梨泰院雑踏事故、来年のハロウィーンはどうなる 名作「梨泰院クラス」に負のイメージ
韓国・ソウル市龍山(ヨンサン)区梨泰院で発生した大規模雑踏事故により156人が死亡した悲痛な事件。大惨事となった原因について当局が捜査を行っているが、現地メディアは「警備の不備による人災」と指摘しており、その警察にも捜査が入るという異例の事態となっている。国民の反応についてソウル在住のメディアプロデューサー・文恵子氏は「SNSなどでは事故原因を警察のリスク不感症や怠慢と指摘する声が多く、避けられる事故であったと分析しています。事件から1週間がたちましたが、政府への失望、責任を問う声が激化しています」と韓国社会の今の空気を語る。
他の場所では再現できない多様性、打撃は長期化か
韓国・ソウル市龍山(ヨンサン)区梨泰院で発生した大規模雑踏事故により156人が死亡した悲痛な事件。大惨事となった原因について当局が捜査を行っているが、現地メディアは「警備の不備による人災」と指摘しており、その警察にも捜査が入るという異例の事態となっている。国民の反応についてソウル在住のメディアプロデューサー・文恵子氏は「SNSなどでは事故原因を警察のリスク不感症や怠慢と指摘する声が多く、避けられる事故であったと分析しています。事件から1週間がたちましたが、政府への失望、責任を問う声が激化しています」と韓国社会の今の空気を語る。
梨泰院は戦後、米軍基地の歓楽街として発展。地域のランドマークとなっているハミルトンホテル周辺地域の飲食店に米軍人や外国人観光客が多く訪れ、1997年に観光特区に指定された。フランス料理店からアフリカ料理店、国籍不明の創作料理店やゲイバー、韓国最初のモスクであるソウル中央モスクも梨泰院に位置している。その多様性は韓国の他の場所では再現できない、とも言われている。しかし、この梨泰院も何度か危機を経験している。80年代には、ソウルで最高人気のディスコがオープンしたが、エイズ余波でブームが終焉(しゅうえん)。クラブで多数のコロナ感染症患者が確認され大打撃を受けたのもこの街だった。
梨泰院と言えば、Netflixで配信された韓国ドラマ「梨泰院クラス」の舞台となったスポットだ。人気を背景に日本でもリメーク作「六本木クラス」がテレビ朝日系で放送されたばかり。韓国へのビザなし渡航が再開され、「梨泰院クラス」の聖地巡礼を望んでいたファンは多いだろう。ドラマ「梨泰院クラス」にはハロウィーンのシーンが登場し、梨泰院という街を象徴する人物として知られる俳優のホン・ソクチョンが本人役で出演している。ソクチョンは2000年に同性愛者であることをカミングアウトしたため、芸能界から干されてしまった時期がある。生活のため梨泰院でレストラン事業を始めたところ大成功して梨泰院を象徴する存在になった。
「梨泰院クラス」は、主人公のパク・セロイが中卒前科者、店のマネジャーのチョ・イソがソシオパス、店員のチェ・スングォンが元ヤクザ、料理長のマ・ヒョニがトランスジェンダー、アルバイトのキム・トニーがギニア出身のダブルルーツという設定で、マイノリティーと多様性がモチーフとなっている。「梨泰院はクラブで発生したコロナクラスターで大打撃を受けて一度は死んだ街でした。その梨泰院が復活するまさに絶好の機会がハロウィーンであり、それをさらに盛り上げたのがコロナ禍におけるドラマ『梨泰院クラス』の世界的ヒットでした。変わらず聖地巡礼を楽しみに訪れる観光客は後をたたないと思いますが、ドラマによって夢、青春、成功、チャレンジなどポジティブの代名詞となった“梨泰院”という地名に、悲しみや怒り、失望など負のイメージが上書きされたのは否めません」(文氏)
ところで、来年のハロウィーンの開催はどうなるのだろうか。「ハロウィーンの代替地候補としては10万人規模の群衆が集まれるデモのメッカの光化門やヨイド、緑地化された広場がある蚕室(チャムシル)のオリンピックスタジアムとその周辺、週末ごとに多くの若者が集まる弘大(ホンデ)、映画祭などの実績から仕切り可能な釜山などが挙げられますが、ハロウィーン自体の是非が問われる中、代替地として名乗りを上げる地域は出てこないのでは」(文氏)
梨泰院惨事の発生から続いていた国家哀悼期間は5日で終わった。梨泰院周辺では徐々に店舗の営業が再開されており、観光客の姿も見られるようになったというが、それでも今回の雑踏事故の打撃はあまりに大きい。梨泰院が復活するまで相当の時間がかかりそうだ。