な言葉を…」
在学中の妊娠や経済的困窮など、さまざまな理由からやむを得ない選択肢として認められている人工妊娠中絶。しかし、中には男性側の同意が得られず、望まぬ妊娠継続や出産を選択せざるを得ない女性もいる。女性が中絶する自由について、社会はどのように考えるべきなのか。中絶に際し、配偶者同意をなくすことを求める署名活動「ウチらのリプロジェクト #配偶者同意なくそ」発起人の梶谷風音さんに、人工妊娠中絶をめぐる実情を聞いた。

配偶者同意要件によって望まぬ出産を強いられるケースも
在学中の妊娠や経済的困窮など、さまざまな理由からやむを得ない選択肢として認められている人工妊娠中絶。しかし、中には男性側の同意が得られず、望まぬ妊娠継続や出産を選択せざるを得ない女性もいる。女性が中絶する自由について、社会はどのように考えるべきなのか。中絶に際し、配偶者同意をなくすことを求める署名活動「ウチらのリプロジェクト #配偶者同意なくそ」発起人の梶谷風音さんに、人工妊娠中絶をめぐる実情を聞いた。
日本では現在、母体保護法によって、妊娠22週未満までの人工妊娠中絶が認められている。一方、手術には原則配偶者である男性側の同意が必要で、さまざまな理由から相手の同意を得られないケースも存在する。
「中絶を選択する際、医療機関から配偶者同意要件のもと男性の同意を求められた方のうち、約8割が相手は配偶者ではなかったとする調査結果もあります。本来、こういったケースでは配偶者同意は必要ありませんが、医療機関が後々男性側から訴えられることを恐れ、かたくなに同意を求められることが多いのが実情です。DV被害や、男性が認知をせず逃げてしまった場合など、仕方なく同意書を偽造せざるを得ない場合もあり、中にはそれすらできず、そのまま出産に至ってしまうケースもある。女性の自由な自己決定権が奪われているのが現状です」
梶谷さんの団体では今夏、配偶者同意に関するアンケートを実施。58件の自由回答が寄せられ、そのうち13%もの女性が望まぬ出産を強いられたという。自由回答の中には、「妻帯者の子どもだったので産めないと分かっていたし、そのような話の末に不仲になるのも嫌だった為に切り出せなかった」、「ストーカーレイプだけでもぼろぼろだったのに、淡々と説明されて『気をつけないとだめよ!』と責められた」、「顔も見たくない加害者に、気を持たせるようなこと言ったりして頼み込んでサインしてもらった。屈辱でした」と当事者からの悲痛な声が並ぶ。
また、「DVされており、警察に相談し、保護され、会わないようにしてもらっていることもお医者様に伝えていたにもかかわらず、相手の同意がないと無理だと言われ続け、20週をこえ、本当にギリギリで警察の方に立ち会っていただいてようやっと同意書をもらい、中絶できました。あの時に絶対に同意書をもらえなかったら……と思うと恐怖でいっぱいです」という切実な事情を抱えたものや、「最終的には断られなかったが、相手の名前は分からないと言っているのに同意書必須で折れないのが意味不明だった。結局『適当な名前を捏造します』ということで妥結したが、それで通るのもおかしな話」という、制度の形骸化を指摘するものも。配偶者同意が時代にそぐわないものとの見方も少なくない。
医療機関での過度な罪の意識の植え付けがトラウマとなっているケースも
さらに、「検査の台の上で無防備な状態でいたとき、不意に看護師に頭を両手で捕まれ、首を動かされました。問答無用で『胎児が映っているモニター』を見ろと強制されたのです。何年も動く胎児の姿が脳裏に焼きついて離れず苦しかった。入院した夜は、赤ん坊の泣き声が聞こえ責められているようでつらかった」、「事情を知りもせず尋ねもしないで、『同意の上でのこと、つまり和姦(わかん)だったのでしょう。強姦(ごうかん)だったら訴えればいいんだから』『全部自分が悪いんでしょう』と医師から一方的に決めつけられ侮辱的な言葉を投げつけられました。『和姦』というおぞましい言葉そのものがショックで耐え難く、ニヤニヤ笑いながら見下した態度が今でも突然目の前に浮かんできて眠れなくなることがあります」など、医療機関での過度な罪の意識の植え付けがトラウマとなっているケースもあるという。
WHOのガイドラインでは中絶に本人以外の第三者の同意を要件にしないように求めており、2011年に日本へ配偶者同意の廃止を勧告。2016年には国連の女性差別撤廃委員会も同様の勧告を行っている。当事者である女性の望まない妊娠継続や出産をなくすためには、どんな具体策が必要なのか。
「配偶者同意の元では、女性が中絶を選択する権利がなく、男性に出産を強要されている。中絶が難しいケースは費用が高すぎることと男性の同意を得られないことが大きな原因です。中絶の選択には男性が関与する余地を狭めていくことが必要だと思います。女性の体の中で起こっていることは女性自身が決めるのが当たり前のこと。女性が自分の体のことを自分自身で決められないのは人権侵害に他なりません」
人工妊娠中絶をめぐっては、世間全体でまだまだ偏った見方が多いのも事実だ。望まない出産を減らすため、そして不幸な出自の子をなくすためにも、さらなる議論が必要なようだ。
